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ゴールデン街ハードコア ~体を売る男の子たちの話~

現場が新宿方面だったので久しぶりにゴールデン街に行ってきた。1週間以上前の話だからまだ、コロナが再び騒がれる前の話なんだけど。ゴールデン街にはいくつか行きつけのお店があって、そのうちの一つに。お店の名前は伏せておく。

コロナでゴールデン街は変わった。入国制限でインバウンド需要という概念がなくなり、15年前のように日本人が戻ってきたという感じ。それでも15年前よりは客層が若い。

私の行ったお店は、中のお姉さんが日替わりのお店。みんな人生経験が豊富で客のくだらない話にも柔軟に対応して盛り上げてくれたり、相槌を打ってきちんと聞いてくれる。

その日も私の他に一人初対面の先客がいたんだけど、落合のSOUPというクラブ周りで遊んでいるという会話をきっかけに探ったら共通の知り合いがいるということで大いに盛り上がった。腕にびっしりとタトゥーが入っていて、お歳の割にはスマートなお兄さん。中のお姉さんとも盛り上がった。いい夜だった。

私もそろそろ帰ろうという頃合いを見計らって店を出たんだけど、見ず知らずの若い男子二人組に路地で声をかけられた。
「お兄さんこの辺で良いお店ありますか?」

今風の男子二人。インスタでフォロワーがいっぱいいそうな感じの。物腰が柔らかでお洒落でスマート。なんとなくゲイっぽい。「っていうかあんたたちノンケ?」と聞いてみたら「僕はノンケですけど、彼はゲイ」だと言う。
「なら話は早い。さっきまで飲んでたお店行こ。一杯だけ付き合うから」といって私は先ほどのお店に戻った。「新規客連れてきちゃった。一杯だけ飲ませて」と謝りながら再入店。しょうがないなあという表情で受け入れてくれた。

さっそく二人組に「なんでゴールデン街来たの?あんたたち店子?」と絡む。あまりにも顔面が整っているから二丁目の住人だと踏んだのだ。ちなみにゲイバーでウェイターを務めるスタッフのことを店子と呼ぶ。そしたら意外な答えが返ってきてびっくりした。
僕たち、ウリ専で働いているんです

どひゃあ。びっくりよ。
察しのいい人はお分かりだと思うけど、ウリ専っていうのは体を売ってる男の子たちのことだ。通常はお店に所属し、所謂デリヘルや箱ヘルのような感じで働いてる。お店によってはバーも併設されていて、好みの男の子と飲むこともできる。彼らもそうやってお金を稼いでるのだ。

浅草で飲んでたりすると吉原の女の子と一緒になって盛り上がることもあるけど、私はそれほど二丁目では飲まないゲイなので、なかなかウリ専で働いている子たちに会うことはない。ああいうゲイの夜の世界は私にとっては煌びやかすぎて目がくらんでしまう。過去にウリ専をしていたという子とは知り合うことはあっても、現役のウリの子たちと知り合うことはまあない。

一人は韓国アイドル、もう一人はくどくない松潤といったお顔。売ってお金にできるだけの美貌と体を持ち合わせている二人なのだ。かたや私は体重も自己最高記録を絶賛更新中のアラフォーゲイ。格差社会ここに極まれり。

「なんでゴールデン街なんかに来たのよ」ってうっかり聞いてしまったことから、そこから彼らの長い話が始まってしまう。
「僕、お店でもすごい売れっ子なんですよ」と始まる松潤の独白。どことなく意思の強そうなキツい目つきをしている。お姉さんは「ヤマネコみたいなかわいい顔」だと評していた。

18歳で二丁目の華やかな世界に憧れて長崎から二丁目に出てきて、手っ取り早く稼げるウリ専に籍を置いた。ナンバー1という程ではないがそこそこ売れっ子で沢山のお客に愛され、その努力の代償にお金が戻ってくる。ほしいものはある程度手に入る生活を送れることを考えるとウリという仕事もつらいと感じることはなかった。
体を売って手に入れたお金で派手に飲む。付き合いのある他のウリ専で飲むことがほとんど。それが彼が憧れていた華やかな二丁目の世界だった。
でもそんな暮らしも3年が過ぎて飽きてきた。

「渋チンの客の中からなんとか太いパパ客を見つけて、チップも弾んでもらって。周年だバースデーだって付き合いで飲みに行って、気分が良くなって何本もシャンパンを開けちゃって。家に帰って寝て、起きたら15万円入ってた財布が空になってることもあって。僕、なにやってるんだろうって。本当にむなしくなるの
そう彼は絶望した表情で言っていた。

もう一人の子が話す。その子もノンケながらにウリ専で働いている子だった。
「ゴールデン街って昔ちょこっと遊んでて、本当に良くしてくれたお店があって。でもそこのマスターも具合が悪くなってお店閉めちゃって。でもゴールデン街って皆優しいじゃないですか。ちゃんと人の話も茶化さないできいてくれるし、一杯あたりの単価も安い。それを彼に教えたくて連れて来たんです。僕もいつかゴールデン街で働きたい。」

「僕、二丁目から出たことないから600円で飲めるお酒がある世界、今まで知らなかった」と話すヤマネコの目つきがなんとなく柔らかくなっていた。「お姉さん(あたしのこと)も何気なく飲んでますけど、普段僕たちと飲もうとするとめっちゃ高いからね」と牽制が入る。「ごめん、あたしガタイ専だからウリ専買うとしたら御徒町なんだよね」とあたしも牽制球を返してしまう。そんなあたしは体を売ったことも買ったこともない。
でもそんなトークがができるのもゴールデン街の魅力だと個人的に思う。二丁目ではまずかち合わない。

そもそも堅気の世界でぬくぬく過ごしてるあたしが彼らに言えることなんて何にもない。あたしの月給は彼らの何日分の稼ぎなんだろう。あーだこーだと言いながら彼らの会話に付き合ったけど、私の言葉の中に彼らの心に響くものがあったかというと自信はない。
それでも今回は彼らにとってむなしくないお酒だったらいいなという気持ちでいっぱいだ。

わたしはそこがどんなに華やかな世界なのかしらない。そしてヤマネコの彼が抱える虚無がどんなに深いのかをしらない。それでも彼の抱える虚無がいつかなくなる日が来ることを望む。

ゴールデン街に来た珍客は若くてかわいくて、少しハードコアだった。これがあるからゴールデン街で飲むのはやめられない。


※そのあと気づいたけど、ウリの友達いたわ。忘れてた。でもあんま仕事の話はしないな。

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