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俳句鑑賞 ひらくヨムヨム004

風花や相手のいない糸でんわ

平田素子 第二十五回横光利一俳句大会 一般の部 野中亮介選者賞より

 相手がいなくなったのではない、最初からいないのだ。糸電話のぴんと張った糸が伸びる先は、風花の支配する、明るく華やかで、茫漠とした空間である。なにかを喪失したわけではないが、虚無でもないことが却ってさみしい。相手を切望しないことがさみしい。
 この人は子供だろうか、大人だろうか。一人の糸電話はちょっとした手なぐさみか、ある種の儀式のようなもので、相手など必要ないのだろうか。望むと望まざるとにかかわらず、風花は長く続かない。本当は膝近くの床に転がったままのもう片方の紙コップを、誰かが拾い上げるときがやってくるかもしれない。
 二人はそのとき何を話すのだろう。

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