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怖いんですけど 赤坂の話がしたい 6

 当たり前だが、2人の目に浮かんでいるのは、「こいつ、誰?」という気持ちだった。
 若い大柄の方は、首も腕も太くて、目はぎょろりとしている。その目で凝視されると、「うちの頭を、タカシだと?」と問い詰められているような心持ちになる。
 あたふたして、とりあえず今までの経緯を説明した。
 コインランドリーで高齢の女性から、お花見をやっているから氷川神社に行けと言われたこと、タカシと言えばわかると言われたこと……。

 やっと要領を得たタカシさんは、「雨で、お花見は中止になって、みんな町内のお店に移動しています。後から誰か来たらいけないので、ここで待っていたんです」と説明してくれた。ホッとした。
 「よかった… おばあさん、ぼけてたんじゃないかと疑ってしまいました」
 「ああ、それ母です」
 ちっともあたふたが止まらない。

 そこでタカシさんは、大柄の男性に「カズマ、<赤べこ>まで案内してやって」と言った。カズマは「じゃ、こっちです」と野太い声で、僕を先導した。
 坂を下っていく中、どうにも間が持たないので、僕は勝海舟が好きで、ゆかりの赤坂に住みたかったことを一方的に話す。何だか、媚びてるような、あまりよろしくない気分……。
 カズマは「お、そうすか」とうなずくが、視線はまっすぐ、坂の下の方を向いている。こちらに愛想を返してくるわけではない。なかなか怖い。
坂の下まで来ると、カズマは突然「ちょっと寄り道します。こちらへ」と左に曲がった。寄り道? なぜ?
 50メートルも進むと、カズマは角のマンションを指差した。

 「ここが、勝海舟の住んでいた場所です」

 おおお。
 木の標識があった。

(2020年5月23日 FB投稿)

次話 勝海舟の住まい 赤坂の話がしたい 7

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