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楓 作「妻とヒサコと膝枕」


脚本家 今井雅子先生の「膝枕」という作品を
clubhouseでリレー朗読!!

※作品は、今井雅子先生のnoteに沢山上がっています!
ご興味ある方はぜひご覧下さい。
今井雅子先生のTwitterのlit link から飛べます。
 ⬇️

膝枕リレーに参加させて頂き、その後
皆さんがいろんな外伝を執筆されました。

楽しそうなので、私も書いてみようか…と
全くの素人ですが💦

「単身赴任夫と膝枕」という作品を
公開させていただきました。

最近、百膝一首というclubhouseのroomがあり

数ある外伝の中でも1番悪い男に任命された
単身赴任夫を読んだ句

「単身赴任夫が島流しになる…」という句に

その内容からヒントを得て
登場人物たちの、その後を書いてみました。

お忙しい先生に、添削アドバイスをいただきながら
(申し訳ございません🙏)
頑張って仕上げました。
暖かい目で読んでみてくださいね。


今井雅子作 「膝枕」外伝 
「単身赴任夫の膝枕」のその後


「妻とヒサコと膝枕」



【1】   それからの・・・妻





 あれから数か月
 ホストクラブには1度行ったきり
 心の隙間は埋まらなかった。


 お盆休みは久しぶりに帰ってくるのか?
 夫に聞いてみた。
 会社から、他県への移動は自粛するように
 言われているから
 今回も帰れない…と言われた。

 体のいい言い訳?

 本当かも知れないけれど
 もう、何を聞いても疑ってしまう。


 気持ちが楽になる方法はないの?
 何かにすがるように Twitterを眺めていた。

 占いの広告に目がいった。


 「病院に行く前に、自分の心に響く
  カウンセラーを探してくださいね」

 疲れた心に響いた。

 占いに行ってからでも遅くない?

 何の解決にはならないかも知れない…
 でも、知らない誰かに話を聞いてほしい。
 迷いながらも予約を入れ、緊張しながら
 訪ねてみた。


 入り口には


 【人生について
 人それぞれの悩みがあります。
 辛くて今、八方塞がりだと思えて来ます。
 必ず前向きに一歩踏み出すことが出来るように
 お手伝いさせていただきます】

 と書いてあった。

 涙で潤んで、文字が見えなくなった。


 担当の占い師さんが、親身になって
 話を聞いてくれた。
 私がいけなかったの?と自分を責めていたけど
 寄り添ってもらい、気持ちが少し落ち着いた。


 自分なりに
 一つ一つ整理しよう。


 まず、旦那の状況はどうなってるのか
 探ってみることにした。


 あの日以来の、旦那のアパート…

 近づいてきた。
 心臓の鼓動が早くなるのが
 自分でもよくわかる。
 またあの女がいたらどうしよう。
 悪い想像が頭の中をぐるぐるしている。


 視界に男性の姿が入ってきた。
 ふと見ると 
 配達員の恰好をした体格の良い男性が
 段ボール箱に話しかけている?


 あの箱…もしかして


 近くに行ってみるとやっぱり
 旦那の部屋の押し入れに入っていた
 あの「箱入り娘膝枕」の段ボール箱!

 会話が聞こえてきた。

 「おまえあの時の膝枕か…どうした?
  捨てられたのか。
  え、帰りたいのか。わかったわかった
  連れてってやればいいんだろ」


 捨てられた…
 連れてってやる?


 「待って、やめて下さい!!」

 思わず話しかけてしまった。


 配達員の男は、驚いた顔でこちらを見ている。

 もう、恥を捨ててお願いしよう。


 「あの、ごめんなさい。
      私その、その箱の届け先の か、家族です」

 「困るんです。また運ばれても。
      ほんとに困るんです」

 「突然こんなお願い失礼だとわかってます…
      ごめんなさい。でも…そのまま捨てておくか
      持ってってもらえませんか?」


 緊張のあまり
 早口でまくし立てた。


 「え!ご家族? えっと、奥さんってこと
  ですかね? あ…うーん。いや、あ、
  うーん」

 明らかに困ってる。わかってる…でも。
 もう膝枕を捨てたなら、また元に戻られるのは      
 絶対…嫌だ。

 「ごめんなさい、ホントに。 お願いします!!」


 男の返事も聞かずに、走って駅に向かった。


 建物の陰から振り返って見ていると
 しばらくしてから、男は箱を持ち上げて
 アパートとは別の方向へ去っていった。


 配達員さん、優しそうな顔してたし
 断れなさそうな感じの人だったから
 きっと連れて帰ってくれるに違いない。


 これでひとつ解決した気がした。



 問題は、あの「ヒサコ」という女。


 旦那の会社には、実はママ友が働いている。
 こんな恥ずかしい話はしたくはないが
 調べてもらうことにした。


 数日後、アケミから電話が来た。


 旦那の部署の名簿みたら、ヒサコという
 名前を見つけ早速見に行ったとのこと。

 とびきり綺麗ってわけじゃないけど
 雰囲気がある、30代後半らしい。
 社内の評判はまずまず。

 ただ、最近2人を見かけた人が
 付き合っているんじゃないのか?と
 みんなに言いふらし
 もっぱらの噂になっているらしい。

 アケミが言うには
  上の人に知られるのは時間の問題。

 私は、旦那の出方を待つことにした。


 そっか…
 まだ、続いてたんだ。


 20年以上も家族でいると
 愛という気持ちがあるのかないのか?
   もうわからない。
 ただ、裏切られたむなしさだけが
 沸き上がってきて
 涙が勝手に流れていた。 


 数日後、旦那から電話が来た。

 沖縄に移動になったらしい。
 島流し…か。

 私がアケミに聞いてるとは知らず
 ペラペラとひとりで話している。

 --あと5年したら定年だ。
 君は都会が好きだから沖縄暑いし
 興味ないだろ?--

 え?何その勝手に決めつけた言い方。

 そして、10日後に引っ越さなきゃ
 いけないらしい。

 手伝いに行くわよ…と言うと
 コロナだし、引越しパックでやるから
 来なくて良いと言う。
 そんなに会いたくないんだ。

 --住むとこ決まったら連絡する。
  世の中が落ち着いたら遊びに
  くれば良い。用件は以上--

 あ… ねえ!!
   ちょっと、もしもし!
 もう切れてる…いつもそう。
 こっちのこと全然聞いてない。

 私たちは、家族なのだろうか?
 家族ってなんなんだろう…


 私はその夜、アケミに連絡した。

 ヒサコは会社に居づらくなったようで退職。


 きっと、申し訳ないとか、色々理由つけて
 ヒサコを連れて行くのよね。
 私に、沖縄に来ればとも言わなかったし。

 こんな人と定年後、2人で過ごせるの??



 ベランダに出た。
 いつのまにか風が冷たい。

 もう、あの人は戻ってこない?

 どうしよう…どうすれば良い?

 とにかく落ち着こう…


 息を深く吸ってみた。
 冷たい空気が体に入ってくる。

 深呼吸を何度も繰り返す。

 空を見上げると、月が綺麗だった。


 あなた彼女がいるんでしょ?
 これからどうするつもりなの?とか聞きたくない。
 聞いたって良いことない。きっと認めないだろうし。
 いや、認められても…
 もうやだ。正直、疲れたよ。こういうこと考えるの…
 モヤモヤするけど言えない自分。
 これ以上傷つきたくない。

 無駄な時間を過ごすのは辞めて
 片づけようか……

 もう一度、大きく深呼吸してみた。


 私は別れる決意をした。



【2】   それからの・・・ヒサコ




 田中さんとの関係が社内の噂になり
 彼は沖縄へ飛ばされた。


 私は刺さるような視線に耐え切れず
 有給を使って会社を辞めた。


 もうすぐ40歳。
 これからどうしようなんて聞けない。

 彼が沖縄へ行く日まで
 雨の降り続く中、不安な毎日を過ごしていた。


 今日は良い天気。
 久しぶりに日差しが眩しい…
 窓を開けて空気の入れ替えをした。
 視線の先に彼の姿が見えた。
 嬉しくて、思わず手を振った。

 彼が部屋に入ると、私の頭を優しくポンポンと
 して、沖縄に一緒に行こうか…と言って
 くれた。嬉しかった。
 嬉しくて嬉しくていつのまにか
 泣いていた。

 荷造りが忙しいから…と
 彼は帰って行った。

 今日はひとりでも寂しくない。
 私も荷造りしなきゃ。


 片付けをしながら2人の暮らしを想像した。
 そして、期待をしてしまった。
 そのうち一緒になれるのかな?
 そんな想像が頭の中で膨らんで
 やっと幸せになれるのかも…と思った。


 彼に少し遅れて私も沖縄入りした。
 沖縄は、暖かくて心地よかった。
 私たちの新しい生活を
 祝福してくれているように感じた。


 しばらくすると、奥さんから離婚届が
 送られてきた。


 こんなに早く、私への道が開かれているの??  
 嬉しい反面、ちょっと怖くなった。

 これが、幸せ過ぎて怖いということか。

 あ〜、人生絶好調!!


 そのあとのことなんて
 この時は
 何も考えてなかった…


 でも…
 思い描いていたようにはいかなかった。

 彼はいつまで経っても何も言わない。
 離婚はしたのだが
 これからどうするかは語らない。

 とにかく待つしかないか〜。
 だって今までが順調すぎたもん
 仕方ないよね。



 沖縄に来て、一年が過ぎ
 事務のバイトをしながら
 彼との生活はそれなりに幸せだった。


 ところが、彼が体調を崩し始めた。


 どうしたの?と聞いたら
 慣れない場所での、慣れない仕事。
 ちょっと疲れてるんだ・・・という


 段々、彼と過ごす時間が苦痛になってきた。


 そして、数か月が過ぎ…
 彼は家に引きこもるようになった。
 無気力…食欲もない。
 一気に老け込んでいき、ただのしょぼくれた
 60近いおじさんになった。


 もう、限界…


 いつ言い出そう…と思っていたら
 ふと、彼から切り出された。


 沖縄まで連れてきちゃったのに。
 心と体が思うようにいかない。
 君の人生は、まだ長いから
 出ていきたかったらいいんだよと言われた。


 20ほど年の離れた彼。
 はたから見れば親子に見えるのかもしれない。


 「何も力になれなくて…ごめんなさい」


 言葉少なに会話して、私は荷物をまとめた。


 明日にしたら?と言われたけど
 すぐ部屋を出た。

 夜になっても、まだ明るい。
 人はまばらだ。

 キャリーバッグの音が規則的に聞こえる。

 ゴロゴロ ゴロゴロ…


 東京での彼との時間。

 沖縄に来てからの彼との生活。

 無駄な時間だったのかも知れない…


 「箱入り娘膝枕」に嫉妬して
    離れないとすがり
 私だけを見てほしくて…
 膝枕も捨てて来てもらった。
 歯ブラシを置いて、彼の部屋に通い始めた。


 奥さんに負けたくないと
 意地を張ってここまできてしまった。


 いろんな人を傷つけて、何やってるんだろう。


 ヒサコは途方にくれた…。


【3】   それからの・・・箱入り娘膝枕




 一人暮らしの彼のところに

 しばらくしたら、私は届けられた。



 ゴミ置き場に捨てられた私。


 彼の部屋に帰りたいとお願いしたのに
 奥さんに頼まれた、配達員さんは
 その低音の響く声で
 優しく私をなだめてくれた。


 仕方ないよ、我慢しよう。
 ここに捨てたりしないから
 一緒に帰ろう…


 そう言われ
 おとなしくするしかなく
 新しいご主人様のところで
 私は私の仕事をしよう…と思った。


 私は、所詮 プログラムの組み込まれた膝枕。
 話すことも何も出来ない。


 配達員さんに
 膝枕どうぞ…と、もぞもぞしながら伝えたが
 真面目な配達員さんは
 俺はいい!いい!大丈夫だから…
 と言って、天気の話をしてくるだけ。


 いま流行りの音声配信を始めたようで
 いつも練習している。


 私は自分の仕事も出来ない。

 ただ、この部屋に置かれているだけの
 毎日が辛い。


 彼の元に帰りたいと
 必死に懇願してみた。


 季節だけが何度も通り過ぎる…

 そのたびに、配達員さんがスカートを
 買いに行き、見ないように目をつぶって
 着替えさせてくれた。


 配達員さんは、ひたすら真面目だった。


 いつまで経っても馴染めないこの生活。

 お願いし続ける私。
 根負けした配達員さんは
 調べておいた転居先に
 送り主は空欄のまま
 やっと私を送ってくれた。


 奥さんとの約束を破るのは
 忍びないけど…
 元気で暮らすんだよと
 壊れ物注意のラベルを貼って
 大切に運んでくれた。


 やっと…やっと彼の元へたどり着いた。
 ここまで来るのに、どれだけの時間が
 経ったのかな…


 ひとり身になっていた彼は 
 早期退職制度を使って
 仕事を辞めた。


 小さな島へ、私を連れて移り住んだ。



 僕の周りには、誰もいなくなった。

 君が居ればもう何にもいらない。

 これからは、ずっと一緒だよ…


 取り扱い説明書の注意書きのように

 一生大切にします。


 こう、つぶやいた。



 すべてを無くした彼は

 膝枕の私に、愛を誓ってくれた。





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