1-①.社長逮捕の報
そろそろ梅雨明けがきそうな晴れの日だった。
いつも祇園祭のあたりにざーっと雨が降って梅雨があけるのだけれど、
山鉾巡行が今年も中止されて、残念だ。
新型コロナウイルスの蔓延とかでやれマスクだソーシャルディスタンスだテレワークだと騒がれて、勤務先でも一年前からテレワークが実施されている。
といっても、このオフィスで勤務してるのはもう一人の社員、照山さんとあたしの2人だけ。
月曜日にふたりそろって出社して、社長が午後にやってきてミーティングしたり雑談でコミュニケーションはかったり。火、木はあたしの出勤日で照山さん在宅勤務、水、金が照山さん出勤であたし在宅。
正直交代勤務はとてもありがたい。
1年半ほど前に規模を縮小して移転してきたこのニューオフィス、交通の便もよく人気商店街のちかくなのはうれしいが、おしゃれで綺麗だけど事務所としても使える居住用1DKは狭い。前のオフィスの3分の1くらい。奥の4畳半ほどにあまり来ることのない社長のでかいデスクが鎮座ましましていて、手前のDK8畳くらいに事務机が4つもつめこんであってきゅうきゅう。椅子にすわるとすぐ背後が壁で圧迫感。以前の事務所ではトイレやキッチンでお茶入れと動いて息抜きできたけれど、いまは台所もトイレもわずか2,3mのところにあり、隠れてぼんやりするスキマもない。隣の席から漂ってくるミドル脂臭に耐えながら終日机に座ったままの日々は非常につらかったのだ。
それが移転してわずか5か月ほどで交代勤務に。
以前の倉庫地帯にあったおもんくない事務所から、ランチ場所に事欠かず、昼休みの散歩がたのしく、帰りの買い物に便利なおしゃれオフィスに移れたうえに、照山さんと顔あわせるのも週一でよくなるとわ。
神様ありがとう。
照山さんは、わるい人ではない。むしろ、いい人だと思う。あたしよりすこし後に転職してきた照山さんは40代独身、実家住まいの男性でご飯や家のことはおかんがしてくれる、いわゆる「こどおじ」ってやつだ。おとなしく落ち着いていて、淡々と仕事をする。しかし、「おとなしく落ち着いて」は「覇気がない」を良いように表現したもので、世間話をしてもてんで面白くない。彼が入社したばかりの頃はおしゃべりが嫌いなあたしも気を使ってなにかと話題をみつけては、雑談する努力をしていたけれど、話が広がらなくておもしろくない照山さんを「クソ面白くない男」認定してしゃべりかけることをやめた。ほどなく一日に交わす言葉は「おはようございます」「お疲れさまでした」だけになっていた。
それぞれ別の業務を担当していたので仕事関係でかぶることはなかったけれど、事務所引っ越しの手配の際やらのあれこれから、照山さんは「言われるまで動かないやつ」、「言われてもするべきことを不必要に後回しにする」「疑問点を明らかにせず、『まあいいや』で進める」ヤツ、というレッテルが貼られた(あたしから)。
そののち、ある件を共同で対処することになったところ、やはりその印象は揺るがなかったどころか補強された。頭は悪くないし、能力がないわけではないけれど、どうやら自ら考えて動くのは損だと基本仕様に刷り込まれているようなのだ。言われた最低限のことをして、修正を申し渡されると言い訳しながらしぶしぶ動く。世間ではそれがふつうなのかもしれないが、前職では言われる前に自分の頭で考えて、最善の対応するのが当たり前だったので彼のような、あたしからすると「悪い怠け者」を目の前にするとイライラしてしまう(「良い怠け者」は怠け者だからやるべきことをいかに効率よくやるか、に優れています)。薄給らしかった彼は給料に見合った仕事をしているだけなんだろうけれど。
そんなこんなで交代勤務となりハッピー、いつテレワークが解除されるのかビクビク。テレワークでも仕事成り立つことわかったし、このまま引き続きテレワークでいいんじゃないかなあ。ほかにも、コロナの前から在宅勤務しているスタッフもいるわけだし。などと思いつつ、仕事をしていた月曜日。
午後になっても、社長から連絡がない。
ふだんは、午前中に「2時ごろむかいます」や「きょうは出張なので顔だせません」などと連絡があるのに。
「もしや…」とネットをググってみると
「逮捕されてる~!!!」
社長がほか数人とともに逮捕、連行されている写真つきニュースがネットに流れていた。
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