遺産分割協議が錯誤無効になった事例

以下の事例は、民法改正前の事例となりますので、錯誤「無効」という記載があります。その点はご注意いただけますと幸いです。

  1. 取り上げた裁判例
    東京地判H27.4.22判時2269号27頁

  2. 事案の概要等
    (1)相続人の範囲
     Bは、平成元年10月28日に死亡した。Bの相続人は、妻のA並びに子のX1(長男)、X2(長女)及びY(二男)である。
     Aは、平成17年7月30日に死亡した。Aの相続人は、X1、X2及びYである。
    (2)遺産分割協議の錯誤の有無
     Yは、平成18年5月頃、遺産分割協議書①を作成した後、間もなくして、目黒の建物及び杉並の建物持分4分の1(B名義の持ち分)を対象とする遺産分割協議書②を作成し、Xらもこれに署名なつ印したことが認められる。
     しかし、Yが被相続人Aの死亡前後に合計4330万円の預貯金を引き出していたことや遺産分割協議書①に記載された各株式以外にも被相続人Aが株式を保有していたことがXらに明らかになったのは、XらがYを相手方として遺産分割調停の申立てをした平成21年以降のことである。
     そのため、Xらは、遺産分割協議書①及び遺産分割協議書②を作成した当時、被相続人Aが保有していた全ての預貯金及び株式の内容を把握していなかったと認めることができる。
     すなわち、Yから示された遺産分割協議書①に記載されていた被相続人Aの預貯金及び株式は、X1が取得することとされたB株式4356株及び預金420万円余り、X2が取得することとされたC株式2494株及びD株式1030株並びに預金150万円、Yが取得することとされたE株式1102株及びF株式1万0815株並びに現金・預貯金848万円余りにすぎず、Yが被相続人Aの死亡前後に引き出した合計4330万円の預貯金並びに本件各株式のうちG株式1876株、H株式1万5000株、I株式5250株、J株式1133株、K株式2420株、L株式5512株の存在は明らかにされていなかった。
     そうすると、Xらは、被相続人Aが死亡当時保有していた全ての預貯金及び株式の内容を知らないまま、Yが文面を作成した遺産分割協議書①にはそのほとんどが記載されているものと信じて、これに署名なつ印したものというべきである。そのため、遺産分割協議①に係るXらの意思表示には要素の錯誤があり、無効であるということができる。
     そのため、その後間もなくしてされた遺産分割協議②の際にも、遺産分割協議①と同様の錯誤がXらにあったというべきである。

  3. 結論
     したがって、遺産分割協議②に係るXらの意思表示には要素の錯誤があり、遺産分割協議②は無効である。

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