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学生と駆け抜ける青春の日々ーー富田英典先生

 「ほとんどお互いタメ口やからね」。学生との関係についてこう話すのは、富田英典先生。立命館大学を卒業し、関西大学大学院で学んだ先生のキャリアは、神戸山手女子短期大学の専任講師から始まった。それから関西大学の教授となった今日まで、学生とともに、電話をはじめとするメディア研究を続けてきた。

富田英典先生

 富田先生に学生の教育について尋ねると、「学生に教えようと思ったことがない。仲間やから。同じ学問の道を目指す仲間だと思ってる」と返ってきた。先生は学生に教えているという感覚ではなく、一緒に研究しているという心持ちでいるようだ。ゼミの後は学生たちと毎週飲みに行く。わざわざインタビューに行かなくても、学生と話すことで研究にとって欠かせない、今の若者たちの情報が入ってくる。面白いことや新しいことを見つけると全部教えてくれる。先生は「そういう関係性が大事」とまっすぐな瞳で語った。
 ラジオやテレビに出演する際には、学生に電話をかけて意見を聞くこともある。アーティストのB'zが記録的なヒットを出した時、富田先生の元に見解を聞かせてほしいと依頼が来た。引き受けたはいいものの、B'zを詳しく知らなかった先生は何人かの学生に電話をかけ、学生に許可を取って発信した。現象の中心となっている若者の率直な意見は貴重なものであり、他ではそうそう得られない。いつでも学生は仲間なのだ。
 実は電話研究のきっかけも学生だった。ゼミ生が卒業論文のテーマとして取り上げたダイヤルQ²に興味を持ち、電話研究を始めた。それ以降、学生と関わるうちに得た情報を元に、最先端の事象にフォーカスして研究を進めてきた。
 学生から「トミー」と呼ばれたり、マネキンの購入を試みて止められたり。 富田先生の口からは次々と学生とのエピソードが溢れ出る。先生が学生と駆け抜けてきた青春が垣間見えた。
 今年度で学生との日々に幕を閉じる。学生と共に研究を進めてきた先生に、学生へ残したいことを聞いた。「教えるようなことはないなぁ...」。しばらく考えて出てきたのは唸りであった。それでも絞り出し、「運」について語ってくれた。一生懸命頑張っても無理であれば、「運」が悪かっただけ。あまり落ち込まないで。成功すれば「運」が良かっただけ。あまり天狗にならないで。数々の功績を残した先生の、ひたむきさや謙虚さが表れた言葉であった。
 人生の半分以上を学生と過ごしてきた先生にとって、学生のいない、退職後の生活は未知の世界だ。それでも声を弾ませて計画を並べてくれた。推理小説を書くこと。妻と軽登山をすること。朝のジョギングをすること。最先端を追うメディア研究の日々から、妻とゆっくり山を登る日々へ。時には推理小説で謎を追う。富田先生の青春は、形を変えてまだまだ続く。(執筆、写真:伊東柚葉)