3-④ブリリアント急襲(1)

ゲンくんが「引き継がない」ときいたのは8月23日のことだった。
すぐ弁護士にLINEグループで尋ねてみると、当然ながらそちらには報告済みで、月末締めの会社なので8月31日に契約終了の運びになっているという。
「店のものを持ち出さないよう、蘭さんと照山さんで店に行って、店のものの写真を撮ってきてください」
という社長のお願いだそうだ。
あたしが思っていたよりも、社長はゲンくんのことを信用していないらしい。

何も言わずにいきなり踏み込んでやろうかとも思ったが、こないだみたいに行ってみたものの鍵が閉まっていて、という状況になってしまうかもしれない。かといってモノを持ち出したり隠したりする時間的余裕も与えたくない。考えに考えて、水曜日に行くことにして前日の夕方
「社長にお店を確認したいと言われたので、明日朝10時に照山さんとお店に行きます」
という連絡をした。
ゲンくんからは「承知しました」という返事があった。

翌日。
繁華街にあるお店に行くから、ちょっとおしゃれしなくちゃ~♪と準備をしているとゲンくんから携帯に電話がかかってきた。
電気がつかない、でもお金は払った、でもついてない。などと猫田さんと同じく、要領を得ない話なので「時系列に話してください。まず、これが、こうなの?」と順番に話させ、質問をしてようやく事態が把握できた。

・店の電気契約種別は
 1)冷蔵庫等厨房機器用
 2)電灯用
 の2種類あり、
 1)のほうはあたしを通じて弁護士に渡し、支払い済みだが、
 2)の方の請求書を渡し忘れており、昨日店に来たら電気がとめられていた。

・関電に連絡し、昨日中に手持ちの預かり金で支払いは済ませたが、
 今朝来てみても電気がつかない。

・関電に連絡をとると、支払い情報伝達のギャップによるもので、
 じき電気が通じるはず、とのことだが、
 皆さんが来られる時点ではまだついてないかもしれない。

うぬー、ゲンくんらしい。

社長が逮捕され、請求書類は津野田法律事務所に渡すとなったとき
「請求書類にはどのようなものがあるか」
とゲンくんに尋ねた。

ガス代、電気代、ごみ収集、酒屋さんの支払い。
これだけだと、尋ねたときゲンくんは言った。
ゲンくんが出来ない君であるのはわかっていたので、思いつく支払については「これはどう?」ときけたのだが、いかんせん、こちらは飲食業について素人なので店舗にどんな支払いが必要なのか把握できておらず、こちらの思いつかなかった支払いがあとからあとから出てきた。
おしぼり、USEN、その他滞納していた分などがボロボロと。

平気な顔して
「忘れていました」
と言って出してくるので
「え?これですべてだと、以前言ってなかったっけ?」
と内心むっとしながら弁護士に渡していっていたが
つくづくあきれたものだ。それでも最後ではなかったらしい。

猫田さんもそうなのだが、時系列、順序だてて整理してものをしゃべるということができないし、「これで全部です」「完了しました」「間違いありません」と言ってそうでないことが多すぎる。
「これで全部、と言ってませんでした?」
「間違いないはずではなかったのですか?」
と言うと猫田さんは「勘違いでした」「確認不足で、申し訳ありません」などと言ってそれで終わったと思っていやがる。
素直なのはいいことだが、謝ればいいというものでもない。ゲンくんに至っては「あ、はあ」程度で謝りもしない。

この人たちとまともに向かい合うととても疲れるし、社長はよくやっていたなあと思う。

ゲンくんからの電話のあと、とりあえず照山さんにLINEで急ぎ状況を説明し、あたしは弁護士関連で対応するべきことができたのですこし遅れます、ろうそくつけて百物語でもやっといてくださいと連絡するとそこは照山さんも乗ってくれて「お盆も終わったばかりなので、ちかくの百均でロウソクまだ売ってるといいのですが」と返してくれる。たまには、気が利くこと言ってくれるじゃないか。

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