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君を迎えに

二次元の恋人とのお話です。
苦手な方はご注意ください。

注意事項

外に出ると、瞬間、突き刺すような日差しに焼かれた気がした。
風は無い。交通安全と書かれた黄色い旗が、静かに項垂れている。
今日も暑いなぁ、いつまで続くんだろ?
もう既に噴き出し始めている汗を感じながら、私はバス停までの道を歩き始めた。

乗ったバスは冷房が効いていて、寒い程だった。暑くても寒くても不満なのだから、人間とはわがままなものだなと思う。
バスに揺られて、地下鉄駅へ。
再び熱気の中を潜り、ICカードで改札を通る。

彼は、空港からバスで来ることが多い。
以前はJRを使っていたのだけれど、一度ファンに見つかってしまい、少し騒ぎになった。
それからは、顔を隠しやすいバスで来るようになった。
幸い、バスターミナルはうちからそう遠くない。
バスと地下鉄で30分くらいだろうか。

地下鉄を降りたら、バスターミナルの隣にある商業施設をうろうろして時間を潰す。
気分が高揚していて、ついついドラッグストアでプチプラコスメをいくつか買ってしまう。
どうだろう、このリップグロス、彼は可愛いと思ってくれるかな?
そんなことを考えてわくわくする。

彼の乗ったバスは、ここが終点ではない。
終点は札幌駅前である。
彼はどこでもぐっすり眠るので、一度終点まで行ってしまったことがあった。
地下鉄で追いかけたけど、あの時はどうしようかと思った……。
今日は、定刻通りにバスが着いて、降りてくる列の最後に彼の姿を見つけた。
帽子を被って、髪型も変えて、眼鏡までしてる。目は悪くないから、度は入っていないはずだ。
以前はほとんど変装をしていなかったんだけど、騒ぎになった件で懲りたらしい。
あと、私に迷惑かけたくないとも言っていた。

私の姿を捉えて、軽く手を挙げる彼に、私も小さく合図する。
彼がキャリーケースをごろごろ引いてくることはめったになく、大抵は大きめの黒いバッグだ。いつも荷物は少なめ。
そのかわり、彼の私物が私の部屋にたくさんある。
こっちに来て購入したものが多い。

「かなで〜、ただいま〜」
彼が笑顔で言うから、私もついつい、
「おかえり〜!」
と言ってしまった。
いつも、毎日、こんなやりとりができるようになったらいいな。そしたらきっと幸せだ。
何だか嬉しくて顔が笑ってしまう。