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笑ってほしい


ポストクロッシングはただのカード交換ではなく、
心の交換である。


私は嫌なことがあって落ち込んで帰宅した時、
ポストカードが届いていたら少しだけ明るい気持ちになれる。
身近に嫌なことを言ってくる人がいると自分は大事にされていないのではないかと錯覚してしまうが、こうやって自分のために時間を割いてカードを送ってくれる人がいるのだと思うと少し癒されるのだ。


私がポストカードから癒しを頂いている分、
私も見知らぬ海外の人にとっての癒しでありたいと思っている。

だから私は人の気持ちを無碍にする人、例えば適当にメッセージを殴り書きしているだけの人、ただカードを集めたいがために手当たり次第に「あなたの国の〇〇のカードを送って!」というメッセージを送りまくっている人が許せないのだ。
だけどただ1度だけ、私は自分の心を失いかけた時がある。


その時に引いたのはベラルーシの女性の住所だった。
その方のプロフィールを見ると希望するカードに「花」と書いていたので、最近郵便局で買ったばかりの綺麗な花のカードを送ろうとした。

彼女のfavoriteリスト(ポスクロでは送付されたカードは自分宛でなくても全て見ることができ、気に入ったカードにはfavoriteボタンを押すことができる)に入っているカードに雰囲気が似ているし、絶対喜んでもらえると思ったからだ。


が、私はなかなか住所を書き込むことができなかった。
私はここ数ヶ月の間に3通ベラルーシにカードを送っていたのだけれど、3通とも未だに届いていない。
ウクライナ情勢が原因なのか何なのかわからないけど、投函してから150日以上経っているのに届いていないカードもあった。
つまり、このカードを出しても届く可能性は低い。


加えて、送ろうとしている花のカードは私のお気に入りだった。
お気に入りのカードを送ったのに郵便事故で行方不明になることほど悲しいことはない。
正直、届かないリスクがあるのにお気に入りのカードを送りたくないと思ってしまった。


私は自分のカードBOXを漁り、もう1枚の花のイラストのカードを見つけた。
カードを作った方には悪いがこれはそこまでお気に入りじゃないし、これなら届かなくてもそこまでダメージはない。
彼女が好きそうなテイストとはちょっと違うけど、やっぱりこれを送ろう。
そうしてようやく住所を書き込もうとして…
また手が止まった。


このカードがたまたまちゃんと届いた時、
受け取った彼女はどんな気持ちになるだろう…。
海外からのカードがなかなか届かない中、やっと届いたカードが自分の好きなカードじゃなかったらどう思うだろう。


もちろん、必ず相手が好きなカードを送る必要はない。でも、お気に入りのカードがポストに入っていた方が嬉しいに決まっている。
どうせ送るならポストを開けて私のカードを見つけた瞬間、思い切り笑顔になって欲しい。


私は机の上のポストカードをしまい、最初に送ろうとしていたお気に入りのカードを取り出した。
そして今度は躊躇なく彼女の名前と住所を書き、切手はパステルカラーの花のイラストの切手を選んだ。


切手に合わせて花のマスキングテープと、柔らかい雰囲気の動物のシールでデコレーションした。
買ったばかりでお気に入りの抹茶色のペンで、
「今度の休みに妹家族に会いに行くんです。姪っ子と遊ぶのが楽しみ!」
と書いたら、なかなかいいカードが完成した。


無事に届く保証はないし、むしろ届く可能性は低い。それでもいい。運良く彼女に届いた時、彼女の1日を少しだけ明るいものにしてくれればそれでいい。 

実際に送ったカード
日比谷花壇さんの美しいポストカード


カードを投函して約40日後、
ポストクロッシングからカードの到着を知らせるメールが届いた。
最近送ったドイツ宛かフィンランド宛のカードが届いたんだろうと思い、何気なくメールを開いてみた。


なんと、そのメールはベラルーシの彼女からだった。
あの花のカードは奇跡的にベラルーシに届いた。
他のカードは80日経っても100日経っても、150日経っても届かなかったのに、このカードはわずか40日で届いた。なぜかは私もわからない。


彼女からのメッセージにはこんなことが書いてあった。

「素敵なカードと切手をありがとう。あなたのカード、とっても大好き!私も子供が大好きなんです。姪っ子さんたちと素敵な時間を過ごしてね!」

嬉しいメッセージと共に、
彼女はしっかりと「favorite」ボタンを押してくれていた。


ちなみにその後、私は何度かベラルーシ宛の住所を引いたけれど、彼女の後からはきちんと届くようになった。(それでも30〜40日はかかるけど)
たまたま彼女にカードを送ったタイミングで郵便事情が良くなってきたのかもしれない。
「思いが通じた」なんて私の気のせいかもしれない。


でも私は信じている。
私の思いが通じたんだ、って。


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