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アブストラクトゲームの世界

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アブストラクトゲーム(運要素のないボードゲーム)全般に関する自分の記事をまとめています。
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#ゲームデザイン

アブストラクトゲームはなぜそう呼ばれているのか

もしあなたが「アブストラクトゲーム」という言葉を聞いたことがなくても、「チェスや将棋、囲碁やオセロのようなゲームのことだよ」と聞けば、「ああ、そういう「そっけない」感じのゲームね」と、おおまかなイメージがつかめるかもしれません。この言葉はボードゲームの世界で流通している用語なのですが、以下のような二通りの意味があり、慣れない人をいささか当惑させる言葉になっています。 1.運の要素がない(ダイスを振ったりカードを引いたりしない)ゲーム 2.テーマ(SF、ファンタジー、戦争、歴

マス目 VS 交点 ゲームボードの2つのタイプ

ここのところKanare_Abstractからの新しい製品を出版できていなかったのですが、メリディアン以来半年ぶりくらいに「汎用ボード アルケルク」「汎用ボード カラーパック」をウェブサイトに追加しました。ちなみに間が開いたのはネタ切れのためとかではなく、5月中にクラウドファンディング開始を予定している次の製品の準備に時間がかかってしまったためです(これについての情報は少しお待ちください)。 「アルケルク」はアジア起源と考えられる中世(10世紀頃)のゲームで、同じボードを使

BEST COMBINATORIAL 2-PLAYER GAME OF 2022 内容紹介

BoardGameGeekのアブストラクトゲーム・フォーラムで有志により例年開催されている、2人用アブストラクトを対象としたBEST COMBINATORIAL 2-PLAYER GAME(ベスト・コンビナトリアル・2プレイヤーゲーム)の選考が今年も行われ、Nick Bentley(ニック・ベントリー)氏のStrands(ストランズ)の受賞が決定しました。おめでとうございます!(選考結果のページ) ニック・ベントリーさんは2015年にCircle of Life(サークル・

先手有利をどう軽減するか —アブストラクトゲームにおけるバランスルール

Noteでもたびたびご紹介している私の考案したアブストラクトゲーム「メリディアン」につきまして、先日オプションルールとして新たに「パイルール」を追加することが決まりました。これはヘックスやツイクストのような接続目標のアブストラクトでよく使われる、先手と後手の有利さのバランスを取るためのルールです。通常、先手が最初に駒を置いた後、後手が先手と交代するかどうか選べるというかたちを取ります(後ほどもう少し詳しく紹介します)。 メリディアンは捕獲ルールが独特で、当初このルールが先手

非商業アブストラクトの世界

アブストラクトゲームは「運や隠蔽要素がない」という特徴を持つ、定義上ボードゲームの(ややニッチな)一ジャンルです(この用語には独特の紛らわしさがあり、人やシーンによってはやや異なる意味合いや意味範囲でも用いられることは過去の記事で触れました)。とはいえ、実はボードゲームの一ジャンルとしては少々変わった特徴があります。それは「物理的かつ商業的な形で出版されていないゲームが多分に含まれる」という点です。 今回の記事は、一般的なボードゲーム愛好者の目からは隠れがちな「出版されない

アブストラクトゲームで使用される捕獲の種類

はじめにアブストラクトゲーム(運要素のないボードゲーム。将棋、チェス、囲碁、オセロなど)では、盤上にある対戦相手の駒をルールにもとづいて除去することをしばしば「捕獲」と表現します。この記事はアブストラクトゲームで使用される捕獲メカニクスの種類を7つのカテゴリ+αに分類して解説を試みたものです。 「捕獲」ルールのあるゲームはアブストラクトのなかでも広い範囲に及んでおり、どのようなタイプの捕獲ルールが採用されているかはそのゲームの性質を大なり小なり方向づけています。「捕獲」のタ

「変則チェス」の奇妙な世界

先日、自分のウェブサイトでサーキュラーチェス(円形チェス)の販売を開始しました。円盤型のボードを使ったチェスは、近代チェスの前身であるシャトランジの時代から存在し、1000年を超える歴史があります。 この円形チェスのように、オーソドックスなチェスとは何らかの点で異なるチェスは変則チェス(chess variant)や妖精チェス(fairy chess)などと呼ばれており、記録されているだけでも1000を優に超える種類が存在します。 chessvariants.com は、

<地形効果>とアブストラクトゲームのデザイン

先日noteにも投稿したように、私はいま現在Kickstarterで新作ボードゲームのファンディングプロジェクトを開催しています(7月9日まで)。 その中にも書いているのですが、このゲーム「ローゼンクロイツ」はアブストラクトゲーム専門誌Abstract Games Magazineで開催されたゲームデザイン・コンペティションの応募作でもありました。このコンペティションはUnequal Board Space Game Design Competitionと題されていて、便宜

<地形効果>とアブストラクトゲームのデザイン(2)コンペティション編

先日、ボードのスペース(マスやヘクス)に特殊な効果があるアブストラクトゲームを紹介する記事を書きました。 今回はその続きで、このようなタイプのアブストラクトゲームを対象に、アブストラクトゲーム専門誌Abstract Games Magazine (AG) にて行われたゲームデザインコンペティション”UNEQUAL BOARD SPACES GAME DESIGN COMPETITION””の内容を紹介したいと思います。 なおAbstract Games Magazineに

J. マーク・トンプソン「アブストラクトを定義する」全訳

以下は J. Mark Thompson "Defining the Abstract" (2000) の全訳です。以前私の記事「アブストラクトゲームはなぜそう呼ばれているのか」で紹介したように、これはゲームの世界におけるアブストラクト/アブストラクト・ストラテジーという用語の理解と普及に少なからぬ影響を持ったと考えられる文章であり、この分野に興味をもつ人々に今日なお参照され続けているものです。 上記の私の記事では、おそらくボードゲームをめぐる状況の変化のために、現代ではゲ