薔薇の庭 3
店を出て、隣の店の前までくると、私は笑いながらお腹をなでた。
「あー、おいしかった、お腹いっぱい!また今度みんなを誘って食べに来たいねぇ」
みんな、というのはやはり高校時代の友達で、彼女のお見舞いによく一緒に通った当時のクラスメイトたちだった。
よく5人ほどで食べ歩きしたり、日帰りや一泊の旅行をしたりしている。
気を使わないで過ごせる、楽しい連中だった。
「そうだね、今日は特別に混んでいたけど、普段も人気あるから早い目に都合を合わせて予約とらないと」
友人もニコニコしていた。
「ま、今日みたいなトンでもない人に出くわすことは多分ないでしょ」
「すごかったねぇ、一度だけならまだしも。あれ、私たちの隣に案内されたのも気に食わなかったんだね」
「食事が終わってからで良かったよね、デザートも一瞬どうしようかためらったんだけど。あれ以上暴れられたらどうしようかと思って」
「えー、でもあんな美味しいデザート食べないの勿体ない」
「テイクアウトしてくれるのよ、本当に気が利いてるでしょ?」
「え!そこまでしてくれるの?だったらそれでも良かったかな、あとで落ち着いてからどこかゆっくり座れるとこ探して」
「いいね、じゃとりあえずどうする?」
「ここのお店見て回りたい、素敵なもの置いてあるみたいだし」
「じゃあここが最上階だから見ながら降りていこか」
「うん」
ところが隣は食事向けガレットを売りにしたクレープ屋だったし、他もガーデン席のあるカフェだった。
店のウィンドウから中を覗くことしかできないが、どちらも内装に凝った感じだった。
この階の奥にガラスのドアがあって、隣接の建物に続く渡り廊下がある。不思議なことに隠し扉みたいに、微妙に角度がついていて、店が集まってる方からは見えない造りだった。
渡り廊下からは階下のようすが見渡せた。中庭を囲うように建物が建てられていて、二階は外回りに廊下が続いているようだ。角度がついた渡り廊下や階段が横切るように庭を区切っていたりする。
なんとも言い難い不規則性が見ていて面白い。
「あんな風に階段作ったら、せっかくの中庭が狭くなるんじゃない?」
「ここね。有名な建築家が建てたビルなの。こだわりの人だから何か理由があったんだろうね」
「へぇ、そうなんだ。このビルは前から知ってたけどそんなのは知らなかった。オシャレで面白いなぁーとしか思わなかったなぁ」
向かいの棟は三階にある店が三軒。
アジア風のキッチン雑貨とカトラリーの店と、トルコランプの専門店。そして何故か理科室にあるようなフラスコだのシリンダーだのを取り揃えてインテリアみたいに並べてある店。
物怖じしない友人が店の人に尋ねたところ、ちゃんとした科学実験用のものばかりなのだが、最近は花瓶のように使ったりインテリアとして人気があるので、そういったディスプレイをしているのだそうだ。
なぜか友人は駒込ピペットを買っていた。
「石けんつくる時にアロマオイル量るのに欲しくて」
そんな趣味があるとは知らなかった。奥深い人だ。
そういう私は、トルコランプの店でなぜかランプでなくてナザールボンジュウとかいう、お守りだというブレスレットを購入した。
トルコ石みたいなビーズが連なった中に、ガラスで出来た大き目な青い眼玉が連ねてある。一瞬なんだこれは?と思ったけど、商売上手な店主に勝手に手首に巻かれてしまった。すると案外と着け心地が良くて、意外な重みも丁度しっくりする感じで落ち着く。派手に見えた青い眼玉も、さほど目立たないような気がしてきた。ところどころラインストーンの嵌った銀色の輪がとめてあるのが、逆に落ち着いたデザインにしている感じ。
「邪眼から必ず守ってくれるよ、割れたらすぐに外してね、邪眼をはねのけた証だからね」
店主が早口で効能やら着け方やら教授してくれた間、私は一言も口をはさめず、購入することになってしまっていた。なんと押しに弱いのだろう。自分でも呆れる。友人は全く口を挟まず、我々のやりとりを面白そうに見つめていた。まあ衝動買いしても気にならない値段だったので、たまにはいいか、と包装してくれるのを待っていると、「ダメダメ、今着ける!」と外したばかりのものをまた巻いてきた。「外を歩いてる時は着けなさいよ」「手首に巻けない時は、カバンに提げるか、持ち歩くこと!」やたらお節介な店主だった。
二階に降りると、ずいぶん広いスペースを取ったギャラリーが出現した。
今日は特に展示はしていないらしかったが、ギャラリー自体は中に入って
見物して、展示されてる作品は購入可能ということだったので、入ってみると、三階まで吹き抜けになっていて、天窓から明るくも柔らかい日差しが差し込んで来ていた。
基本作品を目立たせるためだろう、オフホワイトの空間で、ギャラリー内にらせん階段があり、三階に作品を眺めるためのスペースに続いていた。
天井が高いところというのは、開放感があって大好きだった。
私が階段を上って空間を確認している間、友人は展示されている小さな絵やカップ、漆塗りの茶碗などを熱心に観ていた。
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