薔薇の庭 2
そんな友人のお勧めだけあって、ピザは美味しかった。
空中をくるくる舞っていた生地はパリッと焼きあがって香ばしく、チーズはとろり、のせられたハーブは香り良く。
熱々をおいしいおいしいと夢中で食べて、友人のと一切れずつ交換した。
シェアしたパスタ、ペスカトーレは海老とイカがぷりぷり。ガーリックが効いていてトマトソースと絶妙。
窓際に飾られた花は、さきほど一階で見かけた花屋のものなのか、センスよくガラスの花器に活けられているが、香りで食事の邪魔をしない。
「素敵なお店だね!さすがだわ。本当においしい」
「気に入ってくれると思ったのよ。おいしいし、楽しいし、気が利いてるしね」
甘口のシードルでほろ酔い気分になり、友人はグラスワインを二杯重ねて私たちはご機嫌だった。
友人の言う通り、料理がおいしいだけでなく、お給仕も感じが良かった。
テキパキと各テーブルを回り、注文しようと呼べば、笑顔ですぐに対応してくれる。サービスの仕方も上手で決してこちらの動作の邪魔をしない。
ピザ回しのパフォーマンスの際には上手なギター演奏がつく。
さらに席を予約したサービスでデザートに美味しさを凝縮したようなケーキと、コーヒーが出るそうだ。
すっかり満足しておしゃべりしている私たちの真横で、ガタッと大きな音がした。
驚いて隣を見ると、隣の席に案内された女性が乱暴に椅子をひいて、自分のバッグを投げるように置いたところだった。
うわ、すごいなぁと思っていると、入店する時に私たちに文句を言って来た女性だった。
連れは一人かと思っていたが、もう一人いて三人グループだった。後の二人は並んで座った。
さっきも止めていた連れの女性が「何怒ってるのやめてよ」と注意したが、その言葉を全く無視してどすん!と勢いよく椅子に腰かけた。
案内してきた店員も少したじろいでいたが、愛想よくメニューを渡して下がっていった。私たちを案内してくれた時にかけてくれた言葉はなかった。
隣席の女性は、今まで待たされた事に怒り心頭だった。
メニューをめくる手も乱暴で、「ああ、疲れたわー、こんなに待たされるなんて思ってなかったわー、おなかすいたけどもうなんか嫌になっちゃったわー」などと大声で聞こえよがしの文句を言う。
連れの女性が「愛ちゃん、仕方ないじゃない、あんなすごい行列だったし私たちがここのお店に決めるのも遅くなったんだし」とたしなめるが、逆に「そうよねー、やっぱり最初にここにしよって言ってたフレンチの方にすればよかったわ、あっちの行列の方が長かったからあきらめたんだけどさ」と言う始末。
友人が呆れたような顔で少し笑った。
それを敏感に気づいて、隣席の女性は思い切り睨み付けてきた。
連れの二人はメニューを見ながら注文を相談し始めた。こちらの二人は仲が良いようだ。
そんなところへ、私たちのデザートが運ばれてきた。
ナッツとフルーツがクリームに包まれたズコット。
薫り高いコーヒー。
「こちら、予約席のサービスのデザートです。コーヒーはお代わりできますので。ごゆっくりどうぞ」
笑顔でサービスしてくれた店員がさがると、隣の女性からの攻撃がまた飛んできた。
「はーあ、行列にも並ばずにデザートまでタダでもらえるんだって!馬鹿らしいったら!こっちは真面目にずっと並んでさ、お腹ペコペコで倒れそうなのにね!ひどい話じゃない?」
「愛ちゃん、早く注文しようよ。食べるの遅くなっちゃうじゃない。外でもメニュー貰ってたし大体決めてるんでしょ?あたしたちはもう決まってるから」
連れの女性はもう注意しないで、すべき事だけを言うことにしたらしい。確かに怒れる女性は、連れの彼女の言う事を全部無視してしまっていた。
そう言われて、しぶしぶメニューを眺める愛ちゃん。
もう一人のずっと黙っていた女性が店員を呼んだ。
私たちは、お互いに目と目で会話した。
デザートを食べたらさっさと出よう、と意見が一致。
仕方ない、こんなに素敵なお店ゆっくりしたいところだけれど、隣席のように長く待ってやっと入店できる人たちも多い。
あまり席を占領しているわけには行かないだろう。
しかしながら、ケーキは本当においしかった。
ズコットを初めて食べた私は、しっとりしたコクのあるクリームと、フルーツとナッツのバランスのよさに驚いた。洋酒の風味も効いていてしっかり甘いのに、食べ終えてもくどい感じがしない。
もっとゆっくり味わいたかったけれど、我々は静かにもくもくとデザートを食べ、コーヒーを飲んで食事を終えた。
隣の席にもすでに飲み物がサーブされ、サラダなどが並べられていた。
かんぱーい、などと二人がグラスを合わせていたが、愛ちゃんはそれに参加もせず、一人で飲んでいた。面倒くさいタイプだな、私なら一緒に食事するのはごめんだ。
最後に少々不愉快な思いをしたが、それは全くお店のせいではない。
ただ、あの人気ぶりだと全席予約制にしておいた方がトラブル予防になるのではないか、と思ったが口には出さなかった。
それに、ここのお店巡りも愉しみではあった。
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