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彼女のようになりたかった

わたしにはなりたいと強く願った憧れの人がいてね。
その人は昔一緒にイベントを企画運営した人でね、思いつきを形にする力が本当に強い人だった。

その人の周りには、まるで電灯に引き寄せられた蛾のようにその人に魅了された人たちがたくさん集まってきてて、彼女は本当に人気者だった。
わたしはその蛾のうちの一匹に過ぎなかったけれど、その様を一番近くで眺めていられた事が密かに誇らしかった。

彼女はよくわたしにこう言い放った。
「わたしは満足」と。
どんなトラブルが起きようとも動じず、あっけらかんと自分の欲しいものだけを選んで運命を動かし、人心を掴んでいった。

イベントは言うまでもなく大成功。
ほんとめちゃくちゃな運営だったけど、彼女の満足そうなその顔を一番側で見られた事がわたしにとっては一番の成功でもあった。

わたしは彼女のようになりたかったのかもしれない。

うじうじと失敗を恐れて動けなくて下手くそな事を言い訳にしながらうずくまって動けずにいたわたしと正反対の彼女。

イベントが終わった今となっては、わたしは彼女には近づけない。
眩しすぎて。
彼女は蝶のようにひらひらと、また新しい蜜を求めて、飛び立っていった。

だからわたしの目標は、また彼女の隣に立てるような女性になる事。
「わたしは満足。」
今わたしは彼女の口癖を真似して、呟く。
今度はわたしが自分の満足の為に走り抜けていきたい。
いつかわたしが彼女を振り回せるくらいに。



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