「警部補・古畑任三郎」鑑賞記

 無性に突然古畑任三郎がみたくなり、みたくてみたくて仕方なくなり、検索したら、FODでシーズン1の1から3話が無料で配信されていたので一気見した。たぶんみたのは中学生以来だが、当時は頭の鈍い子供だったから(今もだけど)、うまく呑み込めておらず、今見返したらこういう話だったのかと、感慨もひとしお。感想を書き留めておこうと思った。以下、ネタバレにはあまり配慮しないのでご注意を。見直せばいいのだけど、セリフはうろおぼえ





第1話「死者からの伝言」

 中森明菜が犯人の回。個人的に中森明菜が好きで、演技について書きたいような気もするけど省略。犯行が地下の金庫室に閉じ込めて、窒息死させるというもので、あまり派手じゃない。が、閉じ込められただけのはずの被害者に、なぜ殴られた形跡が残っているのかという「謎」を犯人と視聴者が共有する形になっているのが面白い。古畑任三郎は「刑事コロンボ」と同じで、先に犯行を視聴者に見せて刑事に推理させるスタイルをとるのだけど、そのスタイルの裏をかくようなやり方だ。第1話にして、結構異色の回なんだなと。好きなシーンは、古畑が被害者の手帳から「C」という字をみつけて、名前が「C」から始まる人物の目星をつけようとするところ。「加藤茶、荒井注……彼らにもあたってみますが、おそらく何も関係ないでしょう」。

第2話「動く死体」

 堺正章が犯人の回。この回の堺正章の演技めちゃくちゃ良いです。彼のべらんめえ調が小気味良く、古畑とのやりとりが爽快。劇中で彼(役名・中村右近、歌舞伎役者)がまさしく悪役だから、そう感じるのだと思う。というのも、右近はひき逃げの死亡事故を起こしているが、良心を痛めているような描写が特になく、自己の保身のため平然としている。おまけに、口止めしていた目撃者の警備員と、揉み合ったはずみで殺してしまった直後も、そのまま本番で演技をやってのけてしまう。肝が据わっているともいえるし、冷酷とも言える犯人像だ。だからこそ、古畑の罠にかかる彼の滑稽さも際立つ。感情的になって声を荒らげるところ(古畑の眼を盗んで、証拠となり得る懐中電灯を回収しようとするくだりで、電池をぶちまけ慌てたり、結局懐中電灯は古畑の私物と判明し「あの野郎!」と叫んだりするシーンは本当に良い)は、泥臭さが垣間見える。たとえば、「ドラゴンボール」でフリーザのような悪役が好きな人にはまるタイプだと思う。残酷で悪い奴なのに、へんに憎めないのだ。最後の立証は鮮やかで、確かに証拠としては弱いと思うが、そうしたツッコミは無粋なのだろう。

第3話「笑える死体」

 古手川祐子が犯人の回。正当防衛に偽装するというトリック。ストッキングを被った死体。「デザートには最高ですね」というカマかけとそれに対する辻褄合わせ。アメリカでは歯医者くらい身近らしい精神科。ストッキングを被って煙草を吸う古畑。涙ぐむ(?)古畑。机を叩く古畑。「おめでとう、アリ先生」などなど。割と断片的に覚えていた回だけあって、期待値は高かったのだけど、「動く死体」をみた直後のせいもあってか、やりとりの末のカタルシスがそこまでなかった。犯人(役名・笹山アリ)が「鋼の精神」を自称しているとはいえ、古畑と視聴者が正当防衛ではないと確信しているとはいえ、一応は家に入った強盗を殺してしまった人ということになっているのに、古畑が容赦なさすぎ。「(被害者の写真をみせて)先生がナニした……」「それでは先生のクリニックは役に立たなかったんですね」。ひやひやする。でも、普通の刑事ドラマだとそういったデリカシーの取り扱いが作品のノイズ(容疑者が気分を害して、憤然とするくだりとか)になるから、犯人との対決に集中させるうえでも、このデリカシーのなさは必要なのかもしれない。むしろ、引っかかるのは犯人のキャラクター像で、「キャリアウーマンの精神科医」が対決の快感を難儀なものにした気がする。まず、家にあったチキンをつくったのは、犯人ではなく被害者だということを確かめるために、古畑がアリに料理させるシーンはもやもやする。犯行を偽装するため自身で「チキンをつくった」と言ったとはいえ、料理が出来ないところを古畑に詰められているのをみると、「料理のできないキャリアウーマン」という性差別的な価値観に基づく否定的な人物像を思わせる。そして、気の強い人物として描かれているが、古畑と対等であったかと言えばそうでもなく、直接事件と関係ないところで彼を言い負かすだけで、事件に関する反論は苦しかったのも気になった(被害者がつくったチキンについて、「(自分でつくった)知らないんですか?独り暮らしの女の食欲はすごいんですよ」など)。やられっぱなしだけど、やられ甲斐がない。ただ、犯行時の証拠隠滅の際に、ついていた銀紙が伏線となっていたのは私は綺麗だと思う。上から落ちてきたのね。


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