3-⑦ なにをどうするか

約束した日時に堀田さんは来てくれて、さっそく店内に案内する。

お手伝いをお願いした数日後にたまたま近所のバーで会ったので、
社長が逮捕されてあたしが店舗の片付けをすることになった顛末をざっと説明してある。

ゴミと物品でいっぱいの店の入り口で
「ここ、ここを空っぽにしないといけないんです」
「ちょっと見てまわっていいですか」
「はい、お願いします!」

厨房にはいり、冷蔵庫、冷凍庫類を確認した堀田さんは
「使ってないですよね?電源切りますよ」
と言ってバチっと冷蔵庫の電源を切ってくれた。
製氷機は照山さんがオフしてくれていたが、使わない冷蔵庫の電源落としていいものか、あたしでは判断つかなかったし、そもそもスイッチの場所がわからんかったから助かった。そののちの2か月間の電気代もだいぶ浮くことになるのだった。

「居抜きできないんですかね?」
「原状復帰返し、と言われてます」
「壁画を消す業者を探すのを一番急いだほうがいいと思います。もしこのままでいいんだったら、内装代も浮くから大家さんに確認したほうがいいですね」
「はい」
「食器類とか、ここいらの飲食店のひとたちに声かけて、限られたひとだけで販売会したらいいかもしれませんね。俺、声かけられますし」
「ありがとうございます!」

「あのお、このビールケース、炭酸水ケースって酒屋さんに連絡して引き取ってもらえばいいんですかね」
「ああ、酒屋ですね」

店内をざっと見て、あれはこう、これはこうして始末って段取りですね。
というようなことをパパっと手早く教えてくれて、堀田さんは去っていった。

その後もその業界のひとは当然知ってること、モノ、誰に連絡して始末つけていくのかを堀田さんの店に飲みにいくふりをしてに尋ねては、テキパキと教えてもらった。LINEでの質問にも快く答えてくれた。

その後、セカンドオピニオンも欲しくて15年来の友人のそーた君に連絡をとった。
2年中国に行ってみたり、あちこちの店のシェフやったり雇われ店長やったりした挙句、飲食店はじめてなかなかに成功しているそーた君も、複数店舗展開しているのでなにかアドバイスもらえるんじゃないかと思ったのだ。

簡単に事情説明して(「なかなかヘビーだね(笑)」)
「スケルトンで返さないといけないの」
「まじか。退去日延長できるか、確認しといたほうがいいかも」
「え。そうなの」2カ月なら余裕で片付けられると思ってた…。

やりとりしていて内容から気づいたそーた君が
「あのね。『スケルトン』て二種類あって、いわゆる原状復帰ってやつと、ほんとに何もかも取り去ってコンクリートむき出しの箱だけの状態で、トイレ作ってたらトイレもつぶさなきゃいけないやつがあるんだ」
「あ!原状復帰のほう」
「そかそか、よかった。それなら2か月で大丈夫だね」

その流れから、「備品買取とゴミ処理、一気にやってもらったほうが楽でしょ」と業者を紹介してくれた。
堀田さんも「業者紹介できます」と言ってくれていたけれど、なんとなくこの流れからそーた君に紹介してもらったほうがいい気がしたのだ。堀田さんは業者の力を借りるのは最小限にしてできるだけなんでも自分でやる系、そーた君は「自分が楽なのがいいでしょ」系で、いまのあたしは後者がよかったからだ。そーた君に紹介してもらった業者に連絡し、見積もりに来てもらうことになった。

堀田さんに声をかけるまでは、ほんとに何をどうしていいのかわからない状態だったのが、すこしずつすこしずつ、絡まった糸がほぐされていくようにあれこれの進め方がわかってきて本当にほっとした。

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