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抹消(闕如を駆使して希薄にも過剰に)







『欄干』の前身で、今からちょうど40年前、24歳の頃の原稿。ジャック・デリダの『エクリチュールと差異(下)』(法政大学出版局、1983年)所収の「フロイトとエクリチュールの舞台」に心酔し、「マジック・メモ=魔法の便箋」に書くつもりで書いている。繰り返される「ページを剝ぐ」という言葉は、「マジック・メモ=魔法の便箋」を被うセルロイドの薄葉を捲って、書字を抹消しつつ、基層である蠟板の表面にその痕跡を残すということを意味している。今回、改めてパソコンに転記していて、「鶺鴒一冊」の言葉の既出に驚く。記憶では『鶺鴒一册』は、28歳の頃の妙高高原への登山旅行を端緒としていると思っていた。

抹消(闕如を駆除して稀薄にも過剰に)

  (ページを剝ぐ)破棄される帰属の免疫、背面、剝離。 抹消(闕如を駆除して稀薄にも……)劈開する傍白――視床に、蒼黒い瘢痕が、……薄葉の字面に透けて、あるいは透写紙が縒れる。整然と屈折する声紋の波面に、製図され、塗装された文字の倒影。その靱帯の縮痙。婉曲する筆跡の憔悴。鍵盤に活字の刺繍、綻びる。抜粋する、方眼の閾に。欄外に矩象する発条。外旋状に撚りを戻して。ふたたぶ汀線の鶺鴒一冊。脊髄の腔綫、暴発する、霰弾、楔形の水曜日、午前4時!
離散する、余剰の条りを縦断する。
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《懸濁する繋留音。攪拌。内翻を継ぐ無音の記述を裏返す、薄葉。不在の牽制と不在の疎外。離縁に纏わる記憶の暈滃。新しい無が開き閉じる。》互違の縮約を控除する。抹消に拮抗する欠性の免疫。(ページを剝ぐ)

短絡する喪失の摂動。包絡を省く罫線の徴候。植字の猶予を放棄する。亢進する尖筆の切尖に傾聴する、痕跡の点滴。間断に機転する傍白。――内翻する、内翻する、余計の箇条に偏向する僕達は、――

転載される点字の累乗。運算された人工授精。覆被と除覆が摺れ違う、反復のうちに、言質もなく、違約を無効に、記述に抹消を謄写する。肉薄した痕跡が再び、間歇する、内翻を継いで、(……)

慣性に衝動する放棄の艤装。収差する方眼の羅針に、破綻する索引を繰り返し、出航! 衝角に霰弾が爆ぜて。存在の粘土に吃水する僕達の楷書航跡を、傾瀉する、留保の帆を翻し。
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揚棄。
分封の模擬を開平する。綴字水準に膠着する疑句は、《鱗形の語彙に傍接する、stanceの懸隔に、懸垂する傍白。――渋滞する存在の摩擦に、削がれる紡錘潮音。自閉を継ぐ方環の乖離。直前に左傾した形跡の点滅。》
霧函に漏刻。
登録された擦傷の履歴を、濾過する矩形の靄の、折衝の擬態に発疹する。躊躇。
落丁する。
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擬声の声紋を添削する、草稿の抜粋を綴じる。
《(……)こうして偏在する平衡の弛緩を開封し、遠隔の空転に差動する、驟雨の顚倒(ただし備考として)。外へ、展開する演算の勾配に、発覚する脱垂と紆余。》《抑揚もなく、褶曲する筆致の背斜に、脱字の錯列。照準された誤謬の落差に、卒倒する、精算されない僕達の投機。》(ページを掻く、ページを剝ぐ)垢鱗の、歯擦の仕種を梳く、昏睡の趨勢。変受の縁に心を留める、筆蕊の翳。消す、消える。消し残す。——「消すと消えるの?」「消して残すの?」——
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再び
   再びの剪断に、懸垂する傍白。冒頭の召喚。再び
                                  再び、絶縁する距離の温度に、
散開する格子点。校閲もなく、排除もなく、回避もなく、棄却もなく、再び
                                            再びの剪断に、遅延する抑止空間を履行する。再び
                         再び、露出過剰の剪断撮影。再び
                                              再びの剪断に、劈開する遥かな距離のなさ。冒頭を召喚する冒頭の毀損。迂闊にも。再び
                                                 再び、
解版
   垂体
      再び
         再びの剪断に、懸垂する傍白。
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《……したがって、この交叉構造を躱避して、傍観される展翅現象はないのである。》断口に、速達の開封。《木化する翅鞘の干渉縞。濾波を散らす版画の視差。むしろ、隔離する演技の密度に、転覆を繰り越す、拡散と緊張。》圧条の縦生に、失効する深刻を捲る。

噴霧。あるいは暗算の方解。(ページを剝ぐ)《半開する。貫性の貧血。躊躇。蝶番に、鶺形の躊躇。方旋する。》断口に、あるいは発覚する速達の補刻。 封緘。

剝製の譬喩の中傷。《しかし、矩象言語の痕跡は、(残渣のように)常に中傷として残留する。》転送された速達の閃き。
(※以下4行、重ね書きのためnoteでは再現できない)。
内翻する零余子の黙白。闢いて。

内翻する、便箋の交配。封筒へ裏返す。消印の趨勢に遅れて。抹消(内縁の点呼に引攣れて……)。封緘の戯曲に、投函の傍白。
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欄           干
気象する未婚の語族――洊雷。
未遂の違和に追伸する。《返信の月経は、こやみない吝嗇。乗法の縫差に、欄干の倣態。浚渫された団欒の、漂砂、書損。異方に明日を羅列します。僕達の遠心を算段して。》追伸、追伸、追伸、
曖昧な逆接を迂回して、返送される追伸書翰。
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《辺鄙に如露を置閏する、暦象の稀釈。如露の内障を打算せよ。》(ページを剝ぐ)霧函の中の霧函の中の霧函に、匿名の井戸の時化。等辺の塩基に、段落する雹の階乗。《結紮された如露の内障を、打算せよ。脱臼した如露の勾配を、微分せよ。》闕如の間際に併発する、如露の霹靂。海震の午後。夏至の時効。
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ジャック・デリダ『エクリチュールと差異』
(法政大学出版局、1983年)

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