3-⑩ブリリアント最終日

月火水3日間のガレージセール、木曜日に壁画黒ペイントして金曜日は引取業者、寺本さんが再見積もりに来てくれる日だ。

「あれ、だいぶ変わってますね~」
「はい、片付けました。ガレージセールもして」
「壁画も塗られてる」
「昨日塗りました」(内心自慢。寺本さんは「業者が」塗りました、と思ったかもだけど♪)

ひとしきり確認したあと、
「買取、引取、ごみ処分すべて込みで8万円はどうでしょう」
「それでお願いします」
「食器類は、そちらで段ボール箱に入れといてもらえますか」
「わかりました。段ボール箱ってもらえたりしますか?」
「それはちょっと、、、まあいいでしょう、持ってきます。
1日では無理なので、鍵をお預かりしてできる日に作業して、最終日に鍵をお返ししてお金を渡す、ということでいいでしょうか?段ボールはその初日に持ってきます」
「それでお願いします。29日までにお願いします。紙の見積書もいただけますか?」

報告として弁護士に渡す必要があるからだ。
口約束だけでない証拠もとっておきたいし。出来ない杉くんがまだ引き継ぐつもりだったころ、他社に見積もり依頼をしてその写しを持っているのだが、それには冷蔵庫がいくら、冷凍庫、製氷機、ガス代、シンクがいくらで机椅子は引き取り、人件費がこれだけかかるので4万円、という金額が記してあった。もっともらしく書いてあるけど、ずいぶんぼってるんだなあ。寺本さんとこだって、もうけが出るような値段だしてるだろうに。すこしでも多くもらえてよかった。そーた君に紹介してもらってよかった。依頼するほうもされるほうも、お互い、安心感あるしね。

寺本さんはその場で事務所に電話し、人数が揃えられる日時を確認して
「では来週の木曜日を初日として、朝10時にお願いします。見積書はそのときにもってきます」
ということで話がついた。

翌週木曜日。
寺本さんは確かに10時に来てくれたのだが
「いつまでに済ませればいいのでしたっけ」
「29日までにお願いします」
鍵だけ受け取って、じゃ…みたいな雰囲気だったので
「あの、段ボールをいただけるお話でしたけど…」
「あっ、忘れてた。…いいです、もうこちらでやります」
「それから、見積書も」
「すみません。忘れてました」
「じゃあ、あとからPDFで送っていただけますか」
「わかりました。…あの、僕、いくらっていいましたっけ」
10万と言えばよかった、と思ったけれど正直だもんで
「8万ということでした」
と答えてしもうた。
大丈夫だろうか。心配になってきた。

のちほどLINEの添付で送られてきたPDFには物品の値段、廃棄料、人件費等詳細なく一行だけ
「買取 8万円」
のみ。
出来ない杉くんのもらった見積書のようなものを想定していたため、ビックリした。
「これでは弁護士連にも出せないな。まあ、口約束ではなく証拠にはなるか、、、」

その後も寺本さんは電話してきては
「何日までに完了すればよかったんでしたっけ」
と確認するので不安になった。

ほんとにこの人大丈夫か?鍵あずけてよかったのか?
でもでも、そーた君紹介のひとだから、大丈夫だろう…と思いつつ
不安になって、翌週ブリリアントを確認に行った。
机と椅子は撤去されている。
厨房にはいってみると、製氷機、流し台、作業台、冷蔵庫2台、冷凍庫、ガス台も撤去されている。湯沸し器は残っている。グラス類の棚、酒瓶をいれていた棚、食器類、膨大なゴミは残っている。

「どうしよう、もしこのままバックレられたら…」

まあ、最悪鍵と買取金失うだけだから、退去立会日の前日に確認してみて、そのままだったら大急ぎで業者手配しよう。これくらいのゴミ廃棄だったら1日でなんとかなるはず。

と思い悩むのが趣味のあたしはそう考えていたのだが、まもなく寺本さんから電話があった。
「あと1回くらいで完了です。28日に鍵の返却して買取金お渡しするのでいいでしょうか?」
ほっとしながら28日約束の時間よりすこし前に行ってみると、すべてきれいに取り払われて、ただすこしのチリゴミが残っていたがむろんこれは彼らの仕事ではない。さいわいにも残していってくれていた箒とちりとりで掃除した。

無事鍵と買取金を渡してもらい、翌日にはなんの問題もなく管理会社の担当者立ち合いの退去手続きを完了した。

あんなにどうしようと思ったのに、途中あんなに苦労したのに、なんだか最後はとてもあっけなかった。いろいろと指南、アドバイスをくれた飲食店店主の堀田さんには感謝の気持ちをこめてええ塩引き鮭を東北から一匹取り寄せて献上した。後日彼のお店のインスタを見てみると、その鮭をいろいろにアレンジして出してくれていて、うれしくなった。


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