1-⑥オフィス撤退5

あたしたちのオフィスの撤退は順調に進んだ。

退去は契約解除通知をしてから1か月と思っていて
一か月計画であれこれを考えていたら2か月後ということだったので
「それならすこし、ゆっくりできるな」
と落ち着いて、オフィス内にあるものを引き取ってくれる業者をいくつかあたった。

まずは何を残すか、売り払う/廃棄するかの確認をとらねばと
照山さんにオフィスにあるものの写真つきリストを作ってもらい、PDFにして弁護士に渡し、弁護士が接見の際に社長に差し入れて社長がチェックを入れて宅下げ(「宅下げ」という言葉を今回はじめて知った)。照山さんは、こういう仕事は迅速に、キレイに仕上げてくれる。得意分野だとしゅっとやってくれるんだな。

これまでは「悪い意味で怠け者」「おもんくねえヤツ」認定していたのでツンケンしていたが現金なもので、あと一か月の雇用で正直オフィスの片付けなんてどうでもいいだろうに手伝ってもらう必要があるので、一転して照山さんに対して友好的に接するようになった。基本、悪いひとではないので彼の得意そうな、文句言わずに対応してくれるような役割を振ると淡々と対応してくれた。

ネロさんは7月末で契約解除となり、最終日にSkype電話であいさつしてきてくれた。もともとネロさんも事務所に出勤していたのだが、自宅から事務所まで2時間ちかくかかる、苦痛だとグチグチ言ってたところへ(そういう職場を自分で選んだんだろ)とあることであたしとギクシャクしだしたので、社長が気を使ってくれて―最後まで「蘭さんとのことがあったからではなく、ネロさんも体調の面から長時間の通勤を控えたほうがよいとの判断で」と言い続けていたが―ネロさんを在宅勤務に切り替えてくれ、それはそれでネロさんには願ったりかなったりではあった。

その後2年ちかく、ネロさんとはほぼ顔を合わせることはなく、たまに社長や、最近すこし業務でかかわりのあった照山さんからネロさんの仕事ぶりや態度について愚痴をきくだけで済んでいた。

社長逮捕にあたり、他のひとではなくあたしに連絡してきたのにはビックリしたけれど、この2年、やりとりする機会があればなにごともなかったかのように対応していたし、社長逮捕後の情報共有は誠実に行った。

最後もお互い、なごやかに挨拶して終われてほっとした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?