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『保存用』岸田奈美さんエッセイ 24時間で消えるnote(2020年4月27日)

この記事は、note出身の作家岸田奈美さんが書いたエッセイを保存するためのものです。24時間で消える記事がコンセプトですが、消えちゃうのはあまりにもったいないし、noteに転載かまわないとありましたので、ここに保存します。

岸田さんの記事を深読みしまして、あえて有志による保存がされることで、岸田さんの熱い炎を消さない事にしました。

ご本人がご覧になるか分かりませんが、最後に私のコメントをつけました。彼氏について、どうしてもお困りの際は、ご連絡ください。

↓↓ ここから引用部分。岸田奈美さん の記事になります。
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Instagramには、24時間で消えるストーリーという機能がある。フォトジェニック(=映える)じゃない写真を、気軽に投稿できるのが良いそうだ。

と言うわけで、私もフォトジェニックじゃないnoteを書いてみようと思う。Instagramなんてハイカラなものは使えない。以前、パルコで買った一張羅のアッパッパーで着飾った姿を何十回も撮り直して投稿したものの、疲れた。

このnoteは24時間で消えるよ。SNSで告知もしないよ。下書きも校正も一切してない一発書きだから、おかしなところもいっぱいあるよ。でもいいんだよ。消えるから。

消えるけどなんか運良く読んじゃったから記録を残したいという人は(いるのかそんな人)、SNSでシェアしても、スクショ撮って公開しても、コピペしてnoteやメモに貼りつけても良いよ。岸田が書いたってことがわかるようにだけしといてね。
烈火のごとくモテたい

彼氏がほしい。

嘘だ。彼氏とまではいかないから、モテたい。生まれてこの方、あまりモテたことがない。

実は、学生から会社員のはじめの頃まで、私は1ヶ月以上の間を空けることなく彼氏がいた。このせいで私の母は「うちの娘ったら、モテちゃって」と呆れていた。でも私はわかっていた。呆れの裏っかわの柔らかいところには「若い頃の私に似て」が隠れていることを。

残念ながら、それは完全に見誤りだ。モテないから、近寄ってきた男にすぐ惚れるのだ。おおかたの人間は私よりも良くできてるとは言え、私が付き合ってきた男は、屈指の変人奇人怪人ばかりだった。

霊を降臨させる新興宗教の幹部になった男。(なんで)

スペインのトマト祭りに心酔し、仕事を放ったらかして日本でもトマトのようなものを投げ続けてる男。(どうして)

3股をかけている昼顔人妻と不倫の恋にのめり込んだ後、どうしても忘れられず自ら泥沼にダイブしていった男。(やめて)

私に隠れてドM専門風俗に通い詰め、スーツのポケットから満タンになったスタンプカードが2枚出てきた男。(せめて隠せ)

あかん。このままでは、元カレびっくり万国博覧会を鋭意開催してしまう。

せめて母数を増やしたい。そこから自分でじっくりと、人間を見定めることをしてみたい。マイルドな奇人くらいなら全然受け入れられる。

しかしこのご時世なので、外で出会うことはできない。

そこで私は、ナウでヤングな友人が主催するという、Zoom合コンなる甘美すぎる響きに過呼吸を起こしそうになったイベントを、見せてもらうことになった。

参加ではなく、いきさつを見せてもらうことになった。合コンのパブリックビューイングである。この時点でもうモテる側には行けないんじゃないかと頭をよぎったが、背に腹は代えられない。

そこで、びっくり仰天した。

会話がほぼ、男からの質問でしか展開されていないのだ。

男「○○ちゃんは、大阪出身なんだ!なんで東京に来たの?」
女「大阪の会社に就職したら、青山に支社ができたので」
男「そうなんだ!青山ってオシャレでいいよね、通勤するだけで気分が上がるよね。美味しいアップルケーキの店があるんだけど、知ってる?」
女「知らなーい」
男「そっか!あんまりカフェとか行かないタイプ?」
女「本とか読む時は行くかな」
男「へー!どんな本読むの?」

こんな感じだ。驚愕すべきは、これは別に男が相手にされていないわけではない。女はかなり楽しそうで、このあと、二人でZoom飲みをする約束まで取り付けていた。

私は、自分の心の中に、一抹の腹立たしさを抱えていた。

パプリックビューイングが終わり、私は友人に尋ねた。

「なんかさ、キミがすごく気をつかっていろいろ質問して話を広げてるのに、その気づかいに報いない返事ばっかりで、モヤモヤしたよ」

そう言うと、友人はキョトンとして答えた。ちなみに友人は、かなりの面食いである。めちゃくちゃにモテる。

「女の人とのLINEとかも、基本こうだよ。質問に答えるだけで、話題は探さない人が多いかな」

「えっ、そんなの面白くなくない?」

「面白さを求めるっていうより、質問から共通点を探して、相手を選んでいくっていう感じかも。もっと仲良くなったら、もちろん、話が弾みやすい子と付き合っていくよ」

まあ、この友人の考え方は、極端かもしれないけど。それより私は、衝撃を受けた。

私は、一聞かれたら、十答えるだけでなく伏線とオチまでしっかりつけて、返していた。下手したら三段オチくらいまであった。無意識だった。こんな私に話題を振ってくれたんだから、せめて愉快な笑いくらいは返さないとと思っていたのだが、実態は漫談の押し売りだった。

漫談の押し売りをしてくる女は、合コンで選ばれるのか。否である。

「でもさ、話題振らないと失礼じゃない?私2時間ずっと話題振りまくってるよ?」

「振りすぎだよ……」

なんてこった。こちらから質問するのもよくないのだ。桂文枝のごとく話題を振ってくる女は、合コンで選ばれるのか。否である。

友人は気まずそうに言った。

「岸田さんは、めちゃくちゃ楽しいから一生の友だちでいてほしいけど、付き合うとしたら、岸田さんより面白くいられる自信がないからハードルが高いな」

私の頭に、四番目に付き合った彼氏の、別れ際の言葉が蘇る。「今まで出会った人の中で、奈美が一番に面白かった。退屈する日はなかった。でも、」そのあと何を言われたか、覚えてない。でもの後、あなたはなんて言ったんだっけ。ふいに確かめたくなっても、彼はちょうど誰かと結婚した。

マジか。

私は、ホスピタリティの一環で、ピエロになっていたのに。世の男はピエロを求めていなかった。どうすればいいんだ。自らが建設したサーカスのテントに、たいまつで火をつけるしかない。さあ、火の輪くぐりの始まりだ。

ここまで読んで、心優しい何人かは「モテなくっても良いじゃん」「そのままの岸田さんを好きになってくれる人がいるよ」「自分を曲げても苦しいだけだよ」と、言ってくれると思う。

ありがとう。気持ちだけもらっておく。

でも、それは藤岡弘に「地底人なんて見つけなくても良いじゃん」「しんどい仕事はやめておきなよ」と言っているのと同じだ。そういう生き方もあるかもしれない。しかし、一生に一度で良いから地底人を見たい、という衝動は、誰にも止められない。

私は地底人を見たい。間違えた。私はモテたい。この際、モテるなら地底人でも構わない。

とりあえず今日からは、シュッとした男には、一聞かれたら三を返すことにし、オチも一つまでに絞ろうと思う。高橋一生みたいな塩顔が好みだ。

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↑↑ ここまで引用部分。岸田奈美さんの記事です。

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<かなったからのコメント>
コメント失礼いたします。
『来るものを拒まず。』チャレンジ精神が素晴らしいですね。
ですけれど、正真正銘の地底人もやって来ちゃう可能性があるので難しい所だと思います。

私は岸田さんの「オチまくり文章」が好きなので、3段オチでもどんと来いです。ついでに、中オチも大好物でございます。

岸田さんに、いい感じの彼氏が見つかる事を願ってやみません。
きっと、いい人が見つかると思います。

しかし、どうしても、見つからなくてお困りの際は、落ち着いた聞き上手な友人(独身男性)をご紹介いたしますので、ご連絡ください。

高橋一生まではいかないかもですが、三生くらいまではイケル気がします。

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岸田奈美さんは、
写真家「幡野広志さん」の著作なんで僕に聞くんだろう。の発売を記念して、Cakesにて短期連載をされています。こちらも面白いので、オススメです。


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