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なぜモノクロ写真を撮るのか。

「なんのために写真を撮ってますか?」
写真仲間とそんな会話をしたことはないけれど、人は何かしら理由があって写真に携わっていると思う。

私の場合は生活のためでも、誰かモデルという名の被写体がいるわけでもないから、100パーセント"自分のため"に写真を撮っている。そんな自己中に撮った写真を展示や公開するにはまた別に理由があるが、撮ること自体に社会的問題提起や奉仕の精神はない。
自分のためだけに写真をかれこれ20年近く撮りつづけている。

二十歳の頃、初めて撮った写真はカラーネガでのフィルム写真だった。その頃は絵を描いていたから、ほんの気分転換で始めた写真に思えば随分とのめり込んでしまった。
絵筆もえんぴつも自分の思う通りに動くというのに、撮りたいと思うものが思い描いたとおりに写らない…そんな入り口だった。写真を始めた頃の被写体は、花とか空、夕陽などのスナップだった。要は色ありきのものばかりを撮っていた。そのうちカメラを持って海外一人旅をはじめたのがキッカケで風景より人物を撮るようになった。モノクロフィルムを使ったのは一回くらい。ガーナ共和国で現地の人やスナップを撮ったときくらいだ。


SIGMA DP1 Merrill ISO100 -1ev f/6.3 1/320s


結婚を機に海外へ写真を撮りに行くのをやめた。フィルム写真もそれを機にデジタルに変えた。当時勤めていた写真スタジオで推奨されていたCanonの5D markII。Lレンズで撮れる描写は柔らかく細かく、その後長男が生まれる前後はずいぶんとお世話になった。その一眼レフを使ってる時期、熱心にブログを書いていたのだが(現在は消去済み)、そこで過去に撮ったフィルム写真と撮りたてのデジタルデータを載せるにあたって、過去写真をモノクロ処理し、現在写真をそのままカラーで載せるように区別した。思えばこれが、わたしがモノクロ写真をやるようになった契機だった。

そしてしばらくして、長男が一歳を過ぎた時はじめて個展をすることにした。あまりに育児が大変で、写真をいったん辞めようかと考えたのだ。集大成ではないけれど、何年か撮りためた海外でのポートレートをプリントして近所の古民家食堂で飾った。今にしては個展とも呼べないようなただの写真の陳列なのだが、そこで自分が本当に写真が好きで、そしてまたフィルム写真に戻りたい、戻るからには基礎から学びたいと初心を思い起こすこととなった。やるからには、ネガの現像から暗室作業まですべて自分でできるようにしたいと思ったため、以前から写真集などを持っていてその存在に憧れていた渡部さとるさん主宰のWorkshop2Bの門戸を叩くことにした。


SIGMA dp1 Merrill ISO100 -0.7ev f/10 f/640s


渡部さんのワークショップでは、初回の授業でまず今まで撮った写真を何枚か持ってくるように言われた。前述の個展で飾ったハレパネに貼ったプリントをそのままファイルに詰めて先生に見せた。とにかく緊張したのを覚えている。それまでの人生で、写真を評価されるような場に出向いたことがなかったからだ。渡部さんはその時、写真は褒めてくれたがテーマやタイトルに対して釘を指してくれた。
そのときはこの写真がよく撮れてるから、思い入れがあるから、くらいでしか写真を選んでいなかったなぁ。

ワークショップでは、なぜモノクロか?ということをよく言われた。なんとなくカッコいいから白黒に変換してみました!というように意味なくモノクロは選ばないということだ。
(渡部さとるさんのモノクロ問答は、YouTubeの2B channelを検索すれば、それについて語っている箇所があるかもしれない)
私もなぜモノクロか?と何回か訊かれつつ、首を傾げながら濁していたように思う。

冒頭の"なぜ写真を撮っているのか"に戻るが、なぜモノクロ写真なのか?にも、わたしにとっては自分のためとしか言わざるを得ない。先ほど色のついた写真を現在として過去の写真をモノクロとしたと書いたが、モノクロ=過去として自分の中で区分けしておきたいのだ。
撮りたいのは色鮮やかな世界でもなく、わずかなグレースケールで語られるグラデーションの静かな世界。ワークショップの卒業間近に見つけた自分だけにしか撮れない故郷だ。ここが確立してから、写真を撮ること、撮る対象、タイミングにすべて迷いがなくなった。たまには制限なく色鮮やかな被写体や逆光にレンズを向けて遊ぶこともあるが、基本的にモノクロの世界に写るものにシャッターを切っている。


SIGMA dp1 Merrill ISO100 0.3ev f4.5 1/125s



色では優しさが表現できると思う。激しさや、情熱、陰気さも、力強さも。でもモノクロでしか表せない優しさも、繊細さもカッコよさもあって、要は色は関係ないカメラマンの腕次第なんだよと。
わたしがもしカラーで作品を発表しだしたとしても、たぶん別人の写真にはならないかと。なぜモノクロか、はただの手段であって目的ではない。モノクロが得意であって求めている写真に出会えるから選んでいる。
写真にはゴールがある。写真は答えを内包しているのだ。それを見る手段として私はモノクロの世界を選んでいる。もしあなたがモノクロ写真を撮るならそこには理由があると思うし、色を使うならそこにも意味がある。絵を描くのと同じことだ。絵の具かパステルか木炭か、完成するイメージにより近い手段。まぁ、もっとシンプルだけども。


SIGMA dp1 Merrill ISO100  -1ev f/5.6 1/160sc



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