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タイパーのためのピアノ教本レビュー

 タイパーアドカレ2023の2枠目を埋める記事、3本目です。この記事は6日目の枠となります。前回の記事はこちら。

 とりあえず一本ライトな記事を書いておこうということで、ピアノの練習本についてざっくり書いてみます。

 ちなみに私(かり~)のピアノ(鍵盤楽器)歴としては、小さい頃に通わされたヤマハ音楽教室(エレクトーン)で楽譜だけは読めるようになったあと辞めて、高校生になってから改めてピアノを習い始め、高校3年生のときに「ピアノ発表会」というものを初体験。大学に入ってからも1年くらいは続けていましたが、それ以降は10年以上離れていました。
 ある時、忘年会的なイベントの余興でピアノの伴奏を弾くことになり、久しぶりにピアノを弾いたら楽しかったのと、ちょうどその頃新型コロナ感染症の緊急事態宣言が発令されて家にいる時間も多くなったので、電子ピアノを購入して今に至る、という感じです。

 そんなわけで小さい頃からがっつりピアノをやってきたわけではないのですが、そんな自分に書ける範囲で「指を鍛える」という観点から見たピアノ教則本のレビューを書いていきたいと思います。

全訳ハノンピアノ教本

 「ハノン」と言えば、ピアノをやっていない人でも知っているような有名なピアノ教則本ですが、指のトレーニングという観点で見ると個人的にはあまりおすすめしないです。
 両手がわかりやすく同じ動きをしていて比較的楽譜が読みやすいので、初心者がとりあえず触るには悪くないかもしれないのですが、指のトレーニングとして速く弾こうとするとどうしても雑になりがちです。レッスンで見てもらうならともかく、一人で指のトレーニングとして練習するなら、他の教本でもいいのかなと感じます。
 メカニック面で強いて効果がありそうなところを一つあげるなら、一番最後の「トレモロ」の練習などは「前腕の回内・回外の動き」(手首を回す動き)をする際の筋持久力が鍛えられているような感覚はありますが、ピアノはともかくタイピングではそこまで活きないような気もします(そもそも個人的には、タイピングに筋力の必要性をほとんど感じないので……もっとタイピングを突き詰めれば、必要だと感じる場面もあるのかもしれないですが)。
 ただし指のトレーニングではなくピアノを弾くという観点で見ると、「音階(ドレミファソラシド)」や「アルペジオ(分散和音)」などはクラシックにせよポップスにせよ弾けるに越したことはないので、純粋に音楽的な目的で購入するのは悪くないと思います。
 ちなみに余談ですが、ハノンの最後には《この本を全部通してもたった1時間で終わるので、毎日通して弾きましょう》というような恐ろしい文言が書いてあります。実際に実践した人はどれくらいいるのでしょうか……。

 ハノンをもし購入するのであれば、東音企画から出版されている『NS76 指セット プラス ハノン』という教則本がピアノ経験者にはわりとおすすめです。ハノンの中でも効果的なものを抽出しつつ、ハノンに足りない練習も補足で入れてコンパクトにまとめてくれています(ただし初心者には練習内容が少しとっつきづらいかも)。

リトル ピシュナ 48の基礎練習曲集

 「指の独立性」を練習するという観点でみれば、ハノンよりもリトルピシュナの方がおすすめです。
 スト6の記事でも少し触れましたが、いくつかの指を鍵盤に置いたままで他の指を動かすという動きが練習できます。たとえば12番目の練習曲を例に上げると、右手の親指と人差指で鍵盤を押さえたまま、薬指と小指のトリルでソとラを交互に弾く、という動きになっています。
 私はそこまでタイピングのフィジカルに自信がある方ではないのですが、リトルピシュナを何ヶ月かやってみて、タイピングでも指の細かい動きが求められるような文字列を打つのがだいぶ楽になったように感じました。フィジカルの練習というのはタイピング練習の中でも最も成果が見えにくいものだと考えていますが、それでも年単位でこういうものを弾いていると、着実に始めた頃よりは指が動くようになることを実感できると思います。
 ちなみにこのリトルピシュナの次には『ピシュナ 60の練習曲』という、さらに上級者向けの楽譜もあります。

ドホナーニ: 指の練習

 ドホナーニのこの練習曲も、リトルピシュナと同じようなスタイルで指のトレーニングを行うことができます(リトルピシュナよりも難しいです)。
 たとえば1曲目は、親指・人差し指・小指で鍵盤を押さえながら、中指と薬指でトリルを弾くところから始まります。似たような指の運動はYoutubeなどにもありますが、ピアノで行うことによって音によるフィードバックも得られますし、さらにメトロノームを活用すれば段階的に練習することもできます(メトロノーム自体はスマホでも鳴らせるのでピアノでなくても使えますが)。
 どの曲もかなり困難な動きではありますが、そのぶん指が鍛えられている実感も得られる教本です。ただし輸入楽譜ということもあって、現在の為替水準だと4000円近くあるのがネックですね……まずはリトルピシュナなどに取り組んでみて、物足りなくなったら購入を検討すればよいと思います。

コルトーのピアノメトード

 昔の有名なピアニストによる教本。この本はまだあまり使ったことがないのですが、指の独立性の練習はもちろん、「指を開く技法」など他の楽譜にはないアプローチが色々とあって興味深いです。結構マニアックな練習もあるように見受けられるので、ある程度取捨選択ができるピアノ経験者でないと使うのは難しいかも。
 またそのうちちゃんと使ってみて、効果がありそうなら改めて感想を書きます。

ブラームス 51の練習曲

 ブラームスの練習曲集は、作曲家の知名度と比べてあまり知られていないように思いますが、実際に弾いてみるとどの曲もかなり難しいです。
 たとえばショパンの練習曲ほど音楽的ではないですが、単なる指のトレーニングというよりもっと実践的なピアノ演奏向きの内容なので、タイパーが指の運動目的で使うようなものではないような気がしますね。ただ昔に何曲か練習してみましたが、ハノンなどに比べると和声(ハーモニー)にも少し工夫がされていて、案外弾いていて楽しいです。
 個人的には、まえがきの記述になかなか迫力があって好きですね。
「ブラームス自身は、この自分の練習曲集の徹底的な練習と消化によって、自分のテクニックの高い水準を維持していたのだったが、その反面で、これらの曲を弟子に使わせたために、その弟子を絶望感におとしいれたこともあった

ツェルニー

 一応、ハノンと並ぶくらい有名どころなので取り上げておきます。
 ツェルニーは一応、これまで取り上げた他の教本よりは曲っぽい形になっています。ただこれは個人的には中途半端に感じていて、曲として見るとそこまで弾きごたえがあるわけでもなく、一方で指の運動として見ると少し冗長にも感じます。
 ツェルニーの練習曲はベートーヴェンあたりのピアノソナタを目指すのであればまだ良いのですが、ポップスや他の時代の曲には技術が活かしにくいところもあります(無駄とまでは言いませんが)。
 ある程度長期的に時間がかけられる子供のレッスンならともかく、もし大人で何か弾きたい曲があるならツェルニーを使うより直接弾きたい曲を練習したほうが早いですし、指の運動を目的とするのであればもっと直接的にフォーカスした他の練習曲の方が好ましいと思います。
 それでも、ツェルニーには「30番練習曲」「40番練習曲」「50番練習曲」と段階を経てステップアップしていく楽しさもあるんでしょうね。

ベレンス 左手のトレーニング

 記事を一通り書いてから、まだ持っていなかったベレンスのこの教本を購入、いくつか弾いてみました。左手の動きというのはQwerty(ローマ字入力)においてはかなり重要になってきますし、JISかな入力でもQwertyほどではないにせよ当然左手が動くに越したことはありません。
 それで実際に使ってみた感想ですが、鍛えられる能力はわりとハノンに近いように思いました。ピアノの基本的な音形を左手だけで練習するという形式なので、ハノンと同じく読譜がやりやすいのはメリットですね。それから楽譜が左手側しかないので左手の動きに集中しやすく、ハノンのように雑にはなりにくいかなと思います。
 ということでピアノの上達には有用だと思いますが、その動きがタイピングに活きてくるかというと少し微妙なところです。何もやらないよりはマシでしょうが、ピアノでしか使わないような動きも結構多いので、タイピングで明確に実感できるほどの効果を得るのは難しそう、というのが少し弾いてみて感じた感想です。

 とりあえず手持ちの教本の紹介は以上になります。改めて書いてみると、あまり使わないまま本棚に眠っている楽譜もいくつかあったので、来年はそのあたりの教本も使って練習してみようと改めて考える機会になりました。
 スト6の記事でも書いたように「タイピング力を鍛えるにはタイピングが一番」ではありますが、ピアノ教本を使ったトレーニングはまた違う観点から鍛えることができますし、何より単調なフィジカルトレーニングを楽しく取り組めるのが一番のメリットかなと思います。

 タイパーの中にはピアノにもっと詳しい人もいそうなので、他にもこの教本がおすすめとか(ピアノのジャンル問わず)、あるいはここで取り上げた教本でもこういういいところもあるよとか、ぜひ何かあれば教えてください。

 次回のアドカレ記事は、「ユニバーサルなタイピングゲームとしてのTiN」を書く予定です。

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