2-⑦事務所の移転

2階の事業については安定していたが、1階の配送業はいろいろと浮沈があったようだ。

忙しいときはあたしたち2階のスタッフも駆り出されたものだったが、なんだかんだであれこれが縮小していった。部長くんが追放されて間もなく、1階のヘッドの天野さんが辞めて案件も激減したとのことで、パートのひとたちには辞めてもらい、配送業は猫田さんだけで回すことになった。

そうなると、いまある事務所は規模に比して広すぎる、支出が大きすぎるということで、配送業とウェブ事業の事務所を分かつことになった。配送業の事務所はもともとあったちかくの小さな事務所に集約し、ウェブ事業の新事務所を探すことになった。

照山さんはあいかわらず脱力系で、いつもながら「どうでもいい~」という態度で指示されたら最小限に動くスタイルなのであたしが陣頭にたち、あれこれ調べ、不動産会社に連絡を取り、いくつか内見して物件を決め、引っ越しの段取りをした。それが、こないだ退去したオフィスだったのだ。

これまでの倉庫や工場の立ち並ぶ殺風景な場所とちがい、たくさんの楽しい飲食店や雑貨屋がひしめくにぎやかな商店街のそばで、さすがの照山さんも「たのしい」と言ってうきうき通うようになった。

事務所の移転には、実はほかにも理由があった。

詳しくは知らされないのだが、社長がかかわることで、大きな金銭がからむことがあり、損をしたと思う輩がふきんをうろつくかもしれない、というのだ。実際、あたしが入社する前にアヤシイひとが社長を訪ねてきたとか。あたしとのことで遠くにやられた部長くんが、なにやら不吉なことが起こるかもしれないということを匂わせた、というのも社長は気にしていた。お金のことで狂ったひとには話が通じない、無関係の従業員を危険な目にあわせたくない、との社長の言で(あたしを部長くんの知らないところに守る意味もあり)、新しい事務所の場所は、実際に出勤するあたしと照山さん以外は社長、猫田さん、飲食業担当のゲンくんしか知らなかった。警察も知らなかったはずだ。

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