華生ばかり #0018
ホントにめっきり寒すぎる。やっぱり来るもんなんだね、布団から出たくなくなる季節ってもんは。忘れた頃に来るよ。ホントに朝、誰か助けてって思うね。気温差がめちゃめちゃで何着ていいのかわかんないよ、みたいな時期は抜けてくれたからいいんだけど、それにしてもだよ。裏起毛のインナー買わないと私自身が終わってしまう。
■会えない季節に伝えたいこと
前回のイベントは「次の冬、和風曲芸は出展(応募)しません」と事前にアナウンスしていたので「一年会えないんですね」など、寂しそうに仰る方が多かったんです。いつもは握手して、三秒ぐらいで手を離す人が暫く離さないまま寂しそうだったりもしました。私たちも「そうだね。でも来年会えるよ、受かれば」とか答えていたと思います。
夏から冬のイベントって間が短いから、今はあんまり実感ないんだけど、ホントの年末が近付いてきたら「あ、そっか。今年は私、年末休みなんだ」と何度も繰り返し思うんだろうな、と感じます。
何人か泣いていた方もいらっしゃったんですが、わりと予想していたというか、そういう人もいるかもしれないなと思ってはいたので、そこまで驚きはせずに、比較的普通に宥められるかな、とも思っていました。でももしかしたら、もらい泣きしちゃうかもなぁとか。
でも全然もらい泣きしなかったんですよ。何故かというと、泣いている人の中で「吉川さんたちが自分たちの原点なので」とか「吉川さんたちがいたから友達になれた人たちとも疎遠になっちゃうのかなって」とか、そういうようなことを言っていた方がいた気がするんですが、その時、ちょっと違うことを思い出していたんですよね。
好きなドラマのトップ5に絶対入る「アキハバラ@DEEP」という作品があるんですが、そのドラマで唯一よく分からなかったことが、その時分かったからなんです。
@DEEPを知らない人もいるかもしれないけど、あれは元々、ネット上で「悩み相談サイト」を運営していたYUIさんという人を慕っていた数人がリアルで集まって、秋葉原のトラブルシューターをするという話で「池袋ウエストゲートパーク」の秋葉原バージョン……と言ったら少し違うかもしれないけど、まぁでもそういうテイストの話なんです。でも、詳細は伏せますが、第二話で「彼らを引き合わせた」YUIさんは(とりあえず)いなくなってしまうんですね。その後も、とあるきっかけでちょいちょい出てくることはあるんですけどね。(説明しにくいな)
基本的なストーリーとしては、秋葉原に集まった彼らが色々なトラブルや出来事を経て友情を深めていったり、小競り合いみたいなことを繰り返しながら、それでも基本的には和気藹々とやっている。「悩み相談サイトのYUIさん」がいなければやっていけなかったぐらい閉鎖的だったはずが、どんどん外に目を向けるようにもなるし、仲間の大切さにも気付くし、苦手なことも克服できるようになるし。観ながら「つまりYUIさんは、彼らがこうなるためのきっかけだったってことだよね」と思ってたんですね。
でも、最終回のちょっと前のお話で、その「YUIさん」が、とある人物に……言うなれば「拉致」されるみたいな展開になって、それまでは、ある方法を使えばYUIさんとコンタクトが取れていたのに、彼らの前から本当にYUIさんがいなくなってしまうんです。仲間の一人が、事務所に侵入してきた(YUIさんと連絡の取れるツールを盗みにきた)悪役に立ち向かって大けがをして入院沙汰になってしまうし、みんなで作った事務所もめちゃくちゃにされてしまうし。観ててすごく悲しかったし、入院して酸素マスクをしているメンバーの前で「何で俺らがこんな目に遭うんだ、何とかしろよ、お前リーダーだろ!」とか、仲良くやっていたチームが初めて、ものすごく辛い空気になるのね。
そのシーンの繋がりで、結局そのメンバーたちがギクシャクしちゃうんだよね。ものすごく仲良かったのに。めちゃくちゃで誰もいなくなった事務所の中で、メンバーの二人が会話するシーンがあるんだけど、一人が「これからどうするんですか」ってリーダーの子に聞いて、リーダーが答えられないでいると「YUIさんがいなきゃ。YUIさんがいなきゃ。私たち……」って言葉に詰まって、物凄い号泣するんだよね。
当時観ていた私には、それがいまいち分からなかったの。一応きっかけとして「自分たちを引き合わせてくれた存在」として大事な人なんだろうけど、YUIさんがいなくても充分上手くやれてたんだし、もうYUIさんがどうのこうのというよりは、秋葉原に集まったこのチームの話だし、何かがあっても、そこはもうYUIさん関係ないでしょう、みたいな。
みんなの会話の中に「YUIさん、YUIさん」って頻繁に出てきてはいたから、今後の展開でYUIさんがまた絡んでくる関係で、視聴者にYUIさんの存在を忘れさせないために台詞に組み込んでるのかな、ぐらいの感じで観てたんだよね。
ものすごい長くなったけど、私の前で泣いてるファンの子を見ながら、そのシーンを初めて理解したの。引き合わせた人の存在ってすごいものなんだな、と。あの@DEEPの子が泣いてたのと、目の前のこの子が泣いてるのは恐らく、似たような理由なんだと。
私は正直言って、和風曲芸がきっかけで普通に遊びに行ったりキャンプしたりしてる子たちを見てて、いい意味で「この子たちは、私たちがいなくなってもずっと仲良くしていられるだろうな」と本当に本気で思ってたし、何の影響もないだろうと思ってた。今でもそう思うけど。だって「私たちがいなくなったら、この子たちもバラバラになるんだろうなー」なんて思うことって、すごく自意識過剰じゃん。でも、そうでもないんだなって気付いた。
分かってたつもりだったけど、自分が背負っているものの大きさを本当の意味では分かっていなかったのかもしれない。和風曲芸がこのままの状態だと無理だとか、最悪潰すしかないっていうのは飽くまでも内部的なことで、それ以上でもそれ以下でもないと思ってたんだよね。和風曲芸をやめれば、私はどこかの事務所さんにでもお世話になって、また外部のお仕事をさせていただく声優に戻るのかもしれないし。おそらく吉野さんもそうでしょう。
でも、泣く人がいるんだな、とあの時にずっと思ってた。そして「もっとしっかり自覚を持ってやらないとだめだ」と思ってたの。だからもらい泣きなんかしてる場合じゃなかったんだよね。人の心は人の心。大人数でも少人数でも、人の心。
私たちがどうにかなったからと言って、変な空気になってほしくない。これは願望だし、絶対に潰れませんとは言えないけど。何をどうひっくり返しても潰れるときは潰れるんだろうし、志だけじゃやっていけない。ついてきてくれてる人たちがいることが分かっていても、経済的に無理ならやめるしかない。でも、まだやっていけるうちは、みんなが私たちのことを声を枯らして応援してくれるように、私たちも同じくらい素敵なもの、楽しんでもらえるものをお返ししていきたい。そうじゃなきゃダメ。
私はみんなのことを「ただのファン」だとはあんまり思っていなくて、そりゃ演者とファンなんだから会って遊んだりすることはないだろうけど、でも「同志」みたいなものだろうなと思ってる。私が書くもの、スタッフさんたちや他の声優さんたちが協力してくれて作るものを理解してくれて、同調してくれている同志。それは本当に貴重なこと。
お正月やお盆に実家に帰れないとか、みんながGWで遊んでるときにずっと書いてるのだって、全然苦じゃない。そうでなければ、こういう団体を作ろうと思わなかったと思う。ただ、ファンのために、この仕事のために身を切れる人ばかりじゃない、それよりも自分の生活のほうが大切だという人がすごく多いというのは事実で、そういう人とはお互いのために袂を分かつことにした、というのは何度もある。私はそういう人たちを攻められる立場にない。芸能やってようがなんだろうが、人生はそれぞれのものだし、そこの価値観が違うなら、もう仕方がない。実際に「この人がいなくなったら、売り上げが一気に落ちる」と確実に分かっていた人もいるけど、でも、その根本的な考え方が違う以上、無理矢理引き留めておくことは無理だし、私にそんな権利はない。やめる時の話し合いで、内心怒鳴りたくなったときもある。ファンを、仕事をなんだと思ってんの!! と言いたくなったこともたくさんある。ホントに頭に来たんだよ。何回会ってもファンの顔も名前も覚えない、ギャラだけはもらう。でも和風曲芸を仕事だと思ったことはない。じゃあ何? 趣味。趣味だって言うならどういう気持ちでギャラ受け取ってるんだよ! そういう様々なことが起こるたびに、本気で頭に来てた。
けど、今は「文句言えることでもなかったな」と思う。和風曲芸は私の作った団体で、私はその人たちに協力してもらってたから。そのあたりは反省もあるし、今いるメンバーを大切にしながら、できることをやろうと思ってる。というか本当に迷惑かけたな、と今なら思える。そりゃ色々思うことはあるけど。でも、お互い様だなと。
とりあえず、過去は過去。これからのことを考えないと。私たちのラジオや作品がきっかけで仲良くなってくれたファンのみんなや、そうでないにせよ、人知れず応援してくれている人。ラジオが隔週になったことで「泣きました」とメールをくれた人。ごめんなさい。心配をかけて。迷惑をかけて。泣かせて。
その人たちのために一番やらなきゃならないことは、一日でも長く和風曲芸を続けて、作品を送り出すことです。上手く纏められませんが、もっと広報や他のこと、できることもやりたいことも山ほどあります。なかなか険しい道ではありますが、一言で言うと「頑張るからよろしくね!!」
■編集後記
これは、そのうち書きたかったことなんですよね。本当にあのイベントで、ファンの方に気付かされたことだったから。私たちだけの問題ではないな、と本当に思いました。だから、まだ余力はあるけど……みたいなところでやめるという選択肢は捨てて、出来るところまでやろうと改めて思いました。でも、思い詰めずに。冷静に和やかに。(因みに上の画像は、夏コミの日の朝に撮ったものです)
何かの作品を出す際にYouTubeに宣伝動画をアップしても再生数が殆ど延びなかったりするのは本当は寂しいし悔しいですが(作るのにものすごい時間掛かってるので)それを観て頂けるように努力することも私たちの仕事だと毎回思います。「それは興味ないわ。ラジオは聴く」的な方々等が、どうしたら作品に興味を持って買ってくれるのか(結局お金がなければ終わるので)でも、人気のある声優さんを集客力だけのために出て頂いても意味がないですし。色々考えなければならないことは多くあります。初心に帰って、リスタートするつもりでやっていこうと思います。和風曲芸旗揚げ当時の私に、今の私が確実に勝てることは幾つもあるから、あの時よりも上手くやっていけると思うよ。あの時はなかったけど、今は「経験」と「ファンの存在」がある。
作業中BGM「私とワルツを/鬼束ちひろ」
和風曲芸主宰 吉川華生