2-⑤いろんな動き

もともと業務が異なるので業務上のやりとりはほぼなかったネロさんとあたしだったが、雑談も一切しなくなった。

もともとあたしは雑談や井戸端会議が好きではないので、業務外であまりしゃべることはなかったのだが、その上に目にはみえないけれども明らかな冷たい空気が漂うことになり、「仕事はたのしく」を掲げている社長などはたいへん気にしていたようで、
「こっそり二階に上がってドアのガラス窓からネロさんと蘭さんの様子を見ては、落ち込んでいましたよ」
と当時は親しくしていた猫田さんが教えてくれた。

そういう状態が一、二か月ほど続いただろうか。
以前から二時間かかる通勤が苦痛だ(でもそれ、じぶんで選んだんだろ)と言っていたネロさんの負担軽減を考慮する、といった大義名分でネロさんは完全在宅勤務になった。これであたしも精神的にラクだし、いつも通勤について愚痴っていたネロさんも念願の在宅勤務になれてむしろ、あたしを怒鳴りつけていいほうに転んでよかったじゃん、という結果になった。

蟄居のような形になったネロさんをよそに、会社では相変わらずいろんなひとが出たり入ったりしていた。
とくに飲食業のほうでは、クセのあるひとが多いようでひとの出入りも激しく、なかには住まいがないからと社長に金を借りて賃貸契約結んで住んでた賃貸を捨てて飛び、残ったのは社長への借金と汚部屋だけというヤツもいた。ほかのスタッフ間や経営上でもなにかと問題が起こっては、「どう解決したらよいか」を店長や料理長、マネジャーをオフィスまで足を運び、あたしらまで加えて話し合うよう社長が指図するのだけれど、なんだか低レベルのひとたちが社長のリクエストに応えるためだけに、実りのない表面上の話し合いをしているだけにあたしの目には映った。

あたしはぐいぐい取り立てられて、その後の人事採用の書類選考や面接の場で部長くんに頼られていたわけだけれど、実はあたしに決定権があることでも、面接にやってくる応募者のなかには女性でこまめに立ち働いているあたしが一番下と踏んで見下した態度をするひとも結構多く、自分が面接を受けるときは気をつけよう、と思ったことだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?