素人による素人のための、食べる技術

最近食事をしたり、友人と食事の話をしていて「食べる技術の大切さ」のようなものを実感したことが2-3度立て続けにあったので、備忘録として書いてみます。体系化もできていない経験則ですが、もし読者の方がやったこと、考えたことのない内容がありましたら、試しにやってみてください。

食べる技術とは、目の前に出された食べ物や飲み物をできる限り美味しく味わうために、出された自分の側でできる努力のことです。早く食べる、ゆっくり食べる、卓上調味料を使ってみる、食べ合わせてみるなどを含んでいます。

基本の考え方:濃度と温度

食べる技術の根幹は、出されたものの濃度と温度を自分に合う所、食材や調理法に合う所に持ってくるための一工夫だと思います。下でいくつか例を出していきますが、このように一般論として「濃度と温度だ」と考えれば、他のものにも応用がきくと思います。

はじめに濃度の話:焼肉とライス

焼肉にライス、つけますか。カロリーが気になるからつけないという人は焼肉を根底から間違っています。気にするなら焼肉やめるか食後に走れ。筆者は最初の肉とライスが同じタイミングで来ないと少し不機嫌になります。なおここからの全文は、焼肉にはすべてライスをつける前提で書き進めます。

ある時焼肉とライスを食べながら、なぜ焼肉とライスがソウルメイトであるかについて考えたところ「焼肉の味は舌に強烈すぎる。舌にサイコーな感じにするには、ライスをクッションにして味を和らげる必要がある」というアイデアに思いあたりました。

そこで焼肉1枚にたいして米の量を色々と変えてみたところ、どうやら肉の味を引き出す米の量は、今まで自分が漫然と口に運んでいた量の半分程度であることがわかりました(加齢が原因ではありません。決して)。すべての食べる技術はこうした「漫然と食べる手を一度止め、試行錯誤すること」から生まれてくると覚えておいてください。

もう少し濃度の話:おいしいラーメンの食べ方

最近書籍を出版した友人のとつげき東北氏が、おいしいラーメンの食べ方を提唱していました。曰く「麺のみを噛まずに口に入れ、すかさずスープを口に入れて一緒に噛む」と。これをネットで見た筆者が銀座の「ど・みそ」で試してみたところ、確かにいつも通り麺とスープを同時に口に入れるより美味しい。

なぜなのかを考えた所で前述の焼肉とライスの関係が、ラーメンのスープと麺の関係と同じであることに気づきました。スープと麺を同時に口に入れると、濃い状態で舌に触れてすぐに喉へと落ちてしまう。スープを最適に味わうには、先に口に入れた麺を噛むことでクッションしなければならなかったのです。

そして筆者はその時同時に、麺を噛むことで濃度だけでなく、温度も最適な状態に調整されることに気づきました。熱々のスープはそのままの温度では舌を焼いてしまい、うまさを拾うことができない。麺を噛むことで温度が下がり、サイコーな感じになるのです。

今度は温度(少し濃度):ウイスキーと日本酒

温度の話でよく思うのが、お酒のロックについてです。ウイスキーをあまり飲まない人がたまにウイスキーを飲むと何でもかんでもロックで頼みがちですが、これはあまりいい飲み方ではない、少なくともはじめて飲むモルトをいきなりロックにすべきではないと筆者は思います。ウイスキーは例えばバニラや蜂蜜のような甘い香り、フルーツや樹木・スパイスの香り、潮や煙の香りと銘柄ごとにいろいろな香りを持っていますが、冷やすことでそのほとんどは閉じてしまい、アルコールの刺激とごく一部の香りしか感じられなくなってしまいます。今までウイスキーをソーダ割りかロックでばかり飲んでいた人は、ぜひ横に水を用意してストレートや常温の水割りでも飲んでみてください

お酒の中でも特に温度が重視されるのは日本酒で、同じお酒でも温度で全く違った味になります。先日伺ったバーの店主は温度を上げるペースや順番(最初にここまで上げてからここまで下げる)までこだわっており、それをたくさん話してくれる素敵なオタクでした。

ウイスキーの話をする上で必須なので濃度の話に戻りますが、ウイスキーが好きな人にも頑なにストレートでしか飲まない人がいます。これももったいない。ストレートではアルコールの当たりが強くてしんどいな、ハズレかなと思ったお酒が、アルコール度数25-30度くらいに加水で調整すると全く違うお酒のように美味しく感じられることがあります。加水することで香りの配分もどんどん変わるので、1滴ずつ足したりして遊んでください。

ここまではウイスキーを少し飲んだ人ならほとんど誰でもやりますが、温度をいじらない人がいます。ウイスキーも温度によってニュアンスが全く変わるお酒なので、水でなく熱湯で割ってみたり、常温を手の温度で少しぬるめてみたり、ひとつのお酒でどんどん濃度と温度を変えて遊ぶと楽しいですよ(これこそが酒を瓶で買う醍醐味だと筆者は思います)

もう少し温度の話:リアルタイム料理という概念

僕が「リアルタイム料理」と呼んでいる料理のカテゴリがあります。「とにかく早く食え。写真を撮るな殺すぞテーブルに乗った瞬間に食え」という意味です。天ぷら、ピザ、パスタ等はこれにあたります。ピザは1秒ごとに味が変わるので、ピザオタクが作った某名ピッツェリアは全ての席が釜から同心円状に置かれています。パスタはきちんとした店だと、皿にあげてから提供されるまでにはどれだけ伸びるかも考えて提供されるリアルタイム料理です(家で作るときに意識を変えて比べてみてください)

焼肉に始まり焼肉に終わる

では反対に時間を置いた方が美味しい非リアルタイム料理があるかというと、この間焼肉屋でその事例を発見しました(筆者は焼肉が好きなので隙あらば焼肉の話をします。デートで焼肉をひたすら真剣に焼いてたら女性に泣かれたことがあります)。地元の名店「ことえん」でカルビを焼いていたのですが、いつもは焼いたらすぐ食べるカルビを20-30秒ほど放置してしまったところ、すぐ食べるよりも脂の甘みが感じられて美味しかったのです。すぐにいくつかのタイミングを試して検証してみたところ、自分が今まで漫然と口に運んでいたタイミングは、肉によっては温度が高すぎて旨味を舌が受け止めきれないタイミングであることがわかりました。デートの時は相手の肉も基本全て焼くのですが、今度からは食べるタイミングにも口を出そうと固く誓った次第です。

関連記事:素人の焼肉オタクによる、素人のための焼肉の焼き方
https://note.com/kanedo_/n/n70ecfe0a3dc1

疲れてきたので終わり

この文章を書きはじめて1時間になりそろそろ疲れたので、味の調整の話、僕が食べることの達人だと思っている中華屋マスターの話、焼肉の焼き方の話などは別の機会に回すことにします。食べ物飲み物を出されてからでも味わいを変える余地が沢山あること、原則を理解すれば無限に応用がきくことがわかったと思います。大事なのは「焼肉に肉の量の2/3程度のライスをつける」「焼いたカルビをタレにつけたまま15秒ほど置いて人肌の温度にする」のような他人の正解をなぞることではなく、自分の正解が見つかるまで自分で色々と試すことです。

今まで漫然と口に運んでいた手を止めて試行錯誤を繰り返し、時には同行者に微妙な顔をされながら食べる技術を一緒に高めていきましょう。それではまた。

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