動物と話せる人

 昔の動物番組には、不思議な力を持つ女性が動物とコミュニケーションをとるというコーナーがあった。今思えば、これがオカルト番組でないのが不思議なのだが、その女性・ハイジはペットたちの声を聞き、彼らの本音を探り、なんらかの困りごとを解決していった。あまり覚えていないが、「アズキはあなたのことが大好きよ。ただ、旦那さんにはジェラシーをおぼえているみたい」てな具合に。でも、ハイジがやっていたことは、単に動物の吹き替えとかではなく、ペットを介した家族セラピーだったのではないかと思う。いわば民間療法みたいなところだろうか。動物という第三者の声を借りて、その実、ハイジは自分の目で家庭内の問題を探っていたのではないかという仮説だ。人から直接アドバイスを受けるより、動物の言葉を信じたくなるのが人情だろう。
 では、とここで唐突なのだが、仮にハイジが本当に動物と対話するカウンセラーだったとして、内面を探るカウンセリングを受けていた私は、さながら動物だった。私の気持ちはすべてうまくまとめられて言語化されていく。そこには原因や因果があり、バックグラウンドがあり……となんだか就活じみてもいる。すべてそうなんだけど、そうではないという感情が横たわる。このとき、何かに原因を求めたところで虚しいだけなのである。たとえば、ゼミの先生に近寄りがたさを感じるのも「父親とか、高校のときの教師とか、そういった人と重ねてしまい、嫌だったこと、怖かったことを思い出すからだ」と説明しても仕様がない。そうじゃないとしか言い聞かせるしかない。極度の心配性に至ってはどうしようもない。原因がわかってだからなんだと思う。
 そして一時期、ここで死んでしまったら、「言語化能力を欠いた状態で、自身の苦痛を説明できないために不可逆的な逃走をはかった」とハイジ的な人に説明されてしまうという被害妄想があり、今も生きているわけである。カウンセリングも先生が代わり、今はアクチュアルな相談をしている。

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