絵本屋さんになりました!~元刑務官が子どもの居場所を作るまで〜(note暫定版)
全文無料公開に当たっての注意事項
「絵本屋さんになりました!~元刑務官が子どもの居場所を作るまで〜」の全文を無料で公開します。これは、「日本中の全学区に絵本屋を作りたい」という目標のために、私が「えほん月波や」を開店した時に得たノウハウを書いたものです。これをヒントに皆さんの近くに「絵本屋」を作って欲しいと考えたからです。ぜひ、使ってください。できれば多くの方に知ってもらいたいのでSNS等での拡散をお願いします。また、Clubhuseで「えほん月波や」の名義で「絵本屋をやりたい人集まれ!」といroomを行っているので、お話ができたらうれしいです。
ただし、著作権の放棄はしていませんので、引用の場合はその旨を記載してください。また、引用を超える利用についてはお控えください。
なお、基本的な内容は変わりませんが、随時内容を推敲しているので時期によって記載内容が異なる場合があることをご了承ください。
そして、最後までお読みになった上で、よろしければクリエイターサポート機能を使った支援をしていただければ励みになります。
はじめに
この本を手に取っていただいたということは、あなたは絵本が好きな人ですね。そして、絵本屋さんをやってみたいと思っている。この推理は当たりましたか。私、「かなやどうはん」は、絵本屋の他に探偵もしていますので、このぐらいの推理はなんてことはありません
しかし、ここで注意を喚起しておきます。はっきり言って、絵本屋はもうかりません。いいですか。もう一回いいますよ。絵本屋でもうけようと思うのならこの本を買ってはいけません。すぐに棚にもどしてください。電子書籍版であればクリック禁止です。買い物かごから削除です。著者が言うのだから間違いありません。
では、この本を買って何が起こるのでしょうか。それは、あなたの人生に「絵本屋さん」という素晴らしい属性が付与されるのです。その方法を伝えようと書きました。。
あなたは、妻であったり夫であったり、○○会社の社員だったり、パートさんだったり、お魚屋さんであったり、いろいろな属性を持っているはずです。しかし、今、まさに「絵本屋さん」というパワーワードを持つことができるチャンスが目の前にあります。
もう一度そういう目で、表紙にある私の写真を見てください。この人(私)は「絵本屋さん」です。どうですか?いかつい太ったおっさんが、何かいい人に見えてくるでしょ。きっとあなたならもっと素敵な「絵本屋さん」になるでしょう。そして、この「絵本屋さん」という肩書は、年代も性別も地域も飛び越えて、たくさんの人を結びつける「魔法使い」のライセンスなのです。
この本の構成は、私が絵本屋さんを開店して経営していく過程をドキュメンタリー的な物語として述べて行ます。そして、そこで知った様々な知識をコラムの形でまとめています。うまく行ったことも失敗したことも包み隠さず書きましたし、そこから得た知識で、最も効率的に目標が達成できる方法をご紹介しています。
本書の中では「絵本」でつながる様々な活動のヒントを提案してみました。ぜひ、皆さんの地域で行ってみてください。楽しいと思います。ちなみに私のお店をご紹介します。
ではみなさんも、「絵本」の持つパワーを最高のポテンシャルで活用し、周りに奇跡を起こす「絵本屋さん」になれます。というか、多分、私以上に素晴らしい魔法使いになります。
ただし、一点ご注意を!先輩魔法使いの私は皆さんに、今、魔法をかけました。皆さんはそのことに気付いてはいないはずです。どんな魔法かはお教えできません。答えは最後まで読めばわかります。いやー楽しみですね。読み聞かせを待つ子ども見たいでしょ。それでは、始まり始まりぃ〜
第1章 刑務所の人を辞める
1 人生の危機はわりと簡単にやってくる
困っていた。刑務所職員として27年勤務してきたが、上司からのパワハラで出社ができなかった。行こうとすると吐き気や手の震えが起こった。体が仕事を拒否している。心療内科で「適応障害」の診断を受けたので処方された薬を飲んで休んではいるものの、これから先のことを考えるとそれだけで不安になる。夜も眠れない状態で一日起き上がる気力がでない。
目をつけられた上司は法務省矯正局のトップグループの一人なので、定年までの残り7年間、「あの人に壊された人」という事実が付いて回る。それは、かわいそうとか同情ではなく、こいつにかかわったら、「トップに歯向かうのと同じだ」という負のレッテルが張られたということなのだ。なので、退職した。その先は考えてない。
【コラム1】きっかけはなんでもいい「絵本屋さん」になろう
割とヘビーな導入で恐縮です。しかし、とりあえずここから始めないと私の物語は始まらないので我慢していただきたいです。
今まで、絵本屋をやりたいと相談に来られる方がたくさんいらっしゃいました。お話を伺うと、それぞれに理由があります。
退職後の自宅を利用したいという方、社会貢献として店舗の一角を子どもたちに開放したいという方、子どもがお亡くなりになってその絵本を活用したいという方、障がいを持つお子さんとそうでない地域の子どもたちの関係をつなぎたいという方、亡くなったご両親が経営していた店舗を再び開放したい方・・・皆さんいろいろですが、それぞれの物語があります。
起業の相談に乗るようになると、絵本を売っていた時よりも様々な方の事情を拝聴するようになります。共通しているのは「絵本が好き」ということです。そこで、私のやることは、ちょっと背中を押してあげることです。その夢が、そんなに難しいことではなくて、ちょっとの勇気と少しの予算でかなうこと。なにより大切なのは「楽しい」と思えることだと伝えることです。今まで、一人一人の方に伝えていましたが、もっとたくさんの人たちが夢をかなえて、その結果、地域が「絵本」で豊かになることができると確信したので、本書を書いたのです。
できるだけたくさんの方が、「絵本屋さん」になってください。
2 そして、ふるさとに帰る
公務員なのでそれなりの退職金は出る。しかし、公務員には失業保険が用意されていない。とにかく何か仕事をしなければいけないが、今さらコンビニのバイトなんてできない。そもそも、パワハラの後遺症で不安感や手の震えがある。今までやったことの仕事を行うストレスを思うとつらすぎる選択だと思った。
その当時、海外からのインバウンドで宿泊先不足が叫ばれていた。海外でエアビーが爆発的に人気となり、日本においても外国人の宿泊先として「ゲストハウス」を運営しようという動きが始まっていた。
そのころちょうど、父の生まれた大分県豊後高田市は「住みたい田舎総合1位」という話を聞いたのだ。早速、豊後高田市役所に行って話を聞いてみると、空き家バンクで家を借りると修繕費で40万円、不用品の片付け、ハウスクリーニング、仲介不動産屋への支払いにも補助が出るとのこと。さらに移住者が開業すれば、100万円の補助ももらえる。極め付けは、Uターンならぬ孫ターンには奨励金が出るとのこと、これは絶対豊後高田で開業しろということかと確信した。
【コラム2】 起業に関する補助金について
私の場合は、移住と起業を同時に行ったので、その両方の制度を活用させてもらいました。ご自身が始めたい地域の自治体が行っている制度について調べることは大切です。
地方においては空き家に関する問題は深刻です。移住者向けに「空き家バンク」のホームページを用意している自治体が多いので、そこに安くて雰囲気のいい物件がないか調べてみるのも面白いと思います。
移住者でないと利用できないとされていても、それはあくまでも建前です。移住者と現在の住民とどちらを大切にするのか!とやさしく問いただしてみてください。こっそり物件についての情報を教えてくれます。どこの空き家バンクも、自治体直接が借り上げるのではなく、あくまでも情報提供なので、大家さんとしては賃貸収入が入った方がいいのですから。
起業に当たっての資金調達についても、自治体の制度をよく研究しましょう。直接、自治体の商工課等に出向いて詳しく聞くのが良いでしょう。新たなチャレンジに関して補助する制度がかなりますし、女性の起業に特化した制度もあります。支給要件は様々なので、あっさりやりたいことを担当者にぶつけて調べてもらう方がいいと思います。また、商工会議所などで行っている起業に関するセミナーや相談会で情報を取集しましょう。
3 ゲストハウスを開業しよう!
さっそく空き家バンクの登録物件を選ぶために、市職員と現場に出向いた。3~4カ所を巡ってわかったのは、やはり、映画のロケにも使われて観光地化している昭和の町の路面店は、大家さんも強気で家賃を設定していて、それなりに高い。ここでゲストハウスを開業しても、繁盛するかどうかわからないので、毎月の維持費はできる限り抑えたい。
そんな時に、昭和の町の中心ではないが、橋を一本渡ったところにある物件が目についた。そこは元々、洋品店をやっていたのだが、現在その洋品店の店舗部分は、地元の老人クラブ連合会が借りていて、事務所と会員向けのリサイクルショップを運営している。その2階住居部分が比較的安い家賃で登録されていた。
今まで泊まったゲストハウスは、ちょっとわかりづらい場所で営業していた。わかりづらくても予約はインターネットでおこなって、宿泊者は場所を探してやってくるのだから、別に路面に面している必要はない。そう思ってみると、表通りに面したリサイクルショップからぐるっと回ることになるけれども問題ないと思った。
もう一つは、ゲストハウスを開業する時の「100平米の壁」の問題がある。元々、大正時代にできた古い建物なのだけれど、建物をつないだような作りなのだ。建物の一部が昭和風の作りになっている部分があり、隣の家との壁を抜いてつないだ様子がある。そのため、二階部分はかなりの広さになって。ここの部分も入れると、ゲストハウス全体が100平米を超える。
100平米を超えると住宅から宿泊施設に用途変更するための建築確認が必要になるのだが、旅館法で決められた規定が適応されるので、それに応じた改修が必要になのだが、そうなったら最後、いちいち規定に合わせるために補修するより建て替えた方が安く上がるのだ。ゲストハウスとして使用する部分と、プライベートな部分を区分けして、最終的には100平米内に収めなくてはならない。
二階の大正時代に建てられた部分には、8畳間が二つと5畳の部屋、そして、奥にある昭和の建物には10畳の部屋と倉庫となっていたので、大正時代の建物部分をゲストハウスとしてリフォームすることにした。
【コラム3】開業場所について
私の場合、ゲストハウス開業の予定が、絵本屋へと変わったしまったので開業場所に関しては完全に失敗でした。しかし、この後、不利な状況を挽回すべく、様々な宣伝を行った結果、SNSやTV番組を見たという遠方からのお客が増加して、奇しくも広範囲に名前が売れていきました。結局、私自身が地域の有名人になって絵本屋以外のことも関わることになったのです。ですから何が功を奏すかわかりません。
しかし、基本的には通りすがりの人が入りやすいお店を目指すことです。しかし、当然そういったお店は家賃が高額です。
後のコラムで提案しますが、ママ友や校区内での居場所としての「絵本屋」というコンセプトであれば、開業場所の選択はかなり変わってきます。ご自宅のスペースでもいいですし、入りにくいというような場所も、知らない人が突然入ってこないという意味ではメリットになります。
最初に言ったように、古本屋はもうかりません。ですので、できる限りお金を使わないという部分を重要視すべきです。そうすれば、移転したり業務形態を変更する場合でも気楽に行えます。
私のように、最初から資金投入すると動きが取れない状況になりかねません。
4 緊急事態発生!開業できない?
開業に向けて、リフォームを専門としている若い大工さんを紹介してもらって、見積を作ってもらったり、消防設備の相談や保健所への届け出について調べたり、市の起業補助金の詳細について教えてもらいに行ったり、税務署に個人事業主の届け出を出したりと、退職後の1ヶ月で開業に向けての準備が終わり、あとは、県土木建築事務所で建物の図面見せて承認をもらい、保健所の開業申請を行う。その後、市にリフォームや消防設備の見積書と一緒に補助金の申請を提出し、いよいよリフォームの開始という段取りになっていた。
県土木事務所には、建物の平面図持っていった。ゲストハウス部分は100平米以下で、その他の部分とはしっかり区別されていると説明するためだ。
県土木事務所では課長と職員3人が応対してくれたのだが、課長から1階部分の店舗について聞かれ、ゲストハウスの営業は2階部分で行い、1階部分は市の福祉課が借り上げて、現在、老人クラブ連合が事務所と不用品の交換のために使っているとの説明をした。すると、課長は、それでは店舗部分も営業していることになるので、用途変更しなければ無理です。と言い出したのだ。私は、店舗部分とは全く関係がないことを主張したが取り合ってくれない。
また。いくつかのゲストハウスに泊まった経験から、古民家を改装したカフェ等を併設しているゲストハウスもあることを説明したが、「それは違法ですね」の一言の木で鼻をくくったような一言で片付けられた。さらに課長は、「民泊でやればいいじゃないですか。」と、当時はまだ法律案さえなく、いつ始められるのかもわからない民泊法を持ち出して、せせら笑うように言い放ち、資料をまとめて私に押し付けて自席に戻った。他の職員も自分の席に戻って仕事を再開した。
私も刑務官をやってきたので、いろんな申し出や願い出を受けることはあった。中にはどう考えても受け付けることのできない無理なことを言い出す者もいる。しかし、だからといって全く受け付けず、申し出がなかったことにしたことは、ただの一度もない。許可できない場合でも少なくともその理由をわかるように説明した。こんな門前払いをしたことはなかった。
そうなのだ、公務員だった時は、それなりの役職についていたので、どこでもていねいな応対をされていたのだけれども、今は、ただの初老の無職者なのだ。彼らにとっては理屈のわからない素人で、いちいち法律の内容を説明するのも願い事を検討することも、仕事時間を割くまでもないどうでもいい存在なのだ。その申請に人生がかかっているなどど思いもしない、ただの事務処理なのだ。いや、事務処理にも値しない。なかったことにして、受け付ける必要のないたわごとなのだ。
何度も刑務所に入って来ている高齢の受刑者に、社会での福祉サービスの説明をしても、無表情で、
「シャバでは誰も相手になんかしてくれませんよ」
と言っていたのを思い出し、私も同じ境遇になったのだと思ったら、手が震えだした。
【コラム4】建築法や消防法、食品衛生法等について
この物語の場合は、当時の建築法に基づき、土木建築事務所において理不尽な扱いを受けたと書きました。その結果、ゲストハウスの開業をあきらめることになるのですが、ゲストハウスの場合は旅館業法で、飲食店に関しては食品安全衛生法などの基準が設けられていて、勝手に行うことはできません。また、消防法によって、一定の規模の店舗には集中火災報知器等の設置が義務づけられています。ですから、絵本屋にカフェを併設する場合は注意が必要です。
ゲストハウスの場合もカフェを含む飲食店の場合も、まずは地域の保健所に、物件の図面をもって相談に行ってください。店舗を借りたりする前に事前相談するのが一番です。
ただ、古本だけを売る場合には通常の商店と同様なので、よほど大規模な物件以外は特段の規制はありませんが、それであっても近くの消防署に確認に行くことをお勧めします。規制はなくても家庭用の火災報知器と消火器は用意するように言われると思います。場合によっては、確認に来てもらえます。いざという時にはお世話になりますので、事前に承知してもらった方がいいでしょう。
法令等の規制は、その時々に変わりますので、インターネット等で確認するだけでなく、監督する役所に相談してみてください。事実、宿泊に関する法律は、当時と現在ではかなり変わってますので、今でしたら私の店舗で宿泊業の開業も可能だと思います。(やりませんが・・・)
5 絵本屋をすることを思いつく
また、外に出られなくなった。1階にはキッチンと2部屋、2階には8畳間が二つと10畳間の和室、5畳と4畳半の洋部屋、その他屋根裏部屋と倉蔵と車庫の広大な古民家で、私は一人引きこもっていた。
引きこもっている間も必死で考えた。豊後高田から出て行って、広島の自宅に帰ることも考えた。しかし、市の移住者優遇制度で住民となっているのだから、最低2年はここで過ごさなくてはならない。出て行けばその優遇措置を全て返納しなければならないし、すでにかなりの金額を投資している。
だからと言って、この広大な古民家に一人生活してアルバイトしながらいつ始まるかわからない民泊法を待つのも嫌だ。そもそも、民泊法ができても、年間の営業日の縛りがあるのでは、何をしに来ているのかわからない。
他の商売をするには、立地が悪すぎる。そもそも、通りから見えないだけでなく、出入り口も普通の民家だ。それでなくても観光地の昭和の町から離れて、地元の人間以外歩いていない。お店ですと言われても、入るのを躊躇するような作りで、ふらっと入れるような感じにはならない。
飲食業なら隠れ家とか離れとかいう洒落たイメージで営業することもできるかもしれないが、そもそも、元刑務官が今から料理人になって、何を提供できるのか。監獄飯か?
考えても考えても思いつかない。何かないかとインターネットで検索するが、なんのアイデアもアドバイスも見当たらない。しょうがないので、歩いて10分ほどにある図書館に通っていた。
ある日、図書館の一角にある畳の小上がりで、母親が小さな子供に絵本の読み聞かせをしていた。子供は、まだ1歳になったばかりのようだった。言葉もおぼつかないが、母親の読み聞かせに喜んで声をあげているのがわかった。成人して独立している子供たちのことを思い出した。何度も何度も同じ絵本を読んでくれとせがまれた。特に長女は「ならのだいぶつ」という本が大好きでボロボロになるまで何度も何度も読まされた。
図書館の親子を見ながら、今読んでる本を子供が気に入ってしまったら、帰る時は大変だろうなぁ、泣き叫ぶし、図書館の本も痛むしなぁ。と思っている時に天啓のように閃いた。そうだ、中古の絵本専門店はどうだろう。
その場で、絵本専門の古書店を検索した。東京にはあるようだが、地方には見当たらない。古書店を検索したが、ブックオフのようなチェーン店ばかりが引っかかる。それらに押されて、地方の古書店は次々閉店している。生き残っているのは個性のある店で、遠くからでも行ってみたいと思わせる品揃えをしている。絵本専門なら個性になるんじゃないか。
中古絵本について考えた。絵本は総じて値段が高い。子育て世代にとってはかなりの負担になる。中古でも子供にたくさん絵本を買い与えたいという人たちはいるはずだ。それに、他の書籍と絵本の決定的な違いは、電子書籍化に向かないことだ。絵本がタブレット端末に収まった瞬間に、それは絵本ではない何かになってしまう。
【コラム5】絵本屋について
絵本屋の開業について天啓を受けた瞬間について書いています。読んでいただいのでお分かりだと思いますが、私の場合、絵本屋をやろうと思って始めたわけではないのです。ですから、絵本に関する知識もほとんどありませんでした。私がお客さんからの絵本の相談に乗れないのはそのせいです。つまり、私以上に絵本がお好きな皆さんの方が、いい絵本屋になれると思うのです。
ただ、私がその時思いついた「絵本屋」というものに対する情熱は間違いありませんでした。その後、この「絵本屋」を中心として、私も含めたたくさんの人を巻き込むストーリーが始まったのです。そして、その流れは止まっていません。皆さんもその流れに巻き込まれる人になってもらいたい、というのがこの本なのです。
6 誰も見たことのない絵本屋を作ろう
決めてからの行動は早かった。開業するために必要な手続きはすでに一回行なっているからだ。まずは、一旦は断ったリフォームと電気工事業者に連絡を取った。
どちらも私がゲストハウスを諦めた経緯を知っており心配してくれていたのだ。そこに、絵本屋をやりたいという話を持っていったので、喜んで協力してくれた。二人とも地元の若い職人で、それぞれ就学前や小学生の子供がいる。この子たちが喜ぶ店づくりをしようと話し合った。
しゃべっていると、面白いアイデアがどんどん湧いてくる。二階部分を全部ぶち抜いて、子供達がかけまわれるようにしよう。立派な梁があるのだからそれも見せよう。床は柔らかい杉材にしよう。そこで寝っ転がったら木の香りがしたらいいよね。絵本は表紙が見えるようにして、本棚の前に座れるようにしたらそこですぐに読めるかな。落書きできる黒板もあったらいいかも。図書館にあったような小上がりも欲しい。ゆっくり哺乳ができるように授乳室も作ろう。一階入口が一般の民家の入り口なので、中が見えずに入りにくかったので、道路沿いの壁を取り去り、新しい出入口を作った。それと、自宅の広島から猫二匹がこちらに来ることになっていたので、階段をつけて、猫が梁まで上がれるようにした。自分たちの子供が喜ぶことを想像しながら着想をスケッチにしていった。全員、ゲストハウスを企画していた時より断然ワクワクしている。今までに見たことのない絵本屋を作ろう。
【コラム6】夢を語ろう!形にしよう!
振り返ってみると、この時期が一番面白かったように思います。一人では思い付かないことを何人かで話すことでどんどんアイデアが出てきました。意欲も湧いてきます。
アイデアを出すときは、ノートに思いついたことを書き留めて、下手でもいいのでイラストを書いてみましょう。本棚とか机の状況、子どもたちが遊んでいる様子、レジの状況や雑貨の配置とか・・・そうすると、イメージがきちんと伝わって共有できます。
そんな感じで書き留めたバラバラのイメージの断片を、一枚のイメージボードに仕上げてみてください。できれば色付きで・・・そうすることで、モヤの中にあった、作りたい絵本屋の実態が現れてきます。
先にコンセプトを作って進めていくのもいいのですが、色々な話をするうちに思わぬ展開になって、より楽しいアイデアが湧いてくるのが楽しいです。
なので、一人での起業もいいですが、友人や知り合いを巻き込んで立ち上げる絵本屋という方向も考えてみてください。
7 開店準備と広報戦略
豊後高田市で起業する店をゲストハウスから絵本専門古書店に予定変更をすることを申し出た。商工会議所にも相談に行ったが、近隣の人口を考えたら絵本専門店だと営業が難しいのではないかと言われた。そもそも、豊後高田市は個人営業の本屋はほとんどなくなっている。チェーン店の書店も、本以外の文房具や雑貨で営業を行なっているようだ。そもそも、個人の古本屋なんて存在したことがないらしい。担当者は子供も少ないし、新しい図書館があるのに需要の見込みはないのではないかという。
しかし、私としては、他に方法がないのだ。立地が悪く、二階にある店には、観光に来たお客さんや店頭を見てふらりとやってくるようなお客さんはあてにできないのだから、他にない個性的な店にして、広範囲から絵本好きを呼び込むことしか残されてない。問題はいかにして周知を図るかということだ。
そこで、地方新聞に目をつけた。退職して豊後高田に移住してすぐから、私はほぼ毎日SNSの更新を続けていた。ゲストハウスを開業しようと思っていたので、できれば国東半島に興味があって、旅行先として検討している人遠くの人の目にとまることを期待して、開業までの様子をリアルタイムで紹介していたのだ。
そのようなことを続けていると、興味を持ってくれる人もたくさんいる。その中に、地方新聞の豊後高田市駐在記者のフォロワーがいた。その記者とは、地域のイベントで顔を合わせて知り合いになっており、開業したなら記事にして欲しいとお願いしていた。ただ、大分県全体を見回せば、すでにゲストハウスはそれなりの件数あるし、記事にする際は、豊後高田市で初めてのゲストハウスとして紹介してもらうつもりでいたのだ。
しかし、大正時代の古民家をリフォームして絵本専門の古書店に改装し、30畳のスペースで親子がゆっくり読み聞かせをしたり、遊んだりできる空間を、元刑務官が開業したとなったら、これはなかなかニュースバリューがあるのではないか。
【コラム7】新刊本か古書店か
そもそも話ですが、絵本を扱うに当たって、なぜ、古書店にしたかの話です。
新刊図書の取り扱いは、一般的に取次と呼ばれる「卸」があります。大手として「トーハン」と「日販」があります。
本は一般の商品と異なり、定価販売で販売されています。簡単に言うと、売れ残るようなら取次に返すことができます。その代わり、利益は定価の2割です。また、毎月ある程度の仕入れをしなくてはなりません。聞いた話では、「5万円以上」となっているようですが、5万円の2割は1万円です。つまり、月10万円の利益を出すためには、50万円販売する必要があるのです。ちょっと私には無理でした。
一方、中古図書は自由に値段をつけることができます。うちの店「えほん月波や」で50万円の売り上げがあったとしたら、ざっくり、35万円の利益になります。利益率約7割でやってます。ただ、純利益ではありません。売れない場合は返品できないのでその部分は負債になります。
古書の仕入れについてですが、一般的な古書店は古書店協会に加盟して、毎月行われる交換会という集まりがあります。各古書店が集めたものを入札するのですが、この集まりに入るためには5万円程度が必要です。小規模な古書店ではそれだけでも負担です。
そこで、私の場合は、インターネットオークションを利用しました。古書店のうち、絵本専門に50冊や100冊の量でネットに出品している業者や個人がいますので、その内容をよく見て入札します。
最初は程度の悪いものが混ざっていたり、思っていたのと違ったりしますが、何度かオークションを経験すると見る目ができてきました。お教えしたいのですが、こればかりは実際にやってみないとわかりません。
しかし、一番いいのは個人からの対面での買受けです。送料もかからないし、古書の程度もちゃんと確認できます。そして、絵本好きのグループで起業するのであれば、それぞれに持ち寄った本から始めて無理をせずに少しづつ行うこともできます。値段付けも経験です。難しいことはないと思います。自分が払ってもいい金額を設定するというのが原則です。
【コラム8】古書店の届け出等、開店までのスケジュール
「古物」とは、一度使用された物品、新品でも使用のために取引された物品、又はこれらのものに幾分の手入れをした物品をいい、古物営業法施行規則により、13品目に分類されています。その中に「書籍」があります。古書店はこのカテゴリーに入りますが、古物商許可がない者が古物の買取や販売を行うと違反になります。
最初、難しそうに感じて行政書士に委託しようかと思ったのですが、約10万円必要だとわかりました。ところが、調べてみると自分でできることが分かりました。
インターネットで調べて、県警のホームページから書類をダウンロードして作成しました。結果として、2万円と少しで申し込みができました。申請後、約50日後に公安委員会の許可証が届きます。開店までの準備は、その期間を考え合わせてスケジュールを作ってください。カフェ等を併設する場合は、飲食店開業許可のスケジュールも合わせて考えてください。あらかじめ工程表を作成することをお勧めします。
8 新聞記事にしてもらう
店のリフォーム工事を準備したり、販売する中古絵本を集めながら、記者には逐次進行状況を伝えていた。しかし、なぜ、仕事を辞めて豊後高田市に移住して、儲かりそうにない絵本専門の古書店を始めたかについて聞かれたら、正直に
「仕事でパワハラを受けて適応障害になって退職して、ゲストハウスを思いついたんだけど、世の中そんなに甘くないということを思いしらされて、考え付いたのが中古絵本販売です」
などと言える訳もなく、なんとか、それらしいことをひねり出した。
それは、
「刑務所や少年院での勤務の中で、受刑者や少年たちが、他人に対する思いやりという部分が欠けており、人とふれあう経験が乏しいと思った。そして、それが犯罪などの原因になっていることを痛感し、子供の成長には、絵本の読み聞かせや親子のあたたかな交流が必要で、気軽に絵本に触れ合う場を作りたいと、故郷の豊後高田市に移住し、絵本専門古書店を開業した」
という理由だ。
後付けになったが、考えているうちに、確かにそういうところもあると妙に納得し、自分でもその気になって取材に答えていたら、開業日に合わせて、かなり大きな記事となって地方版に掲載された。
そうなると、地方都市には珍しい取組であったり、「絵本」というキーワードが、文化や子育てというカルチャー面からのニーズに合致したのか、結局、大分のNHKや地元民放各社の夕方のローカル枠、朝日、毎日、読売、西日本等の新聞の地方版、フリーペーパーや地域情報誌と、大分県内で考えられるほぼ全てのマスコミに取り上げてもらった。宣伝費に換算したらかなりの金額である。
それまで、SNSで情報発信は行なっていたが、やはりマスコミの影響はすごい。それをきっかけで来店される方が徐々に増えていた。近隣では別府、中津など、車で1時間半かけてくる大分市内の方も相当数いた。
中には、「このお店と同じように絵本を楽しめる店が作りたいのです」という方が何人も現れ、その後、夢を実現した方もいた。
【コラム9】絵本屋を広く知ってもらうために
絵本屋の開店準備期間を利用して、InstagramやTwitter等のSNSで宣伝を行うことを考えます。開店までの経緯を見ていただくことで、見ている方に、自分も一緒にお店を作っているような気持ちになってもらいましょう。
SNSには広告ができる機能がついています。特に、InstagramやFacebookは使い勝手がいいと思います。私の場合は、ターゲットを約100キロメートル圏内の「子育て」「絵本」「読書」等の興味がある人に絞り、1ヶ月に1万円くらいの金額での広告を依頼しました。
その他、チラシを作成して近隣へのポスティングや新聞折り込みをしましたが、一番効果があったのはSNS広告でした。
それと、各地域にある地区限定のフリーペーパーも効果がありました。飲食店や美容室の広告が多いので、絵本屋とターゲットが被っているだけでなくて、それらの中に「絵本屋」があると注目が集まったようです。
改めて考えると「絵本屋」という存在は、他の小売業と比べて公共性があります。それは、絵本から連想できる、「子育て」「アート」「文学」と言う言葉や、その人それぞれが育つ中で受け取った愛情の記憶が相まって、他の文学と違う特別なオーラを纏っていると言っても過言ではありません。
私が「絵本屋開業」の話題を地方新聞に持ち込み、かなり大きな記事になったのは、そういった「絵本」の力のおかげです。それを信じてどんどんPRしてください。
9 開店はしたけれど・・・
開店当初はそんな風に沢山の来店者があったが、やはり立地の点で難しいものがある。特に秋に開店してやがて冬になると、生活必需品でない絵本などは売れ行きが悪くなる。そんな中でも、いつも来てくれるのが、近所の子ども達だった。
最初、子連れの親子のために、ゆったりと自由にコーヒーを飲めるようにしようワンタッチ式のコーヒーサーバーを設置して無料で開放した。ところが、近所の子ども達がやってきては、無料コーヒーに砂糖やミルクを大量に入れて、最後はそのまま放置して帰ることが度々起こった。用意したコーヒーは瞬く間に消費される。やめるように叱り飛ばせばいいのだろうが、できれば叱りたくない。そこで、コーヒーは大人限定にして、冷蔵庫を用意し、2リットルのペットボトルを備え付け、子供には無料でジュースを出すようにした。
一応それで、コーヒーがあっという間になくなるということはなくなったが、ジュースをこぼすのはしょうがないにしても、何種類ものジュースを混ぜて結局まずくなって飲まなかったり、極め付けは、持ってきた水鉄砲にジュースを入れて、人に向けて打つ子が出てきたり、それはさすがに叱りつけたが、近所の子どもの溜まり場になってしまった。
普通、子どもが入り浸る溜まり場ができれば、親御さんや近所の人も怪しむところだが、すでに新聞やテレビで報道されている「子どもが健やかに育つ場所」的な目的が広まっていたので、子ども達も心おきなく入り浸るのだが、そこには私が見落とした大きな問題が発生していた。
【コラム10】いろいろな子どもたち
創業開店前に、市の「子育て支援課」に顔を出しました。これは、絵本屋が子どもの溜まり場になるので、その店主が男性のおじさんであるために、いろいろと誤解を産むのではないかと考えたからです。
「子育て支援課」にでは「何しに来たの?」という対応だったのですが、じっくりと話をすると理解していただきました。更に、定期的に職員が様子を見に来ていただくことになり、問題のある子どもを発見した時は相談に乗ってもらうことになりました。
その後、現在まで「子育て支援課」との交流は続いていて、問題のある家庭の子どもの様子を伝えたり、子ども向けイベントに招待してもらったりなどを行っていて、地域の子ども見守りスポットの一つにしてもらっています。
10 子どもは絵本を買わない
それは、いくら子どもが沢山入り浸っても、全く売り上げにならないのだ。自分が本が好きなので、店を始める前は、お小使いの少ない子どもでも、中古絵本は安いのから自分が気に入った本は買うだろ、あるいは、親にねだって買うかもしれない、と思っていたのだが、全く買わない。
本を取り出して読んでいる子どもはいるが、それも数えるほどで、ほとんどの子が黒板に落書きしたり、走り回ったり、話したり、ゲーム機やカードゲームを持ち込んで遊んでいて、全員が無料のジュースを飲んでいる。
最初は腹を立てていたが、そのうちだんだん考え方が変わって来た。考えてみれば、高齢者の集う場所はたくさんあるのに、子どもが安心して集まれるところは少ないのかもしれない。まぁ、市から補助金も受け取っているし、その分は子ども達に還元してもいいのではないかと思うようにしたら、なんだかいいことをしているような気になって来た。
それに、小さな子どもをつれて絵本を買いにくるお客さんや、読み聞かせをするために絵本を探しにくるお客さんは、子ども達が学校に行っている時間帯にやってくるので、騒がしい時間帯とは重なっていない。そこで、子ども達には、
「小さな赤ちゃんがいる時や、絵本を探している人がいる時は邪魔しないように」
と言い聞かせたら、ちゃんということを聞いてくれるようになった。
走り回ってうるさい時や、興奮して大声を出すような時は注意するが、子ども達の方が店での過ごし方を学んでいく。そして、ジュース代くらいは自分たちで払ってもらおうという意味で、駄菓子を置くようにしたので、一応、子ども達もお客さんという位置付けになり、こちらも気分的に楽になったのだった。
【コラム11】子どもは本当に絵本を買わない
絵本は価格が高いのですが、安い中古本であっても子どもには買えません。更に言えば、絵本を喜ぶのは3年生くらいまでで、その後は、youtubeやゲームに移行していきます。こちらとしては、絵本を卒業したら児童文学に移行してもらいたのですが、そうはならないようです。しかし、本が好きな子どもは学校の図書館や地域の図書館を利用しています。絵本を購入するのは大人の絵本好きです。
出版社もよくわかっているようで、大人にウケる絵本を発刊する傾向があります。それはそれでいいと思うのですが、やっぱり、子どもの成長過程で子ども自身が養分として欲しがる絵本は用意してあげる必要があると思うのです。
動物と人間の違いは、物事を象徴化することができることです。例えば、皆さんご存知の「アップルマーク」があります。これのマークを見ると皆さん「りんご」を思い浮かべます。また、例のコンピューター会社とか黒いタートルのおじさんを思い浮かべます。つまり、現実の物体や出来事を「アップルマーク」に乗っけることができるのです。絵本はその練習場所です。子どもの中に沸き上がってくる感情や感動を象徴化して、絵に落とし込む訓練ができるのが絵本だと言えます。そこから、言語や思考能力の発達や芸術的なものを受け取る感性等が育つのだと思うのです。
11 移住者と地域住民との交流活動
SNSで、ほぼ毎日絵本屋のことや身近なことを発信していたら、結構たくさんの人が見ていてくれて、知り合いが爆発的増えた。店に来てくれる方もいれば、こちらから出向くこともあったが、基本的に暇な店だし、飲食業と違って来店したら何かを注文しなければならない種類の店ではない。それに、コーヒーやジュースは無料で提供している。人が出入りしてなんとなく話していくようになった。
最初は子供達の溜まり場になっていたが、やがて、移住して来た人たちや、市の担当の部署から聞いて来たと、移住希望者が情報収集に来るようになった。そんな時に、市から移住者の交流や地域定着の橋渡しをする団体を立ち上げてみないかという話が舞い込んできた。
自分自身もまだ地元のことがよくわかってないけども、移住当初は全く知り合いもなく、誰に相談していいのか分からす不安を感じていたことを思い出した。
元地域おこし協力隊で、そのまま豊後高田で生活している二人の女性とカフェを経営している女性の4人で組織を立ち上げた。
移住者と地域の人たちが交流できるお茶会を定期的に開いたり、地域で起業した人たちを紹介するマルシェを開いたりしていると、そこで知り合った人たちがまた新しいことを始めていることがとてもうれしい。
【コラム12】絵本屋という肩書きは社会参加のパスポート
人生において、「絵本屋さん」と言う肩書きを持つことで参加できることが向こうから押し寄せてきます。「絵本屋さん」と書かれた名刺を受け取ったらどう感じますか。絵本が好きなのは当然ですが、絵本を通じて感じるあたたかな気持ちや文学的や芸術的な雰囲気を受け取るのではないでしょうか。
「はじめに」において私が皆さんに、「私以上にうまくやれる」と言うようなことを書いたのはそのことです。いかつい初老の男性というのは絵本屋さんから最も遠いところにいますし、移住者なので地域に知り合いもいません。そんな私であっても地域とつながり、人々を結びつける楽しさを知ったのです。すでに地域に地盤を持っていたり、友人の多い人であれば、最高のパフォーマンスを発揮できると思うのです。ぜひ、「絵本屋さん」の肩書きを手に入れてください。
12 読み聞かせボランティア
絵本屋を開業してしばらくして、読み聞かせグループの方から幼稚園2カ所の読み聞かせに誘われて定期的に訪問するようになった。20人くらいのクラスで紙芝居を2つ演じたのだけど、熱心に聞いてくれることがうれしい。幼稚園自分の子育ての時期には全く子育てらしきことをしなかったのだけれど、改めて子どもに関わると、キラキラした好奇心に溢れた眼差しと素直な反応にこちらが元気づけられることに気がついた。
紙芝居を演じていると、移住者の元美術教師のご夫婦から、地域の昔話を題材としたオリジナルの紙芝居を貸してもらえることになった。今度はこれを持って小学校の読み聞かせの時間に演じるようになった。結局、地元3校を定期的に回るようになった。
そんな活動をしているうちに、絵本屋の方に来てくれる人もぼちぼち出たきた。どのクラスに行っても、見知った子どもがいる。子どもたちには私のことを「絵本屋のおっちゃん」と呼んで貰っていたので、小学校に行くと「おっちゃんが来た!」と「絵本屋のおっちゃんだ!」等と口々に呼ばれる。先生は注意するけど私としては子どもたちにそんな風に呼ばれて人気者になるのはウエルカムだ。その子たちがまたお店にやってきて、「おっちゃん!この前面白かった!」と言われるのはすごくうれしい。
しかし、新型コロナウイルスのため、店舗も読み聞かせも中止を余儀なくされた。
【コラム13】読み聞かせ仲間で起業しましょう
読み聞かせグループの中には活発な活動をしている方達がいます。その一つに中古絵本屋の作り方をお話ししたのですが、たちまちグループ内で話題になって、「あそこに空き店舗がある」とか「自宅に使わない部屋がある」等で盛り上がりました。グループの予算で買っている絵本をかなり大量に保有していたり、グループとしての拠点を作ろうと考えていたので渡りに船であったようです。
その後、新型コロナウイルスの感染状況によって計画は止まっているようですが、グループの皆さんの共通の目的ができたので、活動がより楽しくなっているようです。
私のような初老の男性が絵本屋を行うより、すでに地域で活動して実績のあるグループが絵本屋と立ち上げるというのはかなり面白いことになるようです。絵本を中心として地域の居場所ができると楽しいですよね。
第2章 新型コロナウイルスの蔓延に伴って・・・
コンサルタント業を始めました
中古絵本屋を始めることは【コラム】で述べたように難しいことはありません。しかし、これは後になって感じたことです。立ち上げ準備を行っていた時は、書籍もありませんし、インターネット等で参考にするものもあまりかったのでそれなりに大変でした。
2019年の後半あたりから、中古絵本屋の立ち上げコンサルティングを行い始めました。コンサルティングを始めたきっかけは、当店にくるお客さんから、こんな店を作ってみたいという話を伺ったからです。
最初はお店での簡単なお話しだったのですが、込み入った部分はなかなか伝わらないというところもありますし、それぞれの皆さんの状況も違うので、私の経験も含めてアドバイスさせていただきました。中には、販売する古書や本箱を含めて用意するということも行いました。
新型コロナウイルスへの対応
そんな中、2020年2月頃から新型コロナウイルスについての報道がはじまり、同年4月には緊急事態宣言が発令されました。私の絵本屋もコンサルティング業も大きな変化がありました。
当店については、緊急事態宣言に伴って完全休業しました。子ども連れの方や、お店のフロアーで長時間遊んでいる子ども達に万が一のことがあったら大変だと考えたからです。
同じ頃、移住者と地域の交流活動で知り合った知人から「放課後児童クラブ」で支援員補助をやらないかとの連絡がありました。ちょうど、休業を始めた時期だったのでお受けしました。
緊急事態宣言後は土日祝日のみの営業としました。来店者がほとんどいないと見込まれたことと、放課後児童クラブの仕事との兼ね合いで営業時間を変更しました。
コンサルティングした絵本屋も影響を受けてしまい、休業を余儀なきされて、店主さんは開店できる状況になるまで別のお仕事をされている状況です。世間一般の小売業と同様に影響を受けていますが、幸に、私がお世話させていただいた方々は、いずれも自宅等の一部を利用したりで開店していますので、被害は最小限です。いつ通常の生活に戻るかわかりませんが、現在は、再開の際にはすぐに対応できるように人とのつながりを増やしたり、地道にクチコミの宣伝を行っています。
第3章 子ども達の居場所としての絵本屋
保護司として考えること
保護司をしています。保護司とは犯罪や非行をした人たちが、再び過ちを犯すことなく、早期に更生できるよう保護司法に基づき、地域社会から選ばれ、法務大臣から委嘱された無給・非常勤の国家公務員です。
保護司は、民間人としての柔軟性と地域の実状に通じているという特性を活かし保護観察官と協働して更生保護の仕事に従事しています。具体的には、保護観察を受けている人と接触を保ち、生活状況を把握した上で、立ち直りに必要な指導や家族関係、就学・就職保護観察に当たるほか、本人が刑務所、少年院等から社会復帰を果たしたとき、スムーズに社会生活を営めるよう、帰住先の環境の調整や相談を行っています。
保護司として地元の対象者との面接や調整を行っているのですが、刑務所等の職員として勤務していた時とかなり感覚が変わりました。刑務所の中はどうやって社会に出すかということが課題でしたが、実際に社会で受け入れてみると、社会で生きていくことがどれほど大変かわかってきました。
刑務所では決められたことを守っていればいいのですが、社会においてはそれだけでは難しいのです。誘惑が多かったり、感情が高まったりすることが社会の中で自分だけで適切な選択をしなければなりません。しかし、これはかなり難しいことです。再び犯罪を犯さないようにするためには、地域の支えが必要です。排除するのではなくて、地域で寄り添い支える、ある意味、お節介くらいでちょうどいいと思うのです。
地域で支えるというのは出所者だけではありません。子ども達も同様です。地域で見守り地域で育てるとことができれば、非行や犯罪に走る前に立ち直ることができるのです。
子どもの居場所としての絵本屋
私の子どもの頃は、駄菓子屋がたくさんありました。そこが子どもの居場所になりました。今はコンビニの前とか公園の一角、ショッピングセンターのフードコートになっています。大人の目が届かないところです。子どもは子どもでバラバラに集まっている印象です。
そんな中で、絵本屋ができたらどうでしょう。まず、絵本好きの方々が集まります。本箱やテーブルなどを作るために、男性の助けが必要になりますので、あまり絵本に縁のない方々も来てもらいましょう。続いて、赤ちゃんと子育て中のお母さんやお父さんが集まります。なんだか賑やかになってきました。
駄菓子とか綿菓子などを置けば子どもたちが集まってきます。WiFiを使えるようにすれば小学校高学年や中学生なども来ます。自動販売機も置いておけば高校生になっても遊びに来るかもしれません。
絵本屋の空間を利用して、いろんな企画をしてみましょう。フラワーアレンジメントの講座とかヨガとかマインドフルネスの教室として会場料をいただきましょう。クッキーやパン、手作り雑貨やアクセサリー、今なら手作りマスクなど作家さんに販売場所として出品してもらいましょう。売り上げからいくらかいただきましょう。
何かあれば誰かが気づく。行政や学校などと日頃から顔見知りとなっていることは大事です。いろんな人がいつも立ち寄り、年代を超えて顔見知りになる場所こそ、本来の子どもの居場所なのではないでしょうか。
これは、カフェとか公民館のような公共機関では難しいことです。絵本という年代や性別を超えて愛され続けるているものが中心にあるから起こることです。
最初に書いたとおり、絵本の魔力は絶大です。絵本好きはよくわかると思います。その魔力を使いこなす魔法使いになって、地域で人と人を結びつけることができるのです。
第4章 終わりに
新型コロナウイルスによって、それまでの「普通の生活」が失われてしまいました。全ての人々が多かれ少なかれ影響を受けています。感染の不安、国の対策に対する不信感、他人と接触することができない孤独感、インターネットにあふれる不満や分断等が蔓延しています。感染症で起こる様々な事柄は大人以上に子どもに大きな影響を与えています。こんな状況で個人ができることはあまりないのかもしれません。
一方で、今回のコロナ禍は、家族や小さなコミュニティーの繋がりについて深く考える機会になったことも確かです。人々はつながることで癒やされ、励まされ、生きる力を与えられているのです。
人生の大半を、使命感を持って刑務官として勤務したものの、結局挫けてしまった私ですが、偶然に導かれてなってしまった「絵本屋」で、失った使命を再び思い出させてもらいました。絵本との出会いに感謝します。
最後に、「絵本を愛する全ての人々が幸せでありますように」
「えほん月波や」店主 かなや どうはん
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