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8月19日 堺シュライクス 安積拓人初ホームラン

バットにボールが当たると無我夢中で走り出した。打球は高々と打ちあがったように見えたが、どんどん伸びていき、最後は外野手が呆然と見送るしかなかった。

安積拓人の今季1号ホームラン。人生でも2本目という一発だった。

ブルサン育成軍からキャリアが始まり、インパルスの一員として長い下積み生活が始まった。高校を卒業しても、大学に進学しても、なかなか1軍である兵庫ブルーサンダーズから声がかからない。そんなとき新たな球団が発足すると耳にした。

「肩には自信があったので、一発投げたら人生変わるかなと思って」

2018年11月。堺シュライクスのトライアウトで、安積は110mを越える大遠投を見せた。結果はもちろん合格。小柄な体ながら豪快なスイングでアピールを続け、オープン戦ではチーム史上初安打も記録した。

しかしそのあと待っていたのは、打撃不振と怪我だった。出場機会に恵まれない中、捕手に転向。2019年9月、ついに出場機会を掴むと月間打率3割も記録した。

「キャッチャーやっていると配球とかを考えて、すごく打撃にプラスになっている気がします」

このまま順調にいくかと思ったが、今度は同じポジションに山田偉琉が入団。あれよあれよという間に山田は開幕4番のポジションを奪ってしまった。

しかし控えに甘んじることなく、ベンチから大声を出してナインを鼓舞。チャンスが来るのをひたすら待った。

8月19日、この日シュライクス打線は打線が爆発。
堺からやってきた応援団が奏でるトランペットに合わせるかのように、軽快に9回までに13点を奪っていた。

9回表、代打丹羽竜次が四球、続く代打辻田寛人のセンターフライのあと、佐藤将悟がサードのエラーで出塁。ここで代打としてコールされたのが安積だった。

シュライクスにはキャッチャーが2人しかいない。この日も安積はブルペンで投手陣のボールを受け、イニングの合間に素振りを行っていた。

相手はかつてインパルスのチームメイトだったという中村巴瑠。2球目に高めの直球が来た。足を上げ、思いっきり振り抜いた。

「試合前に大西監督から『足上げてトップ作って相手投手に向かっていけ』というアドバイスをもらいました。それまで本当にバッティングの調子がよくなくて……」

ここ数日、打撃に悩み、バットを何本も折っていた。試合に使うバットにすら困っていた。しかし、大西監督のアドバイス通りに振り抜いた打球は、高く舞い上がった。乱打戦を締めくくるホームランは、トランペットの音とともにレフト場外に消えていった。

全力で走って二塁を越えたあたりで審判が腕を回しているのが見えた。ようやく走る速度を緩め、噛みしめるようにベースを踏んでいった。


ベンチ前でサイレントトリートメントにあったが、そんなのお構いなくはしゃいだ。

そして、祝福を受けてすぐ、また投手陣の待つブルペンに戻っていった。自分の役割を全うするために。

「自信になりました。もっと打ってチームの優勝に貢献したいです」

次の試合、スタメンは山田だった。河内山拓樹のノーヒットノーランを引き出し、自らもタイムリーを放った。ハイレベルな捕手争いも続く。

この競争の中、さらに成長するのはどちらだろうか。首位を走る原動力の中に、間違いなく安積がいる。

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