漢直指向かな配列「のにいると」

まずは漢直WSについて

筆者は KanchokuWS、略して「漢直WS」というツールを作って github で公開しています。

このツールはWindows上で動作し、キーボードからの入力を様々に変換してアプリケーションに渡す機能を持っています。たとえば、キーボードからKとRのキーをこの順で打鍵すると「日」という文字に変換して、メモ帳とかWordとかのアプリに渡すことができます。このツールを使って実際に日本語の文章を入力している様子をTwitterの動画で公開もしています。


他にもTwitterで公開している動画があります。興味のあるかたはこちらを参照ください。

そもそも漢直って何ですか

「漢字直接入力」を略して「漢直」と呼んでいます。一般のかたは日本語を入力するときに「かな漢字変換」方式のIME(Input Method Editor)を利用していると思いますが、筆者を含む一部の物好きは、カナを漢字に変換するというプロセスを省略して、キーボードからの入力を直接漢字に変換して入力するこの漢直という方式を利用しています。(もちろんこの記事も漢直で書いています)

漢直についてはこれからもおいおい記事にしていこうと考えていますので、今回はこれくらいにしておきましょう。

「のにいると」

 「のにいると」というのは、漢直WSで使えるカナ配列です。漢直WSには「のにいると」以外にもいくつものカナ配列が用意されています。

漢直WSの設定ダイアログ

一般のかたはIMEにカナを入力する際に「ローマ字かな変換」を利用されていると思いますが、キーボードから直接カナ入力する人も少なくとも百万人規模で存在しています。カナ入力する人の大多数はキーボードに刻印のあるいわゆる「JISカナ」を利用していると思われますが、ここでも一部の物好き(失礼!)は「新配列」と呼称される様々なカナ配列を使っています。

新配列の中で一番の勢力はNICOLA配列、通称「親指シフト」でしょう。まあ親指シフトは考案されてから40年以上経ってますからもはや「新配列」とは呼べないかもしれませんが。それ以外、上図に示した配列の多くは今世紀になってから有志によって開発されてきた、本当の新配列です。10年以上にわたって改良が加えられているものもあります。そして「のにいると」も筆者が開発中のニューフェースというわけです。

なぜ世の中にはこんな物好きなかたがいるのでしょう。それは少しでも滑らかに、そして速く日本語を入力したいという欲求があるからです。たとえば小説家は日々大量の日本語による文章を産出しています。アウトプットの量が収入に直結しますから、入力速度は死活的に重要だといえるでしょう。また、楽な運指で滑らかに入力できるというのも腱鞘炎などを予防するのに効果的だと考えられます。職業的作家でなくとも、日々趣味のブログをつづったり会社の業務でメールやチャットを大量にこなす必要のあるかたもいると思います。そのようなかたがたのニーズに支えられて、これらの新配列が続々と開発されてきたわけです。

 「のにいると」開発の背景

筆者はこの30年来、「T-Code」と呼称される漢直配列(正確にはその私家改変版)を使っています。T-Codeでは漢字以外にひらがなやカタカナも直接入力することができ、とくに不満なく使用してきました。

ところが昨年(2021年)に漢直WSの開発を開始して、そこで同時打鍵系のカナ配列もサポートすることになり、いろいろなかたの入力動画を見ていたら、そのカナ入力の速さがうらやましくなってきたのです。T-Codeではひらがなを入力するのに2打鍵必要ですが、同時打鍵系のカナ配列ならそれが1打鍵ないし1アクションで入力できます。とくに「しゃ」のような拗音は、T-Codeだと4打鍵かかりますが薙刀式なら1アクションです。この差は大きい。

ただT-Codeは2打鍵1文字が原則であるため、普通の方法では1打鍵カナを混ぜこむことは不可能です。SandS(Shif and Space)や親指シフトのようなやりかたでシフトされたキーにひらがなを割り当てたり、薙刀式のように文字キー同士の同時打鍵に割り当てるという案もありますが、頻出カナである「の」や「に」の入力にもいちいちシフトが必要になるのはいただけません。

ではどうすればよいか。筆者が出した答えは「漢直配列とカナ配列を同時に有効にしておき、それぞれからの出力を組み合わせて最も日本語らしくなるものを採用する」というものでした。

以下の Twitter への投稿は漢直とカナ配列を融合させた試作版によって実際に文章を入力しているところです。

「あと2~3か月」とか書いてますが、まともなものにしようとするとそんなものでは済まないことが分かりました。今のところ少なくともこれから半年くらいはかかると見込んでいます。

また次のようなツイートも投稿してます。

「のにいると」の特徴

 「のにいると」は上述のような「漢直とカナ配列の融合」を前提として開発しました。なので他の新配列のように「漢字の読みをカナで表現する」必要はなく、日本語の文章に出現するカナの部分だけを滑らか、かつ高速に入力できることに主眼を置いています。

設計方針は以下のとおりです。

  • カナ集合を出現頻度により3層に分ける

  • 最頻出のカナは単打で入力できる

  • 単打のカナはキーロールオーバーしても他の文字に化けることがない

  • 出現頻度が中程度のカナは SandS により入力する(連続シフトあり)

  • ただし他のカナとの連接を考慮して中頻度層に入れるものもある(「う」)

  • 低頻度カナは SandS と D または K との同時打鍵で入力する

いまは「のにいると」単独で練習していますが、少しずつスムーズに打てるようになってきました。これからは中断していた「漢直とカナ配列の融合」に注力していく予定です。

おまけ

「のにいると」の定義ファイルは github で公開しています。開発に際して使用した頻度表や以下のような2連接の見える化の図もおいてありますので、興味のあるかたはどうぞ。

マニュアル、社説、Wikipedia 計20万字によるひらがな出現頻度と連接頻度


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