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生臭漬け

7月に入り蒸し暑い日が続き汗とともに体力も気力も奪われていく。ということで夏バテ退治のかないわレシピその①”生臭漬け”である。

金沢市の港町である金石では、他の北前船寄港地と同様に”コンカ漬け”の産地である。福井あたりでは”へしこ”というらしいが、要は魚のぬか漬けである。

ニシンやイワシ、ふぐが基本の材料であり、”ふぐのぬか漬け”といえばその昔”石川県10名産にも選ばれたほどだ。ふぐの顎や猛毒の卵巣を無毒化したものも金石が誇る珍品として名高い。
現在ではサバやブリなども漬ける。ふぐ以外は青魚の印象が強い。

自分の家で漬けることもあれば、塩もん屋(塩物や干物を扱う店)で買うこともある。「大漁の時の稼ぎでコンカイワシを塩もん屋から桶買いして、シケやらなんやらで収入のない時にぬかから出して細々と食いつないどったわ。」というのが漁師の妻のやり繰りであったらしい。コンカイワシは保存食であり非常食でもあった。

さて”生臭漬け”である。コンカ漬け、特に青魚を漬けたぬかには青魚の脂や栄養素やうま味が落ちる。その青魚の養分をたっぷり吸ったぬかで、きゅうりやナスなどの夏野菜を漬けたのが生臭漬けの基本である。
桶から上げたキュウリやナスは青魚の脂とうま味を内包し塩味もあるので、日中さんざん汗をかき体力を使ったあとの栄養補給にピッタリである。
ご飯の友にも酒の肴にもなる一品である。

夏によく食されたようだが、季節は不問で人参、大根、カブでやっても美味しい。洋野菜でおススメはセロリとアボカド。青魚の脂と反対のベクトルの爽やかな香りが合うのがセロリの生臭漬けであり、同じ向きでありながら動物性の脂と植物性の脂で調和してしまうのがアボカドのそれである。

私は鶏の手羽元を漬ける。ぬかをわざと付けたままにしてグリルで焼く。ぬかが焦げる香ばしい匂いが食欲をそそり、淡泊な鶏に青魚の脂が加わりとっても下品で旨い”手羽元のコンカ漬けグリル”の出来上がりである。5歳の娘はそれを”お父さんのお肉”と呼ぶ。その娘が遠く離れた私の姉と妹に、お友達やそのお母さんに”お父さんのお肉”がいかに美味しいかの自慢をするのを聞かせてもらうのが私の無上の楽しみである。



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