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新しい人生を3000円ちょっとで買った話


マスメディア、と聞いて、まず「ラジオ」を思い浮かべる人は、そうそういないだろう。ラジオってあんまり聞かないな、聞いたことないなって人もいるのでは?

でも、私にとってのラジオって、結構大きいもので。


中学3年生。私は中高一貫校に通っていたので受験も無くのほほんと暮らしていた。緩急はないけど、毎日それなりに楽しかった。

ある時、あまり話したことの無い女の子が話しかけてきた。なんでかはあんまり覚えてない。

ラジオって聞いたことある?

当時の私はラジオは車の中で聞くものだというイメージがあったので、なんだか変な質問だなと思った。

「あんまりないよ」

「1回聞いてみて!FM802っていうラジオ局なんやけど…」

知らないラジオ局だ。といっても私の知ってるラジオ局は当時FMココロくらいしかなかったのだけれど。(今思えば同じ会社)

いつもなら、うんわかった〜聞いてみるね、と適当に流して終わるのだが、あまり話したことの無かったその子の顔が、なんだか忘れられなかった。


そして、その晩。
私は1人、ひっそりと80.2に周波数を合わせた。

その時のことを、あまり詳しく覚えてはいない。でも、落合健太郎DJの心地よい声とテンポよく流れる空気が、私をひっつかんで離さなかった。

でも、なによりも、なによりも、フレデリックというバンドの「オンリーワンダー」という曲に、私はまんまとやられてしまったのだ。

その時のヘビーローテーション曲だったそれは、もう耳からも頭からも心からも離れてくれなかった。1度聞いただけなのに、もう私の体の中に入ってきていた。もう戻れない。本能が叫んでいた。一瞬で、一音で、彼らの虜になってしまった。

番組が終わって、布団に入った。

でも、頭の中のキラキラバチバチを抑えることは出来なかった。新しい宇宙に出会ってしまったんだから。
その晩はあまり眠れなかった。

それからは毎日ラジオを聞いた。邦ロックというジャンルを知った。フェスというものを知った。音楽で繋がる世界。広がる世界。あの時声をかけてくれたあの子は、こんな世界に住んでいたんだ。どんどん新しい刺激を受けて、今までの世界に色がなかったかのように思うほどだった。

そして、フレデリックは初のベストアルバムを出すことになった。「フレデリズム」というCDだ。

みなさんおわかりかと思うが、これが私のはじめて買ったCD。買う時は緊張したなあ。月のお小遣いをほぼ使ってしまったけど、それは私にとってお金に変えられないほどの経験だった。はじめて手に入れた、最高の宝物だった。

そして私は軽音部に入部し、たくさんの音楽に触れ、ライブに行き、仲間と語らい、価値観を見つめ、救われ、傷つき、笑い、時には泣きながら、音楽と肩を組んで歩いていくことになる。

たくさんの大事な音楽に、ものに、人に出逢えた。

はじめてのCD。
CDを買うキッカケになったラジオ。
ラジオを勧めてくれた知らないあの子。

あの子がいなかったらこの世界のことは知らなかったんだろうなとか考える。それがどんなものだったのか、もう想像はつかないけれど。

あの子は、私のバンドメンバーになった。今でも連絡を取り合う、大事な友人だ。

私の青春で、私の人生の分岐点。
キラキラバチバチの世界に連れて行ってくれた。
何度も助けてくれ、何度も心をゆさぶってくれた。

私は、はじめてのCDに払った3000円ちょっとで、新しい人生を買っていた。


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