チャラ男の小説もどき

彼は頭に装着している冷たい機械の電源を付けて眠り、今日を始めた。

「ねぇ百年記念日だから会ってみない?」

驚愕した。まだ現実という世界を覚えていた事よりも、その言葉を百年も我慢したであろう事にだ。
それと同時に怒りが込み上げてきた。その気持ちを持ちながら共に過ごして来た僕等の百年が偽りだったのではないかと少しでも思ってしまった自分の軽薄さに。

「私を本当に大切だと思うなら見つけてよね!」

そして僕の前から君は消えた。
まだ君について知らない事が沢山あったんだ。
探さなければすぐに戻って来るのではとその場で7日程待ってみたが、戻って来るような君を好きになったわけじゃない。直接愛を伝えようと決心した。
何より偽りだと思ってしまった百年を真実にするには、探しに行く以外の選択肢はなかった。

産まれた時に装着した機械を取り外して戦々恐々としながらもハイハイで外にでる。自分の筋肉の存在に興奮している。
百年人間に相手にされなかった現実はもう現実では無かった。それでも君を想い一歩踏み出した。二歩目、、、走る、走れた。走れる。歩くよりも遅く君を目指して走った。
舗装されず雑草生茂る道路、全壊のビル、令和初期の看板、くたびれた電信柱、人がいなくなって増えた様々な動物達の中で君が柔らかな笑顔を浮かべて言った。
「ね?あるんだよ現実」
笑顔を作れると言うことは頻繁に現実に参加していたとすぐにわかったし、そもそも君を君と疑わなかった自分を褒めたい。

「危ないよ。帰ろう」
初めての言葉はママではなかったと笑いかけたが笑い方がわからなかった。
声が出ているかわからないし何が危ないか理解せずバーチャルの俺はこう言うだろうと無表情で言葉を紡いていた。
「帰るって?ここが現実なんだよ?目を覚まして?」
辺りを見渡せば世界が終えている事は一目瞭然なのに現実を現実と捉えて疑わない君が愛おしい。

「目を閉じて」

ロマンチックなキスを食らわせれば目を覚ますとおとぎ話のディスクで記憶した事があった。

その日、僕等は終焉を迎える世界の中心で初めてのキスをした。

そこで彼は熱くなった機械の電源を落とし今日を終えた。

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