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うずら卵が泣いている

 給食に出されたうずら卵をのどにつまらせて、小学1年生の子が亡くなるという悲しい事故があった。次々新しいニュースが流れるので、もう過去のニュースになってしまったのだろうか。
 事故があった後、すぐに各教育委員会でうずら卵を給食からはずすところが出た。国会議員の定員や給与のように、なかなか決まらないことが多いのに、これだけは、臨機応変、すぐやる課もびっくりするくらいすぐに決めた自治体が多かった。子どもの心理的不安を心配してなのか、ただ単にクレームが恐いのか。
 こんなにうずら卵をやめてしまったらうずら卵を生産している業者はどうなるんだろうと思ったが、スーパーでうずら卵が安売りになっているかと見たけど、そんなこともないようだった。よかった。
 うずら卵で不幸な事故があったが、それまでうずら卵を給食に出していて、そんな問題もなかった。一度問題が起きるとすぐに禁止する。だめなものをなくせばそれでいいという考えだ。

 消費者庁の誤嚥ごえん事故防止のチラシには、マメやナッツ、ミニトマト、ブドウに注意するように記されている。
 前には保育園児がリンゴをつまらせたというニュースもあった。うずら卵だけでなく、誤嚥事故につながる食材はたくさんある。それらをすべてすりおろしたりみじん切りにして給食に出すとなったら大変だ。大変だから出さなければいい。うずら卵は禁止。
 そうして食べるものがどんどん減っていく。

 内閣府の食品安全委員会によると、のどにつまらせ窒息事故を起こしやすい食品は、もち、カップゼリー、アメ、パン、肉、魚介類、果実、米飯。事故が起きたらめんどうだと、これも全部禁止すれば、なんにも食べられなくなってしまう。

 うずら卵のニュースを見た小学生の意見として、うずら卵が悪いのではなく、給食時間が短いので、あわてて食べたのでのどにつまらせたのではないかというものがネットに多く出ている。
 いや、そうだろう。
 ゆっくり落ち着いて食べれば事故なんて起きない。でも、給食の時間が増えるように教育課程を考え直すには時間がかかる。手っ取り早くうずら卵を禁止すればいい。
 うずら卵だけではない。全てがその場しのぎの対応で終わらせがちな世の中になっているように思う。コスパとかタイパとかいって、効率がよければそれでいい。そんな世の中になっている。
 何か大切なものが消えていくようだ。

 鳥山明の「ドラゴンボール」はじっくり時間をかけて描き、世界に広がった。丁寧に絵を描いている。
 尾田栄一郎の「ワンピース」も丁寧な絵がある。最近のコミックスでは、わざと荒いタッチで描いていることが多いが、それと反比例するかのようにアニメは丁寧な描写をしている。あれだけ丁寧にすればコスパ悪いやろうなと思うけど、それだけ丁寧に描くからこそ世界に受け入れられ、ファンを増やしているのだろう。
 「ちびまる子ちゃん」の絵も丁寧だ。だから何十年もアニメが続く。さくらももこ展で原画を見ると、ものすごく時間をかけて丁寧に描いていることがよくわかる。これだけやってこそ世間に認められるのだろう。世界に認められるのだろう。
 ただ単にコスパやタイパばかり考えている日本では、世界に相手にされなくなってしまいそうだ。アニメが日本の強みだというだけで、その底に流れる日本の職人の心、日本人の特性を忘れて、せかせか現代日本人は走って行く。

 足を止め、じっくり風の音を聞く心の余裕がほしい。耳をすませば、うずらの泣き声が聞こえるかもしれない。 


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