2-③やはり人間関係はむずかしい

会社で働く人々の様子をみていると、社長ひとりが頭がきれ、行動力があり、また社会経験も豊富で適切に判断しながら諸方に神経を配りながら思いやりをもって動いていたけれど、八田さんをはじめとするほかのひとびと―配送業のひとも、飲食業のひとも―連絡の仕方、ものの言い方、コミュニケーションの取り方、なにをとっても「まともな社会人経験ないのか?」と絶望させられた。

転職の際は前職と比べてはならぬ、というもののどうしても比べてしまう。
あたしの前職は、その業界では世界トップクラスを標ぼうするところで、また実際に技術は最先端、日本はもちろん、各国の偉い方のご来訪などがあり、そういった組織で働くにはつとめて機能的でなければならなかった。その経歴もこの会社に採用の際に高く評価されたわけだけれども、その経験のある自分からみると、みなさんのレベルがあまりにも低すぎてガッカリだった。その中で、世界を渡り歩いてそれなりに大会社ともやりとりのあったネロさんは唯一、あたしにとってはまともな人に映り、みなさんをみて脱力しかけては「ネロさんがいるから、あたしもやっていける」とひそかに思っていた。唯一話の通じるひとだと思っていた。

そんななか、数か月たって、ジョンウさんもやめてしまった。

大学も卒業したばかりでまだ若く、日本語専門学校もでて日本語が達者で
日本できつい営業の仕事をこなした経験のあるジョンウさんは、自分が成長して活躍できる仕事を期待して入社したのに、当初言われていたような活躍ができる仕事がなく、日々が漫然と過ぎていくことに不満を抱いていた。また、あたしが内心ひそかに「部長くん」と呼んでいた(肩書に比して、とんだお子ちゃまだからだ)八田さんは外国人への対応経験がなく、いや普通の日本人でも彼の説明や指示は意味不明、その八田さんへの不信感も募らせていた。だんだんと出勤日が減り、やがて辞めていった須賀さんを見習って、ジョンウさんも「体調が悪い」と言っては休む日が増え、最後は出勤しないまま、LINEや電話で八田さんと社長と話をして退職を決めたようだ。

あたし?あたしはというと、もういい加減トシなんでのんびりやれるならいいや~、と怠け癖もほどほどに、これまでの経験をハッキしてうまく部長くんにとりいっていたので居心地よかったし、スタートは薄給だったものの、部長くんが社長にかけあってたちまち昇進・昇給したのだった。コミュ能力あるし、1言われたら10汲み取ってあれこれを調整できるし、古参社員の苦手なパソコン関係は普通にできるし、いちお語学もできるし、あたしにとっては「普通」のことが、彼らにとっては「有能」だったわけ。

しかし、その有能なあたしも人間関係のトラブルに巻きこまれてゆくのだった。

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