ケラケラ

 ケラケラと書くと都市伝説に登場する妖怪みたい。クネクネとかテケテケとかそんな類。……そして、この話を聞いた人の元にも、二週間以内の夜、ケラケラが、一人でいるときに必ずやってくるそうです。ごめんな。

 もちろん、ケラケラとは、人(必ずしも人じゃないかもしれないが……)が笑うときの様子を指していて、明鏡国語辞典では「かん高い声で笑うさま」と説明されている。とはいえ、なんとなく妖怪的な感じが拭えないのは、笑うときの音と「ケラケラ」という音が結びつきがたいからか。
 ケタケタ、という笑い方もある。「軽薄に笑うさま」(広辞苑)、「かん高い声で無神経に笑うさま」(明鏡)、「突拍子もなく甲高い声で笑う様子」(新明解)と説明されて、わかるような、わからないようなという感じだが、こっちは完全に妖怪。しゃれこうべが突然躍り出て、驚く旅人を嘲笑う、みたいな趣かな。そう考えれば、明鏡と新明解の両方をひもといてなんとなく理解できたような気になる。上の歯と下の歯ががちがちぶつかり合う音となんとなく似ている点では、解剖学(?)的にも妥当な気がするが、こっちの方が妖怪っぽいのは不思議。解剖学(?)的過ぎて骸骨を想起させるから?
 ちなみに、「カラカラ」もあるけど、大抵の辞書では「高らかに笑う」様子を言っている。歯の噛み合い方や骨の中での響き方の関係を思わざるを得ない。妖怪の感じはしませんが。(関係ないけど、昔、と言ってもそんなにだが、駐車場かどこかで人骨が見つかった事件があって、それを報じるニュースで発見者の高齢男性が「しゃれこうべ」と言っていたのが妙に印象的だった。「人の骨」でも「骸骨」でもなく「しゃれこうべ」。確かに、人の頭蓋骨のことをずばり言っている点では理に適った表現だ(「髑髏」は少し違う)。でも、生きた言葉として「しゃれこうべ」を聞くのは後にも先にもこのときだけじゃないのか)。

 それで何で「ケラケラ」かだけど、お酒を辞めてから(と言っても、一杯二杯は飲むこともあったけど)、久しぶりにビールをたくさん飲んで楽しくて、べつに何か特別楽しいことがわけでもないのに、ケラケラ笑っていたからです。薬を飲んでから気分が安定して、ハイになることもほとんどなかったけど、お酒を飲んだをとき独特の高揚感を思い出してしまったわけです。それでも、まあ、羽目をはずすほどハイテンションにはならなかったので、良いんですけど。顔の紅潮を感じながら、ケラケラ笑い、細かいことがだんだん気にならなくなってきて、唐突に話し始めても、話から抜けても特に問題にならない(いや、少し問題と思われていたかも)まま、おしっこに行くために失礼して、立ち上がるとかなりふらつき、自分が思った以上に飲んでいることを、そのときに気がついて、普段ならダイソーの店員さんにも商品の場所を尋ね兼ねて、小一時間うろつくのに、そのときは気軽にトイレの場所を聞いて、わかりにくい表記にちょっと戸惑いながら、便器に腰をおろし、切れ悪く放尿している時間が楽しいのだ。手を洗うために鏡をみて、自分の顔の赤さをみる頃には、少し冷静になっているし、多少は満足している。お酒、依存しない範囲ならたまに飲んでもいいかもしれない。

 映画『アメリ』で主人公のアメリが「世界との調和」を感じるシーンがあったが、ある時期のハイなときの自分も全くその通りだった。何があっても、大丈夫。自分自身の死さえ、些末なことに感じていた。それでも、へんな言い方になるけど、まだ穏やかなハイのなり方で、目をぎらぎらさせて、箸が転がろうが、なんだろうが笑ってしまうようなときがあった。そのときは、身体がついていけなくなる。体力を使い切る幼児の遊び方に似ている。
 今日、毒キノコを試食した人の体験記を読んで、その中に、すごくハイになる種類があることを知って、あ、と思った。少し羨ましかった。ぜったいに食べないけど。服薬してから、かなり落ち着いた日々を送っているけど「普通」はこうなの? 落ち着いたというより、鈍くなった感じがする。


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