3-⑤ 片付けのはじまり

まずはテナントの解約通知を記入して発送、それから帳簿だ。
今月の分、先月の分、先々月の分と比較確認して頭の悪いゲンくんがつけた内容を分析、理解する。丹念に調べてゆくと、これまで酒類の仕入れは請求書が来て振り込んでいたのに、31日、最終日に現金で払っている分がある。不審に思い、翌日ブリリアントに行って納品書を探してみたが、見つからない。約8000円の手書きの領収書のみ。最終日に仕入れたものがある?これまでの支払い?にしても、納品書がないのはおかしい。酒屋に電話してみる。電話を取ったひとは確認して折り返しますと言ってくれ、まもなくかかってきた電話をとってみると、スコッチウィスキー1本とシャンパン1本を31日に渡した、という。
「納品書は、捨てたんじゃないかあ~」
とブリリアントの担当配達員らしき声が電話のむこうから聞こえてくる。
そうか、担当者もおかしいと思っていても、顧客だしわざわざ詰めないんだろうな。でもやっぱり、おかしいとは思ってたんだな。

読み解いた帳簿の内容とともに、バーにある酒類はこないだ照山さんと確認したものから増えていないので、ゲンが預かり現金を使って購入した酒類は持って帰ったと思われることを弁護士LINEに報告した。その後、青島弁護士がゲンに確認したところ「私用で購入したものを間違えてつけてしまった」ということで、「足りなかった分を給料に上乗せして振り込む」どころか逆に給料から引かれることになった。

じぶんがそういうことしないから、あたしがわざわざ酒屋に電話してまで確認するとは思わなかったのだろうな。バカめ。

何をやってもちゃんとできない、悪事さえもできないからもう、ゲンのことは「出来ない杉くん」と呼ぶことに決めた。その後、酒屋の納品書を確認してみると社長がいる頃から、売上に見合わない量のウィスキーボトル、たといすべての客がウィスキーを飲んだとしても1週間でもボトル半分も空かないでしょ、という売上なのに、毎週毎週、特定の銘柄のスコッチウィスキーを発注していことが判明。ときにはウォッカや焼酎も。そして最後の週は、2,3日に1回発注している。

「はあ~、業務上横領になるんですけどね。騒ぎ立ててもこちらの得になることはないし、放っておくしかないですね。むこうが改めてなにか言ってきたら、対向する材料にはなりますが」
と弁護士達もすっかりあきれていた。

9月1日からブリリアントは休業とし、張り紙も出した。
週一回収に来てもらっていたゴミ収集業者は解約した。電話したら、担当のおばさんにえらく怒られたけど。
USENも解約した。おしぼりも解約し、おしぼりウォーマーも引き取ってもらった。3万円の保証金を返してもらえた。

「社長がいないとする仕事がない」というので離職が決まり、片付け要員のために9月までの雇用をお願いした照山さんが当時まだいたので手伝ってもらい、冷蔵庫のゴミを片付けた。もうちょっと後に解約すればよかった、ゴミ回収は解約した後だったので生ごみ類はあたしが自転車に積んであたしらが勤務してたオフィスに運び、そこのゴミ捨て場にオフィスのゴミと合わせて捨てた。レードル突っ込んだままの冷凍カレールー入り巨大フライパンは自転車に積んでオフィスに持って帰り、一晩解凍してからルーはほぼ固形だったのでゴミ袋に入れて捨てた。フライパンは、オフィス退去のゴミ引取業者に処分してもらった。

9月末にオフィスも引き払い、照山さんもサヨウナラして本格的にあたしがひとりでブリリアント片付けに立ち向かうことになった。


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