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カラスウリの夏

 一昨年まで咲いていたカラスウリが去年は咲いていなかった。けれども全然別の場所でカラスウリが咲いていた。うれしかったなあ。
 でも、その場所に今年はカラスウリがない。
 カラスウリは、キュウリのようにツルを伸ばすのだけど、今年は姿を見せない。あああ、自然がどんどんなくなっていくと、寂しい気持ちでいると。これまた別の場所で、朝、白いカラスウリの花が咲いているのを見つけた。
 ああ、今年もどこかで生き延びていたのだ。


 カラスウリ、カラスウリといっているけど、この辺で見られるのは実が真っ赤になるカラスウリではなく、緑から黄色に実の色が変わるキカラスウリだ。
 子どもの頃からキカラスウリは私にとってはおなじみなので、あの葉っぱは見間違えない。
 昔はカラスウリの実をくりぬいて、ハロウィンのカボチャのようにして遊んでいた。
 同じような形の葉っぱも夏の野山にはたくさんあるけど、あの色と質感はおなじみのものだ。葉っぱがあればすぐにわかる。
 それが、毎日通る道の横で、白い花を咲かせていたのに、花が咲くまで全然葉っぱに気づかなかった。

朝だけの白い夢咲くカラスウリ


 花も夜に咲いて昼にはしおれてしまうので、朝に見なければカラスウリの花とはなかなか気づかない。
 花が咲くまで、気づかれないままに緑の葉っぱをどんどん伸ばして青い葉を茂らせていたのだろう。ツルをどんどん伸ばしていたのだろう。
 一度花を見つけると、次の日からの楽しみができた。次々とツルの先に白い花を咲かせる。
 遅く行くともうヒゲがしおれて丸まっている。この季節のこの時間でなければ見られない白い花。

 毎日の楽しみはいつまでも続かない。
 たくさん花を咲かせていたのに、花は全部咲ききってしまった。しおれた花がついているだけで、もう花が咲いてこない。ただの緑の草になってしまった。
 新しい花が咲かないかなあと毎日見ているけど、全く咲く気配がない。
草に中に埋もれた緑の葉っぱがあるだけ。


 ある日、緑の葉っぱをみると、小さな実ができていた。カラスウリの実だ。
 人通りの多い、すぐに触れる場所のカラスウリだから、実が大きく実り、タネを作るまでになるとは思えない。誰かが実をちぎってしまうだろうな。それとも刈られてしまうのだろうか。 
 タネを作ることはないだろうに、けなげに小さな実をつけている。
 タネができなければ、来年ここで白い花を見ることもないだろう。でも、きっとどこかではカラスウリの白い花が咲いているだろう。それを信じたい。


 植物たちは来年の心配よりも、今をせいいっぱい生きている。

 カラスウリの白い花が消えるのを待っていたかのように、タカサゴユリのつぼみがふくらみ始め、白い花を咲かせてきた。白い花の季節は続く。


 何があろうと何が起きようと、来年のことなど心配もせず、地球はずっと生きている。
 

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