日本にカントリーミュージックを広めたいーーソロギタリストKOYUKIさんインタビュー
2021年6月、関西大学社会学部メディア専攻の2回生、新井小有妃(あらい こゆき)さんが、カントリーミュージックのソロギタリストKOYUKIとしてデビューを果たした。20歳の誕生日である6月10日には表題曲「Green Witch」のミュージックビデオがYouTubeでアップされ、小柄な姿で力強くギターを弾く姿、きれいな指先から奏でられた音色に心惹かれる。
彼女がギタリストを目指した経緯、関西大学での勉強、デビュー後の展望や曲に秘めた思いなどについてお話を伺った。
――音楽を好きになったきっかけは何ですか?
幼い頃からディズニーランドのカントリーエリアが好きで、そこで流れているBGMに興味を持ったのがきっかけです。幼稚園から小学校6年生までピアノをずっとやってて、ギターは小学校5年生から始めました。もともと父が音楽好きでエレキギターとかアコースティックギター、ピアノを持っていて、家に楽器がいっぱいあったというのは大きかったと思います。トミー・エマニュエルというギタリストが好きなんですけど、初めてライブに行ったのも父の誘いでした。
――公式サイトのプロフィールにギターを弾き始めてから10か月で賞を受賞されたと書いてありますね。
普通、ギターを触って最初に覚えるのはドレミファソラシドとかだと思うんですけど、父はそんなんじゃなくていきなり曲から教えてきて。2曲目に長めの曲を教えてもらったんですけど、そのタイミングで「大会出てみる?」みたいな感じで父に言われて。楽しそうだし出てみたら賞をいただきました。小学生の頃は、1日に2〜3時間は練習していましたね。
――ギタリストを目指した経緯を教えてください。
ギターを始めたきっかけでもあるカントリーミュージックがとにかく好きで、そのカントリーミュージックが日本ではあまり知られていないのがもったいないなと感じていました。カントリーミュージックの独特のノリというか、陽気になれるのが好きで。
そういう音楽を私が広めることができたらいいな、とは思っていました。全国大会で賞をいただいたこともあるんですけど、1位になりたいというより、音楽を広めたいという想いの方が強かったです。
――音楽をやってきて専門の大学ではなく関西大学を目指した理由はなんですか?
日本ではソロギタリストの認知度がとても低いと感じています。日本人は歌詞のある歌を聴くのが主流で、インストだけを聴く習慣はあまりないですよね。認知度の低さはこうした音楽文化に原因があると思います。海外だと、インストのギタリストがテレビに出演することも多いんですが、日本ではあまり見かけないし、海外は数千人規模のライブに招かれるギタリストが日本に来ても、数十人規模のライブハウスにしか招かれないという現状があります。この状況を私がなんとかしたいという思いで、音楽活動も勉強もしたいと考えていて、関西大学に入ろうと思いました。
――社会学部の中でもメディア専攻を選んだ理由は?
大学生になるまでは演者としての経験しかなくて、ミュージックビデオを作る時もすべて専門の方に任せることがほとんどでした。でも、それだと自分が伝えたいことや自分が想像している世界観が編集の方に伝わりにくくて、細部のこだわりまで完璧に表現できないんです。だったら演奏も映像編集も自分で行って、演者と制作の両方の立場から音楽作りができるようになったらいいんじゃないか、と思って映像や音楽に関する勉強ができるメディア専攻に決めました。実際に実習や授業を通して、思い描いていることを自分なりに表現できるようになり、とても楽しいです。社会学部は音響設備が整っているのでそこも魅力的ですね。あと、メディア専攻の教授である三浦文夫先生に学びたくて入ったという理由もあります。
――三浦先生はどういう存在ですか?
デビュー曲もそうなんですが、私の音楽活動を支えてくださっている方です。私もまだ至らない部分がたくさんあるんですけど、三浦先生に優しくアドバイスをいただいたりしていつも助けてもらっていますね。先生は忙しい中でもよく面倒を見てくださるので、私の支えになっています。
――どのようにしてデビューすることになりましたか?
もともとは10代でアルバムを作りたいと考えていて、三浦先生にも相談していました。「デビューするぞ」と意気込んでいたわけではないのですが、何か形として残すことを目標にしていて、話が流れていきデビューすることになりました(笑)。結果的に節目良く20歳を迎える年にデビューすることができて幸せに思います。
作曲も自分自身で手掛けていて、今回のデビューEP「Green Witch」のコンセプトは、『Wicked』をモチーフにしました。『Wicked』は『オズの魔法使い』では仲の悪い魔女エルファバとグリンダが親しかった頃を描くミュージカルで、エルファバが一人で旅立つ心情を表しています。この曲は13歳の時にできたもので、行き詰まることなく一気に作り上げることができました。それ以来、少しずつマイナーチェンジを繰り返し、現在のアレンジに落ち着きましたね。この曲のMV撮影では思い描いていたイメージと映像がぴったり一致したので一人で感動してしまいました。
同じEPの1曲「ヴァルプルギズの夜」は、作曲中のものを三浦先生に聞いてもらったところ、「Green Witch」のカップリング曲みたいだというご意見をいただき、「確かに!」と思いました。そこからヒントを得て、世界中の魔女が集まるお祭りの中でトップの魔女が決められるというのをコンセプトに、曲を完成させました。
魔女を題材とした曲が多くなる理由は、小さいころから魔女に興味があり、よく見ていたからです。アニメの『おジャ魔女どれみ』や『シュガシュガルーン』は特に好きですね。
――作曲方法をお聞かせください。
ギターを始めたばかりの頃は、理論もまったく分からないまま作曲していました。お父さんに「構成ってどうやってするの?」と聞いて、Aメロ、Bメロの長さを教えてもらうなどアドバイスしてもらいましたね。ピアノを使うときもあります。
意外かもしれないんですけど、フレーズが思いつくのは、ギターの練習をしている時ではないんです。作ろうと思い込んでいると、逆にできなくて、何も思っていない時に創造することができます。絵を描くのが趣味なんですけど、描くことを休憩して、なんとなく弾いている時。また、ギターを持ちながら映画見ている時に良いアイデアが浮かびます。
「ヴァルプルギズの夜」はレコーディングの1週間前、急遽完成した曲でした。疲れていたある日、とりあえずギターを触っておこうと思い何気なく弾いていると、「あっ、できた!」という感覚が連続して。瞬く間に完成しましたね。自分が天才なんて思ったことはまったくないですけど...。
――あなたにとってギターとは?
それ難しいんですよ(笑)。何気ないモノ、気持ちを翻訳してくれているモノですかね。私、人に気持ちを伝えるのがすごく下手くそなんですけど、ギターだと表現できるんです。
――これからどのようなアーティストになっていきたいですか?
決まり文句のようになってしまうんですけど、日本にソロギタリストやカントリーミュージックを広めることが夢です。オリジナリティのある演奏で、目を瞑っていても誰の演奏か分かるような、いい意味で個性のあるギタリストになりたいです。
大学では、やっぱりギターは続けていきたくて、一人でこれから先もしていくと思うんですけど、それだけじゃ得られるものが少ないと感じています。今、大学では軽音サークルに入っていて、人と合わせる音楽に挑戦しています。たくさんセッションをしたり、リズム感を付けたりなど息を合わせて演奏することを大学4年間でしていきたいです。卒業後はアーティスト一本でいきたいと考えています。
KOYUKIオフィシャルサイト:https://koyuki.news/
(取材・執筆:野中彩未・細田菜月・村上菜月・山本凌也)