ずっと書く


昨日書くと言ったのに、また嘘をついて、次の新しい朝が来て、さて、書くかと手を動かしている。


8月18日が今日で、昨日は8月17日。浅間温泉の旅館で朝を迎えた。

仕事や結婚式とかを除いて、きゅうが産まれてから初めての家族旅行だった。何も予定がない場所に、ふと朝に思い立った、宿を予約した。

自宅から1時間しか離れていないのに、少なくとも一番欲しかった非日常と、ずっと途切れることなく続いていた思考からの距離をもらうには充分の場所だった。

屋上の露天風呂でクジラの真似をしたらきゅうが喜んで手を叩いて笑った。


ひどく馴れ馴れしい料理係のおばあちゃんは、僕ら家族を気に入ったようで何度も気を使って、お茶いれましょか、御飯つぎましょか、デザート先に出しましょか、そんな風に提案してくれたけれど、そのほとんどを、大丈夫、ありがとう、と断った。あらそう、って言葉を落としては離れて、またやってきて、何かしてくれようとした。


深夜3時に目が覚めて、外に出た。なんだかジャンクなものを身体に入れたくなって、珍しくカップラーメンを食べた。いけないことをしているな、そう思ったけれど、いけないことをしたいと思ったからしょうがない。


時々、家族と、全部から離れた場所にいくのが大切なことなんだと思った。

全部から離れた場所。



日付は戻って8月12日、土曜日、zAkさんが長野の自宅まで遊びにきた。

その日の正午くらいに、今日行ってもいい?って突然メールが来て、19時には自宅にいた。

僕の住んでいる村にはほとんど何もない。1000年以上続いている村があるだけだ。

そんな場所にふとやってきて、なんでもない話をして美味しい御飯を食べて朝5時過ぎに起きたら、ちょうど帰りの時間。

たった数時間の滞在で、多分、zAkさんも、全部から離れた場所に行きたかったのかしら、と、いまになって思った。


僕が初めてこの村を訪れた時、それまで悩んでいたことや、辛かったこと、嘘、そういうのぜんぶ流れていくような感覚があった。

いまはここに住んで8年目になるけれど、いまでも、この場所に洗い流してもらうのは変わらない。

都会に出かけては戻り、インターネットに沈んでは戻ってくる、なにもない場所。雨のおと、している。屋根から落ちる音はゆっくりで、粒がある一定の重さになるのを待って落ちる。地面にそのまま落ちる雨はしっとり小刻みに。色んな種類の落ちる音を聞きながらタバコを吸っている。

もう少し遡って、日付は8月10日。

新しいワンピースを発表した日の夜、僕は富ヶ谷のお店にいた。NYから帰ってきたコウジくんと待ち合わせをしていた。気付いたらお店に10人以上友人がいて、お酒を飲んだり、服を着替えたりしていた。それぞれが、帰路について最後に池田大と二人になった。

今朝、大くんとさおりちゃんのあいだに子供ができたと、ニュースになっていました。おめでとう。


さっきまで御飯を食べて、ソファで横になっていました。いま、お風呂の中でもう少し、続きを。


日付は8月9日、僕にとっての締め切りはこの日の午前10時。最後になにか間違えてはないだろうか、それまで決断したことを振り返っていた。生地、色の配色、着丈、色んなこと、いまならまだ変えられる、けれど、いまを過ぎればもう変えることができない。

全ての人にそういう境目はあるんだろう。境目を過ぎてしまったら、もう別のことを考える。次のこと。

Ka na ta にとって、次のことは、子供の為の服。その生地を探しに、富士吉田までいく。最初に行ったのは宮下織物という機屋さん。富士山の麓に位置する機屋。夕食も一緒に食べた。それが最高な時間で、弱っていた自律神経は正常に戻り、酔っ払ってホテルに戻ると涙と勘違いしたのか、飲み込んだ赤いワインが逆流した。嘘です。喉に人差し指を突っ込んで、さっきまで食べていたもの、飲んだもの、全部出したろうって思ったんです。


世の中には、良い嘔吐というものがあるんだ、と、芥川龍之介が言っていましたが、恐らく、この嘔吐は、極めて最高な嘔吐だったんです。

はい、酔ってゲロを吐いただけです。

芥川龍之介もそんなことは言ってないです。


そういえば、本当に久しぶりに、その日の朝、泣きました。素敵なワンピースができたよって報告をしたら、泣きました。ああいう涙は、何年も流してなかったかもわからんです。


息子のきゅうはいま5つの言葉を話せるようになりました。

まま、まんま、ぱぱ、にゃーにゃ、わんわん。

この中で、まま、という言葉は発音の質感によって大きく意味が変わります。まま、と言って地面を叩く時は、こっちに来て、っていう意味になります。もちろん、母親を呼ぶときも、まま。僕に対して、まま、というときは、ねえねえ、みたいな時もあります、おい、みたいな時もあります。

そのままでいてほしいと思いました。言葉の発達は、もしかすると遅い方が良いかもしれない。


今の所、きゅうの使う、まま、という言葉は完全な球体で、僕が憧れている言葉なんです。親として、なるべくそれが直線にならないように、直線として読み取らないように、しないとね。


今日はこんなことも知りましたよ。


きゅうは、一人で布団に横たわって眠り始めることはありません。

全ての赤ん坊はきっとそうでしょう。

眠い時は泣きます。これも不思議だけど、眠いと泣きます。いいな。眠くて泣きたいです、僕も。

泣きぐずると、母親が眠いんだねと言っておっぱいをあげます。すると寝ます。

これが夜の普段の寝方です。

昼寝はどうでしょう、きゅうは毎日何時間も外で遊びます。アトリエに来てスタッフと遊んだりもします。遊び疲れると眠くなりますが、かといって自分で横たわることはない。抱っこして歩いて家に帰る途中に寝ます。

あと、車に乗ると眠くなります。


眠いとき、平らな場所に横たわることだけでは眠れない、身体があります。

止まって動かずにいるよりも、揺らる流らう触れられている方が安心する身体があります。

ということを今日知りました。

とても不思議だと思いますと、とても当たり前だとも思いますと。


あ、服って。


日付は変わって8月19日午前4時過ぎ。2回目のお風呂に入って、布団に戻り、きゅうの声が聞こえたところです。

まま、と4回発して、また静かになりました。


さて、明日東京へ向かいます。


展示会は残り土曜日と日曜日です。


Ka na ta に 会いにきてくれたら 嬉しいです。


おはようございます。


よき週末お過ごしください。