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「普通/普通ではない」ことの挟間で ~<思索のノート>と《Stacked Joints》を重ねて~

 常田さんが挿画を担当されたコラム<思索のノート>(信濃毎日新聞, 2021年4月~2022年3月)。その中で、執筆者である本田秀夫先生は、以下のような文章を綴っている。

多くの人は、普通であることと普通でないことの間で揺れ動く。その時代の流行に合わせた服装や髪形をするのは、「普通ではない」と思われたくない心理が働く場合もあれば、「いち早く流行を取り入れて他の人と違いを出したい」という場合もある。ふだんは目立ちたくはないという気持ちがある一方で、自分だけを特別に見てくれて愛してくれるパートナーが欲しいとも思う。

本田秀夫「<思索のノート>『多様さこそ普通に』」
 信濃毎日新聞, 2021年5月16日, p.19

 我々は「普通でいたい」という気持ちと「特別になりたい」という気持ち、2つの心情を持っている。マジョリティに属して安心感を得たい一方で、マイノリティに憧れや尊敬を抱くのである。世の中に遍く存在する暗黙の規範や基準、物差しの外へと自身を外さないように意識しつつも、その枠組みから逸脱することを心のどこかで望んでいる…。

《Stacked Joints》

 常田さんのコラージュ作品《Stacked Joints》を見ると、そのような相反する心情が、眼前へと立ち現れてくるのを感じる。なぜなら、この作品は大きさも色も様々な紙がバランスよく、それでいてどこかぎこちなさが残るように配置されており、あたかも「普通」であることを望みながら他人との差異を図りたい、という我々の心理を象徴しているかのようであるからだ。
 ややグレーみがかかった背景の上で、各々の「かたち」は互いに主張し合つつ緩やかな調和を保って全体の画面を構成している。個性を前面に押し出すことはせず、あくまでも集団の一部として振る舞おうとする「かたち」がそこにはある。

 我々にとって、日常的に感じる「普通/普通ではない」このジレンマ。本田先生の文章、そして常田さんの作品に出会ったことで、当たり前のように感じていたこの心情の揺らぎについて、改めて問うてみたいと思う。(T.T)


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