「スマイルプリキュア!」感想

(ヘッダー画像:公式HP https://www.toei-anim.co.jp/tv/smile_precure/ より)

 プリキュアシリーズ9作目。本作のコンセプトは「いつもスマイルでいれば、ハッピーな未来が待っている!」。特徴としては日常描写に特化点を置いたこと。1話完結の完成度、面白さがかなりのものとなります。困難があっても笑顔でいれば明るい未来が、というテーマ的な部分もあるのですが、コメディ要素がかなり強く、視聴者を笑わせるという意味での「スマイル」な作品になっています。プリキュア活動で根幹となる話は、22-23、31-32、45-48話となり、最小限に抑えられています。さらに最終話を除いて、前話のシリアス回を忘れたのでは?というノリでの日常回を展開します。

 「良かったら、私と友達になって欲しいな。みんなで一緒に遊ぼう、きっととても楽しいから」(―――スマイルプリキュア!45話 みゆきより)

 根幹となるシナリオは最小限、日常の繰り返し、さらに48話もの話数、しかも本作は追加戦士が居ない。正直、途中から飽きが出てくるかなと思いきや、後半は日常回も趣が変わり、飽きを感じさせない作品にもなっています。各プリキュア個人の内面を掘り下げる40-44話も見どころなのですが、それ以外に後半はマジョリーナ、ウルフルン、アカオーニ……敵の三幹部の扱いが変わってきます。45話で三幹部が元々はメルヘンランドの妖精だとわかる……みゆきの言う敵幹部も含めて“友達になりたい”に繋がっていくように、後半は彼らが“遊ぶ”描写が増えます(場合によっては38話のウルフルン、アカオーニ、のように子供になって、同じく子供になったプリキュアと一緒に遊ぶ場面すらも)。日常シナリオにプリキュア側5人だけではなく、敵幹部という登場人物を、“ただの敵”ではなく、“友達のように”なシナリオを展開します(当然、悪いことはしますけどね)。これによる制作側の本気のお遊び回が面白い……個人的には特に35話「やよい、地球を守れ!プリキュアがロボニナ~ル!?」が超絶……プリキュア側5人のロボットへの関心の違いで、彼女たちの個性付けとして機能させるだけでなく、アカオーニとウルフルンの個性付けにもなっている。しかも、この本気のロボットアニメな戦闘シーンは映像的にも凄い……本作屈指の日常(?)回を生み出しました。

 日常シナリオ自体の面白さもあるのですが、本作はキャラクターが異様に生き生きとしており、彼女たちが動く、喋るだけでも物語が紡げそうなくらいに面白く感じられます。例えば戦闘シーンでもキャラクター描写に注力しているのが感じられますね。序盤の戦闘シーンでは、本作のプリキュアは必殺技での消耗が大きく、一度撃つだけでも戦闘継続ができなくなる。れいか以外は猪突猛進な子が多いため、初手から必殺技を出して力が使えないなどのパターンでのコメディ描写にもなっています。ただ、これをただのコメディ描写のみとして消化しない。これが本当に生きてくるのが23話。必殺技で体力がなくなり戦闘継続が困難になるのをしつこく描いてきたからこそ、それを何度も放つシーンで彼女らの“格好良さ”に繋げてくる。ボロボロになりながらも何度でも立ち上がり、戦う。プリキュアというヒーロー的……身体的には強くなっているのに、それまでの戦闘シーンで、露骨に“弱い”部分を強調してくるからこそ、その精神的な“格好良さ”が際立つ。人間、誰しも生きている上で常に“一定のテンポ”なんてことはあり得ない。こういった緩急をつけてキャラクターをしっかり描けているから、彼女らが生き生きしている見えるのかなと思います。この特化点をキャラクター描写に置いているのが本作の最大の魅力だと思います。

 そういった意味ではなおは普段は強いのに露骨に“弱い”部分を描いたキャラクターの一人ですね。なおは女子からの憧れの的、姉御肌、スポーツが得意と、設定的に非常に格好良さが表立っているキャラクターです。ただ、虫、お化け、河童、透明なみゆきとあかね辺りに怯える姿……怖がりな部分が非常に多く描かれています。42話の家族を人質に取られ、家族の喪失を想起させるという、今まで家族を大切に想っていたなおにとって最大の恐怖をなおに叩きつけてきます。その最大の恐怖に立ち向かう格好良さ、さらにその後の、恐怖で泣いてしまうシーンは、井上麻里奈さんの演技も相まって印象的なものになりました。

「私の中にほんの少しだけある強い心がミラクルピースなの」(―――スマイルプリキュア!41話 やよいより)

 なおとは対照的なのがやよい。やよいは戦闘シーン、日常含めて、基本的には臆病で、引っ込み思案で、泣き虫。しかも、戦闘に関しては敵のジョーカーから「アカオーニさん、いくらドジなあなたでも一番泣き虫の、キュアピースくらいなら、倒せるでしょう?」と言われるし、自身の必殺技で驚いてしまうし、涙目になってしまうような……普段から“弱さ”が強調されてきました。やよいの個人回は自己を見つめ直す話が中心となり、自己を見つめ直し夢に向かう。本人はほんの少しの強い心と言っていますが、その“ほんの少し”を引き出す勇気がどれほどのものか。普段からの“弱さ”から、やよいが勇気を出す姿が“格好良さ”に繋がっていますね。

 れいかはこの“弱さ”が一番印象深くなったキャラクターだと思います。43話のれいかの留学回以外は、本人自体はほとんど一本調子。公式で5人の中で最も理性的と評されたれいかは理性を保ったままぶっ飛んだ方向へ向かうというか、周囲は変化しているのに一本調子であるがゆえに、そのギャップがコメディ要素にも貢献しています。例えば26話のお祭り回。れいかのお祭りのプロっぷり……普段の律儀な性格そのままなのですが、お祭りの雰囲気でこの律儀で丁寧な感じで行くものだから、本当に屋台を回っている“だけ”、それなのに面白い。

「れいかはさ、昔から皆のためにって、いつも誰かを優先して頑張ってきたでしょ」(―――スマイルプリキュア!43話 なおより)

 そんなれいかがほんの一瞬、自分をさらけ出す43話が印象的ですね。なおが言うようにれいかは「他者を優先」してきた……16話、36話で描かれてきましたが、れいかは自身の進路を他者依存で決めて来た。そして43話では友人か進路(留学……友人との別れ)かを天秤に掛けることになる。今まで一本調子だったからこそ、彼女が友達と居たいと本音……“弱さ”をさらけ出す……れいかが初めて我を通して道を決める。このワンシーンでここまで描いてきた全てを回収してくる。ここに至るまで丁寧に理性的な彼女のキャラクター設定を外さずに、しっかり描いてきました。自己を見つめ直すという点ではやよいとれいかは同じ。それを進路に当てはめるのか、夢に当てはめるのかの違いだけ。

「てめえが作ったのかよ。どうりでやたら下手くそだと思ったぜ。こんなもん、貰って喜ぶ奴がいるのかよ」(―――ウルフルン)

「やっぱり、そうかな。全然上手にできてないもんね、それ。そんなんじゃお母さん、喜んでくれないよね」(―――みゆき)

「ハッピー、それはちゃうで。・・・・・・それ返してんか。はよ返さんかい!」(―――あかね)

(―――スマイルプリキュア!15話より)

 あかねはあんまり弱さは強調されませんでしたね。ただ緩急付けて描かれなかったかというと、そうじゃない。あかねは友達を想って、いの一番に行動するキャラクターとして描かれました。例えば15話でみゆきの母の日のプレゼントを盗られた回。あかねは普段はお調子物……ノリがよく、人を笑わせるのが好き……ただ、友達が馬鹿にされたりすると、一転してしっかりと友達のために怒る。それも太陽をモチーフにしているのに怒るときは静かに真剣に。普段のお調子者なところと大事な局面ではしっかりと締めるところは締める。それこそがあかねの魅力だと思います。さらに個人回が友達をテーマにしているだけあって、あかねとみゆきの関係が印象的ですね。

 「そんなんじゃハッピーが逃げるで、らしくないやん。いつもは超が付くくらい前向きやのに」(―――スマイルプリキュア!劇場版 あかねより)
「本当にそれでいいの?なんていうかそれは多分、あかねちゃんらしくないよ」(―――スマイルプリキュア!36話 みゆきより)

 劇場版ではニコに拒絶され、落ち込んだみゆきを“最初に”みゆきの“らしさ”を語って励ますのはあかね。36話ではあかねが落ち込んだ時に、みゆきが“最初に”気づいて、あかねの“らしさ”を語って励ますのがみゆき。お互いを想う、励まし合う、それを依存と言う形ではなく、しっかり友情として描かれています。また、あかねはスマイルメンバーで唯一恋愛を絡ませた回があります。“他人を想い”、さらに“最初に行動を起こす”ことができる。座して始まる恋愛は無く、よってスマイルメンバーの中で、個人回が恋愛路線に行くのに最も適しているのがあかねとなるのはよくわかります(まぁ、やよいが焚きつけただけで、恋愛かどうかはついぞはっきりとは言いませんでしたが)。

 「このくらいのことで泣かないもん、ハッピーが逃げちゃう。スマイルスマイル」(―――スマイルプリキュア!2話 みゆきより)

 緩急という意味ではスマイルメンバーで一番特殊に見えたのがみゆき。そもそもみゆきって精神的な“弱さ”を見せないんですよね。戦闘的な部分は置いておいて、ですが。序盤で一番印象的なのは2話。あかんべーに捕まって、ピンチの局面でも戦いでは目尻に涙をためることはあっても泣かずに耐える。これを見て私は「強い」と思いました。キュアサニー変身前のタイミングなので、ここではキュアハッピー、ただ一人。まだ変身も2度目で戦いには明らかに慣れていないタイミング。そんな状況で敵に拘束されている状態でみゆきは「スマイルスマイル」と言い切れる。これを「強い」と表現せずに何と表現できましょうか。その後も、みゆきが本当に泣くときは決まって友人関係の時のみ。さらに言えば、みゆきは劇場版でも、本編でも彼女だけは個人回を“回想”で済まされている。彼女の精神的な個人の問題点はとうに過ぎ去ったものとして書かれているのです。そんなみゆきだから、スマイルチームで最大の信頼を得ており、シナリオ的にも敵、友人含めて、包み込めるような描かれ方になっているんだろうなと思います。

 「だから、皆ちゃんと自分で考えよう。自分にとって何が一番大切なのか。」(―――スマイルプリキュア!22話 みゆきより)

 シナリオは、あれだけ“友情”を強調しながらも、彼女たち個人々々で考えることをしっかり意識させてきました。しかも、22-23話と終盤では似た展開をわざと描いている。22話では結論をハッキリと言葉には出来なかったのに対して、46話のバッドエンドプリキュア戦では、結論をしっかりと言葉にし、乗り越えていく、その対比が効いていますね。22話「一番大切なものってなぁに?」と聞いて、40-44話で各人の一番大切なものを見つけた。お互い、依存関係にはならず、個々人がしっかりと考えて、対等に在る。そんな在り方を友人関係の理想として描いています。

 「みんなに会いたいってお星さまにたくさんお願いしたクル!そしたらまたこっちの世界に来れるようになったクル!」(―――スマイルプリキュア!48話 キャンディより)

 ラストのキャンディとの別離と再会は、正直、かなりご都合主義的な展開になっています。キャンディは人間界に戻って来られた理由なんて言葉で軽く済ませるし、別に再会に関して努力とかはない、そこに代償もない、別れの後からのキャンディの描写もなし。でも、この物語はこれで良いんじゃないかなと思います。この作品はこれまでの日常回で、“ご都合主義”を“日常的に見せかける”、それを“コメディ調”で。そんな雰囲気作りをしてきました。だからこそ、さらっと再会するこのハッピーエンドはこの作品の“らしさ”が良く出ていますし、“予定調和の良さ”を奏でる結果となりました。コンセプトの「いつもスマイルでいれば、ハッピーな未来が待っている!」を体現しているこのラストは好きです。

 根幹となるシナリオは最低限にしつつ、ほぼ日常回だけでこれだけの話数をこのテンションで駆け抜ける。その力強さ。冗談抜きで彼女らに本当に元気を貰えた作品でした。

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