見出し画像

役病3 ウィルスの起源

 2019年12月末に中国武漢で今回のウィルスによる感染症が初めて確認されましたが、2019年3月に採取されたスペインのバルセロナの下水の試料中には既に今回のウィルスのゲノムの断片が検出されています。さらに遡ると、2015年に中国の奥地で住民から健康診断のため採取した血液に今回のウィルスに感染した証拠が認められています。数年前から既に中国奥地では広まっていたようです。

 2012年春、中国雲南省墨江県通関の廃鉱となった銅山でコウモリの糞掃除を担当していた作業員6人が重症肺炎を発症しました。そして、発熱や咳、呼吸障害など今回のウィルスによる感染症によく似た症状を伴って3人が死亡しました。現在、地元の人々は恐れて此の銅山には近づかないそうです。翌2013年、武漢ウィルス研究所の研究チームがこの銅山でキクガシラコウモリの糞便サンプルを採取し、そこに含まれるウィルスを最近まで保管していました。同研究所の研究員が2020年2月に発表した論文によれば、このウィルスRaTG13と今回のウィルスの遺伝子構成は96.1%共通しているそうです。

 また、フランスのパスツール研究所のマルク・エロワ博士が率いる研究チームは、中国雲南省に隣接するラオス北部の鍾乳洞に生息するコウモリ645匹の唾液と排泄物のデータを採取して分析した結果、キクガシラコウモリ3種から、今回のウィルスに遺伝的に近く、特にヒトの細胞に取り付く仕組みが似ていて、ヒトに直接感染する恐れがあるウィルスを発見しています。その新たに発見されたウィルスのうちBANAL-52は今回のウィルスと遺伝子構成が96.8%も一致しているようです。

 雲南省発のウィルスが今回のウィルスにまで進化するには20~50年はかかるとする研究者もいますが、ヒトを宿主として急速に変異したという可能性も捨て切れません。WHOの公式見解によると、感染源の動物から別の動物を中間宿主として人に感染した可能性が最も高いとしています。

 しかし、その後、武漢ウィルス研究所は、その他に8つの類似ウィルスの遺伝子配列を知っていたことが発覚しています。また、同研究所では、これらのウィルスをヒトや実験用動物の細胞を使って、その感染力を試し、異種間の感染でウィルスがどう変異するかを検証したり、複数の異なるウィルスの一部を再結合させたりする機能獲得実験が行われていました。しかも、その安全管理が相当杜撰だったようです。

 それで、今回のウィルスは武漢ウィルス研究所から流出したのではないかという疑いが2021年5月以降、日に日に強まっています。

 中国政府がこれらの事実を隠蔽しようとしているだけでなく、問題を複雑にしているのは、欧米の科学者の中に、自国の法律または倫理規定に反して自国では行えないような実験を武漢ウィルス研究所に委託していた方々がいることです。

 私が思うに、中国政府が隠蔽しようとしているのは、国際的に避難されるような生物兵器の開発等の危険な実験を行っていたことで、流出の事実はなく、今回のウィルスは自然発生的なものだったのではないでしょうか。

 中国政府は「中国起源説」を否定していますが、中国国内では今回のウィルス以外の感染症がいくつか報告されていますし、また、歴史的に見ても中国の奥地、特に雲南省で発生した感染症は無数にあります。

 雲南省では、2020年にハンタウイルスの感染が確認されています。 ハンタウイルスには様々な種類があり、主として齧歯目であるネズミの尿や糞、唾液に触れることでヒトに感染するそうですが、ヒトからヒトへは感染しないため、拡散することはないそうです。 しかし感染すると、約1週間から8週間の潜伏期間を経て発症し、倦怠感や発熱、太ももや腰、臀部、肩などの筋肉痛、めまい、頭痛、嘔吐、悪寒などがあり、放置すると激しい息切れと咳、呼吸困難に見舞われます。 治療法やワクチンがないため、対処療法として酸素吸入するしかないそうで、野生動物が住む原生林や不潔な屋外などで感染するため、常に住環境を清潔にしておく必要があるそうです。 二十世紀前半、満州で日本人も此のウィルスに苦しめられたようです。

 さらにもうひとつ、新型ブニヤウイルスという感染症も報告されています。最初に流行したのは2010年で、感染報告があがったのが2011年ですが、2020年春、江蘇省、山東省、浙江省の一部地域で感染が確認された後、8月から次第に増加してきた模様です。 新型ブニヤウイルス感染症は、主としてマダニに噛まれることで発症し、介助者や家族が患者の体液や血液に接触することで、二次感染が起こる例が報告されています。 日本でも2005年に感染例があり、 5月から8月に感染することが多く、6日から14日間の潜伏期間を経て、38℃を超える発熱のほか、嘔気、嘔吐、下痢、下血、腹痛など消化器系の症状があり、頭痛、筋肉痛、出血症状、リンパ節の腫脹などがあり、肝機能が低下します。軽症なら約2週間で自然治癒しますが、重症化すると臓器不全に陥り、命の危険にさらされ、治療薬がなく、対処療法が中心になります。

 また、歴史的に見ても、中国の内陸部では「風土病」と呼ばれる感染症が蔓延しています。第二次世界大戦時に日本陸軍が作成した中国内陸部伝染病流行図には雲南省を中心として、「豚コレラ」、「家禽コレラ」、「牛疫」、「流行性感冒」、「炭疽」の5つの感染症のうち、どれが町や村ごとに流行っているのか、詳細に書き込まれています。

 もう少し時代を遡ると、飯島渉著『感染症の中国史 公衆衛生と東アジア』(中央公論新社 2009年)によれば、19世紀末の中国は劣悪な栄養と衛生状態にあり、海外との貿易が拡大したことにより感染症が猛威を振るい、雲南省の風土病であったペスト、コレラ、台湾の水田耕作によるマラリア、日本住血吸虫病などの感染症が、香港や満洲を経由して世界中に広がっていったそうです。

 中国内陸部には細菌やウィルスをもった野生動物、家畜や家禽類がたくさんいて、そこへ森林開発などでヒトが入り込み、接触すると、感染してしまいます。2020年夏には、気候変動の影響か、長雨と集中豪雨が中国を襲い、被災地は泥にまみれ、枯れた農作物、病害虫の入った餌を食べた家畜が病気になり、感染症を拡大させた可能性があります。

 中国で発生する感染症は今後ますます増えるのではないでしょうか。そして、これらの感染症はグローバル化によって世界中へと広がっていってしまうことになるのでしょう。

 ただ、十年ほど前、雲南省にしばらく滞在していたことがありますが、衛生・栄養状態ともに十分改善されていて、伝染病の危険を身近に感じることは全くありませんでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?