チーズかあ

 チーズのトッピングが一つも嬉しくない。チーズ増量、ぜんぜん嬉しくない。チーズで料理の味を上書きしている感じが気に入らない。チーズ自体は嫌いではない。風呂桶みたいな形をしたシカゴピザを食べたこともあるし、嫌いということはないと思う。ただ、ピザポテト。あのにおいには耐えられない。
 沖縄に修学旅行に行ったとき、民泊でタコライスが出された。今さら説明することもないが、タコスの中身をどんぶりにのっけた料理だ。民泊のご夫婦がシュレッドチーズの袋をみんなに回して、「好きなだけかけなさい」と言った。私としては、ご飯に乳製品をかけることが受け入れがたいことだったから渋い顔をした。チーズかあ。ちゃちゃっとシュレッドチーズ二、三枚だけかけて誤魔化そうしたが、「そんなに少ないと美味しくないぞ」とご主人は見逃さなかった。「遠慮しないで」と奥さんも言い、逃げ場を失う。
 仕方なく、たくさんかけて(あるいはご主人が代わりにいれたような気もする)、食べてみる。美味しかった。タバスコをかける。これがまたもっと美味しいんだな。やってみないとわかんないことがある、と思った数少ない例だ。このご夫婦にはタコライスを食べるたびに感謝している。
 チーズナンをはじめて食べたときの美味しさは月並みに言って、衝撃的だった。これが世のチーズ好きの経験する多幸感に、最も接近した瞬間だと思う。油と塩気を欲したときに、チーズナンに勝るものなし。夢中になって食べる。が、胃もたれが凄い。食べていて、しだいに食べきることが目的になる。「ナンのおかわりいりますか?」。いえ、ありがとうございます……それから、インドカレーのお店に行っても頼むことはなかった。またいつかね。

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