『竜とそばかすの姫』と「エモさ」について

先日、映画『竜とそばかすの姫』を観てきた。事前にネットで口コミを調べてみると、見事に賛否、好き嫌いが分かれる形となっており、私自身、「一体どんな映画なんだ」と逆にワクワクしながら友人と共に映画館へ足を運んだ。

見終わった時、映画館の中がなんとも微妙な空気になったことがまず印象的だった。前に『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』を観終わったときは、映画館内で泣く人が続出していたのとは対照的であった。友人に感想を聞いてみると、「悪い映画では絶対になかった。でも、めっちゃよかった!とは言えない」とのことだった。彼は、『鬼滅の刃』の劇場版は感動したようなので、それに比べるとエライ違いである。

しかし私は、この映画は非常に興味深いと思ったし、賛否両論あった割には、十分良い映画だと思った。では、なぜ友人や他の観客の空気は「微妙」だったのだろうか。私は、「歌や絵はエモかったのに、ストーリーがいまいちエモくなかったため、観終わった後のスッキリしなかったから」ではないかと思った。

『竜とそばかすの姫』は、ヒロイン役の中村佳穂さんが歌う歌が劇中で多く挿入されている。その歌のメドレーは、公式Youtubeでも聞ける。コメント欄を見る限り、この歌への感想としては、「泣ける」「感動」「綺麗」といったものが目立つ。一言で言えば、「エモい」のだろう。実際、私もこの歌を映画館で聞いたときには、鳥肌が立ったのを覚えている。映像も美しく、そのことに言及しているコメントも多い。この歌に関しては、多くの人が称賛している。

一方、『竜とそばかすの姫』は、社会問題やネット世界に対するメッセージ性の強い作品でもあった(と、少なくとも私は思っている)。それ故、見た人にいろいろ考えさせる狙いもあった作品と言えるだろう。「鬼との戦いに勝った、負けた」「仲間との別れ」「熱い友情」などのわかりやすさはない。つまり、ストーリーは割と生々しいというか、「エモくはない」のである。

まとめると、歌と作画は「エモい」が、ストーリーは「エモくはなかった」ということになる。

この2つが映画の中で混ざっていたため、消化不良を起こし、なんとなくスッキリしなかった観客が多かったのではないだろうか。「歌のパートでは感動したし良いと思ったけど、全体的には何かが引っかかる」という風に。そう考えると、私の友人の、「悪い映画ではなかったけれど、めっちゃよかった!とも言えない」という趣旨の発言や、観客の雰囲気が微妙だったことにも大体は説明がつくだろう。

最近は、メッセージ性やら考えさせられるテーマやらを盛り込んだ映画より、エンタメに大きく舵を切っている映画のほうが、全体的にウケが良い気がする(最近は、と言うか、前からそうなのかも知れないが)。要するに、映画の評価基準が、「自分にとって何か考えさせられる」ことではなく「泣けた、エモかった、感動した、単純に楽しめたかどうか」であるということなのかも知れない。

ここまで偉そうに書いてしまったが、私は別に、『竜とそばかすの姫』の出来栄えに茶々を入れたいわけではないし、最近の観客の映画に対する評価基準に愚痴を言いたいわけでもない。ただ、「そういうトレンドなのかも知れないな」くらいに思っただけであることをここで断っておきたい。

なにはともあれ、『竜とそばかすの姫』自体は、良い映画だったと思う。興味深く鑑賞できた映画であった。

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