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『Tokuko Shimizu: TEXTILE POSTERS』

関わったプロジェクトや仕事を通して考えたこと、日々の記録などを残していきたいと思って立ち上げたnote。2022年末に1年の振り返りを投稿しようと思ったけど、全然まとまらず……。ひとまず、春に発行した作品集と刊行記念の展覧会について書きました。たくさんのことが付随して起こり、チームのみんなと一緒に旅をしたような、印象的なプロジェクトでした。ちょっと長いけど、備忘録的に。感想は時間が経つとフレッシュさを失うので、今後はもっとこまめに書こう。

2022年3月発行。清水徳子作品集

共著者として関わった書籍『清水徳子のテキスタイルポスター / Tokuko Shimizu: TEXTILE POSTERS』が2022年3月にflick studioより発行されました。この本は、清水徳子のテキスタイル作品をおさめた初の作品集であり、写真家Gottingham(ゴッティンガム)、アーティスト清水美帆とØyvind Renberg(オィヴン・レンバーグ)、自分を含めたの4人の著者の共同プロジェクトでもあります。

主婦であり、母であり、美術愛好家である清水徳子は、長年創作への情熱を絶やさず、独自の手法でさまざまな作品を作り続けてきました。本作品集は、アーティストとして海外を拠点に活動していた娘 清水美帆の依頼によって清水徳子が制作した、布に刺繍やパッチワークなどを施した手作りのポスター(テキスタイルポスター)を集めて紹介するものです。また、写真家のゴッティンガム(Gottingham)が、本書での写真プロジェクトを通して「母と娘」の関係性を切り口にした新たな作品を提示しています。

『Tokuko Shimizu: TEXTILE POSTERS』紹介文より(文:岩中可南子)

清水徳子さんは、美帆さんのお母さんです。美帆さんは、オィヴンさんとDanger Museumというアーティストグループとして、ヨーロッパをはじめ海外を拠点に活動していました。近年は拠点を東京に移し、パフォーマンスアーティストとのコラボレーションなどを通して、舞台美術や衣装、インスタレーション作品などを制作しています。(私がプロフィール写真で抱えているピーナッツも、美帆さんの作品🥜) 

もともとは、2002年にロンドンで行われたDanger Museumの展覧会ポスターを、東京で暮らす母・徳子さんに美帆さんが依頼したのがきっかけで生まれた作品。以後、Danger Museumが展覧会をするたびに、徳子さんがテキスタイルでポスターやインスタレーション作品を作って送るという、母と娘のコラボレーションが続きます。

この作品集では、これまで単独で発表される機会がなかった徳子さんのテキスタイル作品を、Danger Museumの文脈から切り離して、それ自体ユニークで魅力的な作品として紹介しています。また、本の共著者である写真家Gottinghamの作品や、エッセー、インタビューなどを通して、作品や創作にまつわるストーリーを紡いでいます。

作品集のための撮影。清水徳子さん(左)と美帆さん(右)

当初の予定では2020年4月に発行し、5月から谷中のHAGISOで発行記念展を行う予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で延期に。展示イベントとセットで計画していたプロジェクトのため、本の進行も一時ストップした後、ようやく2022年3月に発行となりました。

徳子さんと美帆さんがコラボを始めたのは、まだSkypeやZoomなどなかった頃。手紙やメールでの限られた情報のやり取りの中でコミュニケーションをしていたこと、遠くにいる人の暮らしや考えに思いを馳せながら、想像力を膨らませて創作に励んでいた時間などを思うと、コロナ禍でなかなか人と会えない状況と重なることが多かったです。

書籍『Tokuko Shimizu: TEXTILE POSTERS』(Photo: Toru Kobayashi)
清水徳子《The Danger Museum》2002 / Danger Museumの個展のために初めてつくられたポスター。会期や会場名なども刺繍されている

日常に寄り添い続けた創作活動

今回自分は、書籍編集のほか、徳子さんへのインタビューを担当しました。徳子さんは、いわゆる職業作家ではありませんが、小さい頃から油絵を描いたり、大人になってからも日本画や友禅染を習ったり、創作活動が日常に寄り添い続けていました。子育てや家族の面倒をみる傍ら、ほんの少しでも時間を見つけては絵を描くなど創作に没頭することが、役割から解放されて一人の人間になれる時間だったと語っていたのが印象的でした。

主婦として家族の面倒を見ることだけで終わってしまう生活に、何か欠けている感じがしました。結婚後も同居していた明治生まれの母との暮らしでは、価値観の違いが大きく、息苦しさを感じていました。小さい頃は「娘」、結婚してからは「妻」「嫁」、子どもを産んでからは「母」と役割がはっきりしていて、自分の都合よりも相手との関係で行動を求められてきました。私には自由になる時間が大切でした。絵を描くことを再開したのも、その時期です。
 

絵を描くことは「Tokuko」と言う人間でいられる時間です。布や紙の上ではいつも自由でした。子どもと一緒に料理する前の野菜を描いたり、夜中にそっと起きて松ぼっくりを一つ描いたり、葉書サイズの画用紙に絵日記を描くようになったのも気分転換に役立ちました。子どもがいた頃は大きなものを描く時間はなかったのですが、ほんの10分でも絵を描く時間が必要でした。私にとっては精神衛生剤みたいなものです。没頭できること、それは「創作」でした。


清水徳子インタビュー「Conversation Pieces」 より(聞き手・文:岩中可南子)

東京の自宅で、隙間を縫って作られていた作品。その作品を通して、少しずつ徳子さんが外の世界とのつながりを増やし、現代アートの世界にも関わりを持っていく様子も興味深いです。

Danger Museumの活動は、プロの作家ではない人の作品を扱ったり、日常生活の中で行われている表現に注目していました。私の絵葉書や色紙作品だけでなく、美帆の祖母の書もDanger Museumのプロジェクトで展示されたことがあります。美帆がロンドンの大学生の頃、彼らのシェアハウスに行ってアーティストの友人たちと交流したこともあります。家で自分一人で創作していた時は、自分にとって表現は「薬」のようなものでした。でもDanger Museumとの関わりを通して、作品が海外まで飛び出して行ったり、今まで知らなかったことに触れたり、どんどん外との繋がりに展開していったのです。

清水徳子インタビュー「Conversation Pieces」 より(聞き手・文:岩中可南子)

作品制作のために交わされた手紙やメールを見せてもらいました。発注書を送るように淡白で簡潔なやりとりが主でしたが、時折、美帆さんが滞在先で感じたことが書かれていたり、徳子さんが徹夜して制作したことや作品を気に入ってくれるかドキドキしている気持ちなどが添えられていました。

普段、近況報告などの連絡はほとんどしなかったそうで、この作品づくりの過程は、離れた二人をつなぐ会話のようなコミュニケーションの手段でもあったように感じます。徳子さんが創作の際に聴いていたというデヴィッド・ボウイの曲名にちなんで「Conversation Pieses」というタイトルをインタビューテキストにつけました。

清水徳子《Hot Dog #3》2005 / 都市によって異なるホットドッグをモチーフにしたシリーズ作品の1つ。展覧会のインスタレーション作品として展示された
Gottingham《Untitled (Her Posters Ⅲ #194–226), 2019》© Gottingham Image courtesy of Miho Shimizu and Studio Xxingham

展覧会とコラボレーション企画

書籍の発行にあわせて、2022年3月から約1ヶ月間、HAGISOで展覧会を開催しました。作品集に掲載されている徳子さんのテキスタイルポスターを一堂に集め、本展のために作られた新作とともに紹介。また、写真家のGottinghamが、本書のために撮り下ろした「母と娘」の関係性を切り口にした写真作品も展示しました。

会期は長かったので、展示をしながらイベントを考えたり作品が増えていったりしたら面白そう、と美帆さんと話していました(実際は、展示オープンまでに企画する余裕がほとんどなかったからだけど…)。できるだけ会期中はギャラリーに滞在しながら、人を呼んでアイデア交換したりする中で、色々なコラボ企画が生まれていきました。

TEXTILE POSTERSチーム。ベルリン拠点のオィヴンは残念ながら来日できず(Photo: Ryohei Tomita)

1. オープニングトーク「TEXTILE POSTERSができるまで -作品集づくりの裏話-」

4月8日(金)には、NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]キュレーターの堀内奈穂子さんをゲストモデレーターにお招きし、書籍づくりに関わった4名(清水徳子・清水美帆・Gottingham・岩中可南子)が登壇するトークを行いました(こちらは唯一、展示開催前に決まっていたイベント)。

堀内さんからは、刺繍やパッチワークなど手工芸的なものがファインアートとしては位置付けられず、美術館の外に追いやられてきた歴史を踏まえ、現代美術の中での再発見の事例なども紹介いただきました。登壇者は、作品集と展覧会ができるまでの背景や創作の裏側についてなど、それぞれの関わり方と合わせてお話をしました。

トークの様子(Photo: Ryohei Tomita)
右からモデレーターの堀内奈穂子さん、清水美帆さん、徳子さん、Gottinghamさん、岩中(Photo: Ryohei Tomita)

2. 展覧会場での母と娘のパフォーマンス

コラボ企画として、展覧会場でダンサーの山中芽衣さんと母・公実子さんによるパフォーマンスを行なっていただきました。芽衣さんは日々、訪れたさまざまな場所で即興的に踊り、映像に記録して発信しています。その映像の中でたびたび登場する公実子さんとのダンスが印象的で、お二人にTEXTILE POSTERSをテーマにしたパフォーマンスを依頼しました。

その様子を収録した映像がこちらです。本の装丁を思わせる黄色いシャツを纏った二人の、シンクロするような動きが美しいです。

Performance by Mei and Kumiko Yamanaka
Film & Edit: Kumi Oda
Sound Composition: Kentaroh Imai

3. HAGI CAFEコラボパフェと新作ポスター

今回展覧会の共催として関わっていただいたHAGISOとも何かコラボできたら、という思いも展示企画当初からありました。Danger Museumの作品ではモチーフとして食べ物がよく登場することもあり、HAGI CAFEで関連メニューをつくっていただけないか、ギャラリー担当のピンピンさんやシェフたちと相談を重ね、コラボパフェが期間限定で登場しました。

お話を伺うと、パフェは奥深い。1つのパフェの中でさまざまな色、味、食感を混ぜることで、食べ進めていく中でも飽きずに全体としてバランスが取れるのだそう。TEXTILE POSTERSからイメージしていただいた、「甘くない大人っぽさ」と「旅をするような」感じを、ピーナッツクッキー、キャラメルアイス、カシスソルベ、ラム酒のゼリー、クリームチーズ、クランブルという組み合わせで表現いただきました。美味しかった!

HAGI CAFEのシェフたちに作っていただいたた「TEXTILE PARFAIT」(Photo: Ryohei Tomita)
会期中HAGI CAFEに追加展示されたパフェをモチーフにした新作2点と清水徳子さん(Photo: Ryohei Tomita)

さらに、徳子さんがそのパフェをモチーフにテキスタイルポスターを2点つくり、会期中に新作として追加で展示。1つはパフェの中に散りばめられたたくさんの質感を異なる素材感を通して、もう1つは「サクサク」「パリパリ」「ねっとり」など食感のオノマトペを通して表現した作品が出来上がりました。

4. 鑑賞イベント

もう1つ会期中に実施したのが、小笠原新也さんによる筆談ガイドの鑑賞イベント。小笠原さんは、文化施設における情報保障の取り組みをSNSで発信する「手話マップ」を運営している方で、古今東西の美術に精通しているアートファンでもあります。鑑賞イベントでは、聞こえる人・聞こえない人混ざって筆談で作品の感想や連想したことなどを共有しました。

また、小笠原さんからは、手話で展覧会の見どころも紹介いただきました。

ここにある作品はどれもが制作方法も素材もまちまちだけれども、それぞれを作る楽しさ、幸福感が伝わってきます。20年前に清水徳子さんが、娘の美帆さんにポスターを頼まれた時からこれらの作品を作り始めたようで、私としてはこれらの作品を見ていると、清水徳子さんが今までに自分の中でアートを作りたいという気持ちをこねていて熟成しつつ、20年前にそれが爆発して生まれてきた作品であるように思います。ですので、誰もがみなアーティストになれるということを示しているこの展覧会、是非みなさまにもアートとして見ていただきたいと思っています。

小笠原新也さんによる紹介動画より

5. 展覧会レビュー

HAGISOは1FにCAFEがあって近隣の人含めさまざまな人が訪れる場所であること、また以前は「萩荘」という芸大生のアトリエ兼シェアハウスだったこともあり、住居としての佇まいの残った場所であることから、日常の中で生まれた徳子さんのテキスタイルポスターの展示にぴったりだと感じました。

展覧会のレビューは、谷根千エリアを紹介するローカルメディア「まちまち眼鏡店」に掲載いただきました。執筆は元行まみさん。展覧会や作品を観た感想、"Life as Artー日々を豊かにしようとする工夫から生まれた表現"という視点から綴られています。

作品集づくり、そして展覧会開催にあたり、本当にたくさんの方々の協力をいただきました。展覧会に何度も足を運んでくれた方がいたり、この終わりのなさそうなプロジェクトに面白がって関わってくれた方もいたり。私たちも日々カフェで美味しいご飯を食べながら作品を眺めつつ、こんな企画をやったらどうかとか、次はこんな場所で展示してみたいとか、色々なアイデアを膨らませることができ、そのいくつかも実現することができました。

オィヴンさんが記した後書きにこんな一節があります。

ミホと僕はロンドンを離れたのち、プロジェクトからプロジェクトへと渡り歩き、様々な人々と場所と物語を融合しコンセプチュアルな風景を作品として作ってきた。(中略)トクコは僕たちのアート活動のアイデンティティである展示ポスターを、継続的に作り続けてくれた。僕たちの旅を布地に抽象化しながら。少し距離を置いて見ると、トクコのテキスタイル・ポスターは、それ自体が美しい視覚的な人生の記録であることが分る。

後書き「Field of Ideas」より(文:オィヴン・レンバーグ)

もともと母と娘のコラボレーションとして誕生したTEXTILE POSTERSを通して、新たなコラボがいくつも生まれたこと、そしてここが旅の通過点のようにまだまだ続いていきそうな予感がたっぷりなことが、このプロジェクトの面白さでした。次はどんなことをしようかアイデアを転がしながら、ゆっくりと継続していきたいです。

Information

書籍『清水徳子のテキスタイルポスター / Tokuko Shimizu: TEXTILE POSTERS』

著者|Gottingham、清水美帆、オィヴン・レンバーグ、岩中可南子
ISBN978-4-904894-54-5 C0070

体裁|B5判変形 上製本 表紙布製 72頁 掲載作品24点 日英バイリンガル
定価|3,500円(本体3,182円+税)
発売|2022年3月24日
印刷・製本|株式会社 サンエムカラー
発行|株式会社フリックスタジオ
デザイン|木村稔将、阿部原己(Tanuki)

Webサイト:http://t-e-x-t-i-l-e-p-o-s-t-e-r-s.com/

▼作品集はWebサイトまたはamazon、flick studioのサイトから購入できます

展覧会「TEXTILE POSTERS」

Artist|清水徳子、Gottingham、清水美帆 & オィヴン・レンバーグ(Danger Museum)
Planning|岩中可南子
会期|2022 2/3/29 (Tue.) – 4/24 (Sun.) 12:00〜20:00
会場|HAGISO東京都台東区谷中3 ‒10 ‒ 25

什器・設営|玉置真(タマプロ)
撮影:冨田了平

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