「世界を救えない俺達の幸福論」第一話:逃げちゃおっか

『いつからだろう、心が限界を迎えていたのは』
 
 薄暗い模擬戦場で、妹の遺体が入った棺桶を自分で火葬しながら、十七歳の少年辰巳たつみ健太けんたは無表情で考える。
 
『大切な人達を失って、拒絶されて、どうして自分はヒーローをしているんだろう』
 
 健太は妹の遺骨が入った箱を抱えながら、バスターズ本部のベンチに座っている。
 その隣には長い黒髪が特徴の少女、水本みなもと香恋かれんが座っていた。

「先輩……」

 健太の服の袖を掴みながら、香恋が語りかける。

「もう……逃げちゃおっか」

 そう言った香恋の瞳は濁っていて、ハイライトが無かった。
 健太はそれを見て悲しみを覚える。

『あぁ……この子まで、こんな目になってしまった』

 場面変わって、過ごしやすい気候の5月中旬。
 高層ビルが建ち並ぶとある町の蕎麦屋。
 帽子やサングラスで顔を隠している健太と香恋は、蕎麦屋にあるテレビから流れてくる昼のニュースを見ていた。

『〇〇地区にて大型級のシンが出現し、少なくとも七人が死亡』
『近隣の住民からは、バスターズの対応に関する抗議の声が溢れています』

 流れるニュースに香恋が反応する。

「大型級。この近くだって」
「倒されたなら大丈夫だろ。多分」
「だといいんだけどね〜」
「はい。天ぷら蕎麦と山菜蕎麦お待ち」

 蕎麦が来たので食べ始める健太と香恋。
 その最中でもテレビのニュースが耳に入る。

『バスターズ本部の発表によりますと、先週金曜日に隊員二名が失踪。インジェクトガンが一台持ち去られているとのことです』

 健太は山菜蕎麦を食べながらサングラス越しにテレビの画面を見る。
 顔写真や名前が公表されていない事を確認して安堵するが、蕎麦屋にいた客達は、バスターズに対する不信感を口にしていた。

「隊員の失踪って……なにやってんだよ」
「インジェクトガンってアレだろ? バスターズの奴らが化物になるための機械」
「本当にあんな奴らに任せていいのか? シンも全然居なくならないしさぁ」

 好き勝手に言う客達を、健太はサングラス越しに濁った目で見る。
 同時に健太はジャケットの内側に隠しているものに手を当ててしまう。

(あぁ……またか)

 どこか諦めた様子の健太だが、今はそれ以上に香恋の事が気になった。

「香恋、大丈夫か?」
「うん……大丈夫」

 僅かに震えている香恋を見て、健太は早々にここを去ろうと考える。
 早々と蕎麦を食べ切ろうとして一気飲みする健太。しかしすぐむせてしまった。
 それを見た香恋は「先輩、何やってるの」と呆れた。

 蕎麦屋を出て町の中を当てもなく歩く健太と香恋。
 通行人は多く、喧騒も聞こえる。
 すると香恋が健太の腕に抱きついてきた。

「おい、急に抱きつくなよ」
「いいじゃん。こうした方が自然だと思うし」
「俺は不自然だと思う」
「えっ!? 私と駆け落ちしてるのに!?」

 香恋にそう言われた健太は、顔を赤くして片手で覆い隠す。

(駆け落ち……駆け落ちかぁ)

 あながち間違っていない表現に、健太は否定の言葉が出てこなかった。
 そして、そもそも何故健太と香恋が駆け落ちしているのか。
 健太は町の中を歩きながら、ここまでの経緯を思い出すのだった。

◆健太の回想◆

 十年前、地球は突如として現れた怪物『シン』によって蝕まれた。
 世界各地で人間を襲うシン。しかし既存の兵器は殆ど通用しない。
 そんな中、ある一人の戦士が現れてシンを撃破した。
 彼は出所不明のプラグインという技術を使い、更にはその力を世界中に分け与えた。
 こうして生まれたのが対シン組織『バスターズ』。
 バスターズが誕生した事で、人類は遂にシンへの対抗手段を得た。
 最初は皆感謝していたらしい。だけど時間が経つにつれて守られる事が彼らの当たり前になってしまった。
 十年経ってもシンを根絶できないバスターズへの不信感、反発。そこから生まれる拒絶と罵声。
 最初は大丈夫だったバスターズの隊員も、次第に傷ついていった。

(俺と香恋もそんな感じ)

 香恋は健太の妹であるりんと共に、前線で戦う戦士であった。
 そして健太はメディカルプラグインという力を使って、負傷した隊員を治す医療隊員であった。
 バスターズに所属した最初は良かった。しかし彼らはすぐに現実を目の当たりにする。
 香恋はバスターズを拒絶して罵声を浴びせる民衆。
 健太はどれだけ頑張っても助けられなかった患者と、その遺族。
 残酷な現実に心を裂かれてきた二人だったが、それでも必死に頑張ってきた。

(だけど……俺達はとどめを刺された)

 健太の妹、鈴が戦死した。
 香恋は泣きながら鈴を健太の元に運んで来て、健太は必死に治療を施した。
 しかし全て無駄に終わってしまった。
 妹の死を受け入れた健太は火葬場に連絡をしたが、バスターズ隊員だという理由で全て拒否されてしまった。
 やむなく健太は自分で棺桶を作り、本部の模擬戦場とファイアプラグインを借りて、自分の手で妹を焼いた。

(こうして限界を迎えた俺は、香恋と一緒にバスターズから逃げた)

◆回想終了◆

 当てもなく町を歩く二人。
 健太は今日の宿について考えていた。

「さて、今日はどこで寝るか……できればネカフェ以外が良いんだけど」
「また年齢偽ってラブホに泊まる?」

 香恋の発言に、健太は盛大に吹き出した。

「バッカ! あれ滅茶苦茶俺の心臓に悪かったんだぞ!」
「え〜、私先輩になら何されてもいいのに〜」
「頼むから攻めてこないでくれ」
「で、宿はどうするの?」
「……ラブホは、最終手段で」

 顔を赤くしてそう答える健太に、香恋は満更でもない表情を浮かべていた。
 次の瞬間であった。健太は前方不注意で一人の女性とぶつかってしまう。
 その女性は長い金髪と一眼で分かるスタイルの良さが特徴的であったが、それ以上に手に持っている大きな本が目立っていた。

「あっ、すいません」

 健太は謝ると、香恋と共にすぐにその場を去る。
 しかし金髪の女性は何やら興味深そうに、二人の背中を見ていた。

「ふーん」

 手に持っていた大きな本を開くや、女性は微かな笑みを浮かべた。

「中々……酷い物語を背負ってるじゃない」

 女性が開いている本の中身は、全て白紙であった。

「これは、面白くできるかもしれないねぇ」

 女性は二人の少年少女を思い浮かべながら、そう呟いた。

 当てもなく町を彷徨う健太と香恋。
 偶然目に入った町の掲示板には『バスターズ反対』『無能は出て行け』といった張り紙が何枚も貼られている。

「……先輩」
「この町は、早めに出よう」

 不安気に健太の服の裾を掴む香恋。
 健太は苦虫を噛み潰したような顔で、この町を出ようと提案した。

 別にこういう張り紙は珍しいものではない。
 今や何処に行っても目に入ってしまう。
 だが、当事者からすれば不安の種でしかない。
 とにかく安全安心な場所を探そう。あるかも分からない安住の地を求めて、健太と香恋は歩みを進める。

 駅の近くに出て来た。老若男女、通行人が入り乱れている。
 健太が「切符を買わなきゃな」と考えた、その時であった。

 近くのビルが凄まじい音と共に爆発した。
 周囲の人々はパニックを起こして逃げ始めている。
 そんな中、健太と香恋は比較的冷静であった。

「ねぇ先輩」
「あぁ、多分出たぞ」

 ビルから何かが飛び出し、それは停車していた電車に飛び乗る。
 しかし間髪入れず、異形の影は最も人の多い場所に降り立って来た。
 それは健太と香恋がいる場所の近くでもあった。

「ギャァァァァァ!」

 カマキリのような腕と人ならざる頭部を持つ怪物。
 二足歩行という点だけは人間と同じだが、真っ黒なそれは怪物としか形容できなかった。
 怪物の登場によって、人々のパニックは頂点に達してしまう。

 悲鳴をあげて我先と逃げる人々の中、健太と香恋は怪物を注視していた。

「シン……こんな町中で」
「兵士級か。香恋、逃げるぞ」

 健太は香恋の手を引いて逃げようとする。

「あっ、でも」
「シンが出たならすぐにバスターズの隊員が来てくれる。わざわざ俺達が戦う必要はない」
「……うん」

 どこか悔しそうな様子で香恋は頷く。
 頭では分かってはいるのだ。今ここで戦って、自分達がバスターズであるとバレる事がどれだけリスクとなるのかを。
 しかし香恋の心が後ろ髪を引っ張っていた。

 町で暴れるシンに背を向ける健太と、後ろを向いてしまう香恋。
 周辺の人々は悲鳴と共に逃げ惑っている。
 その時であった、香恋の目に一人の少女が映った。
 小学校低学年くらいの少女が、足を負傷して動けなくなっている。
 恐らくシンが破壊した建物の破片がぶつかったのだろう。

「お母さーん! どこー!」

 泣き叫ぶ少女に、シンが近づく。
 シンは人間を殺す事しか考えていないとされている。
 シンはゆっくりと少女に近づいている。

「ッ!」
「香恋!」

 香恋は健太の手を振り払って、少女の方へと走り出した。

「逃げるよ!」

 少女を抱き抱えて、香恋は逃げようとする。
 しかしシンは既に目の前に迫っていた。
 シンの腕でもるカマキリの鎌が、香恋と少女に襲いかかる。

「オラァ!」

 しかし寸前のところで、健太の飛び蹴りが命中。
 シンは横方向に倒れてしまった。

「その子連れて逃げろ!」
「先輩は!?」
「ここまできたら仕方ないだろ!」

 香恋と少女に逃げるよう指示する健太。
 それと同時に健太はジャケットの内側から近未来的なデザインの銃『インジェクトガン』と、スティック状のアイテム『プラグイン』を取り出した。

 起きあがろうとするシンを見据えながら、健太はインジェクトガンにプラグインを挿し込む。

poisonポイズン

 ガイダンス音声が流れると、健太はインジェクトガンの銃口を自身の左手首に押し当てた。

「インジェクト!」

 引き金を引き、プラグインに込められていた超常エネルギーが健太の全身に注入される。
 エネルギーは健太の全身を作り変え、服装までも変える。
 服装は淡い光を放つ紫のロングコートになり、髪色は黒から青へ、そして頭部には二本の角が生えていた。

uploadアップロード poison》

 ガイダンス音声が流れ、健太の変身が完了する。
 これがバスターズの戦闘形態。
 プラグインを用いた戦士の姿である。

「他のバスターズが来たら逃げる。香恋も用意しとけ!」
「わかった」

 そう言い残し、香恋は少女と共にその場を離れた。

 そんな彼らを電柱の上から眺める者が一人。
 先ほどの金髪の女性である。
 女性は大きな本を広げながら「さぁて、お手並み拝見」と呟いた。

 シンは腕の鎌を使った容赦のない攻撃を繰り出してくる。
 しかしそれを健太は上手く回避していく。
 攻撃の余波で道路がズタズタに切り裂かれているが、今は気にする場面ではない。

(さぁて、敵さんの切れ味はかなりのもんだな。兵士級とはいえ面倒だ)

 シンから距離を取り、健太は右手に紫色のエネルギーを溜め込む。
 そしてシンの腹部目掛けて、そのエネルギーを射出した。

「ギャァァァァァ!?」

 悲鳴を上げるシン。
 その腹部はドロドロに溶けていた。

「シンとはいえ、流石に強化王水は痛いらしいな」

 痛みから激情するシン。しかし動きは単調になった。
 健太はインジェクトガンを取り出し、シンの両足を撃ち抜く。

「ギャア!?」

 両足首が吹き飛び、転げてしまうシン。
 健太は静かにそれへと歩み寄る。
 その右手には、先程以上に濃い紫色のエネルギーが溜め込まれていた。

「消えろ」

 健太は短くそう吐き捨てて、右の拳でシンの頭部を叩き潰した。
 同時に強烈な毒がシンの身体を溶かし尽くしていく。
 ものの数秒で、シンは黒い粘液へと変わってしまった。

 これで一応状況終了。
 健太は周囲を見回し、香恋と少女の元へと駆け寄る。

「大丈夫だったか香恋」
「うん。でもこの子が」

 健太は怪我をしている少女の足を確認すると「任せろ」と言った。
 インジェクトガンからプラグインを一度抜き取る健太。
 そのまま裏返して再びインジェクトガンに挿し込む。

medicalメディカル

「インジェクト」

 銃口を左手首に押し当てて、健太は引き金を引く。
 すると先程まで紫色だったコートが、医師を思わせる純白のコートへと変化した。

《upload medical》

 健太は左手から淡い光を放つ緑色のエネルギー玉を出し、少女の傷に当てる。

「もう大丈夫だ。俺が治すから」

 先程まで泣いていた少女は泣き止み、その傷も徐々に消え去っていく。
 そして少女を抱きしめていた香恋は、優しく少女の頭を撫でた。

「よく頑張ったね。もう大丈夫だよ。先輩はね、すごいお医者さんなんだから」
「医療隊員であって医者ではないんだけどな……よし」

 健太の手から光が消える。
 そして少女の足にあった傷は完全に消えていた。
 丁度それと同時に、少女の母親らしき女性が来た。

加奈かなー!」

 母親が少女の名前を呼びながらこちらに来る。
 しかし健太の姿を視認した瞬間、その足が止まった。

「……さっ、お母さんのところに行きな」

 健太は変身を解除し少女を母親の元に帰そうとすると、彼の頭にコンクリートの破片が投げつけられた。

「娘から離れろ! この化物!」

 頭から血を流す健太。
 しかし抵抗はしない。その顔はただただ諦めが浮かんでいる。

「……ほら、お母さんのところへ」

 健太は微かに怯えている少女に、母親の元へ行くように言う。
 香恋が離すと、少女は真っ直ぐ母親の元へと駆けていった。

 敵意は母親からだけではない。
 シンがいなくなった事を確認しに来た人々からも、容赦なくぶつけられる。

「シンを倒したならさっさと消えろ!」
「お前らが遅れたせいで町がメチャクチャじゃないか!」
「化け物が人間面するんじゃねーよ!」

 石も投げられる。
 しかし健太は抵抗せず、ただその目を濁らせるだけ。

「先輩……行こ」

 香恋に手を引かれて、健太は無言で頷く。
 そして人々から逃げるように、全ての声から逃げるようにその場を去った。

 そんな中ただ一人、健太達が助けた少女だけは違った。
 母親に抱きしめられながら、周りの大人達の怒号で掻き消されそうになりながらも、小さな声で言った。

「……ありがとう」

 しかし健太と香恋に、その言葉が届く事は無かった。

 逃げて逃げて。
 とりあえず人気の無い路地裏まで逃げて来た健太と香恋。
 急に走ったので、二人共息が上がっている。

「ここまで来れば大丈夫かな」

 健太がそう言うと、香恋は出血している彼の頭部にハンカチを当てた。

「ごめん、先輩……私のせいで怪我させちゃった」
「俺は別にいい。むしろ謝るべきは俺の方だ……勝手に変身してゴメン」

 路地裏の壁にもたれかかりながら話す二人。
 とりあえず健太の出血を止めるのが先だ。
 香恋がカバンから救急セットを出そうとしていると、足音が近づいてきた。

「良いねぇ……良い物語の匂いがするよ、キミたち」

 健太と香恋は警戒しつつも、声の主の方を見る。
 そこに居たのは、先程健太がぶつかってしまった金髪の女性であった。

「この人、さっきの」
「俺達に何か用か?」
「そう警戒しないで欲しいなぁ。ワタシはただの読み手であり、語り部さ」

 金髪の女性の言葉を理解できない健太と香恋。
 すると金髪の女性は健太の傷に気づいた。

「おやおや。頭を怪我しているのかい? それは治さなきゃねー」

 そう言うと金髪の女性は、何処からか突然、自身の身長程ある杖を取り出した。
 驚く健太と香恋。
 だが健太はこの杖に見覚えがあった。

「インジェクトロッド!? なんで」
「ワタシがそういう存在だからさ。ほら、怪我を治してあげる」

 金髪の女性が杖を振ると、本当に健太の怪我は治ってしまった。
 ハンカチについていた血まで消えている。
 それを見た香恋は心底驚いていた。

「うそ……変身も、プラグインも使ってないのに」
「どんな手品か分からないけど、アイツは不味い!」

 金髪の女性に危機感を覚えた健太は、香恋の手を引いて逃げようとする。
 しかし振り返った瞬間、金髪の女性は二人の目の前に移動していた。

「そう警戒しないで欲しいねぇ。別にワタシは敵じゃないよ」
「……インジェクトロッドはバスターズの上級装備。それは流石に無理があるんじゃないのか?」
「警戒心の強い男の子だねぇ。でも本当にバスターズとは無関係だよ。なんならこの杖を渡しましょうか?」

 そう言うと金髪の女性はインジェクトロッドをその場に捨てて、少し離れた。
 健太と香恋の警戒はまだ解かれていない。

「何が目的だ」

 健太が問う。

「簡単な話。キミたちに興味が出たの」
「興味、だぁ?」
「そう。特にそこの男の子……絶望の底に落ちても魂は堕ちていない。そんなキミはどんな物語を描くのか、すごく興味が出たの」
「俺達の事を知ってるのか?」
「それはYESでありNOでもある。さっきも言ったけどワタシはただの読み手で語り部。読んだものしか語れないさ」
「ねぇ先輩、意味がわからない」
「俺もだよ」
「まぁ今は分からなくて良い。ワタシが味方だという事さえ理解して貰えればね」

 妖しい笑みを浮かべる金髪の女性。

「いきなり現れた不審者を信じろってのか?」
「そういう事になるねぇ。でもキミたちには旅の目的地なんて無いのだろ?」
「うぐぅ、痛いところ突かれた」

 香恋がそう言うと金髪の女性は「ハハハ」と笑い声を上げる。

「これはワタシからの提案。キミたち二人に旅の目的地を提供しようと思うんだ」
「……は?」
「どうせ行く当ての無い旅なら、さっさと安住の地に至っても悪くないんじゃないかい?」

 少し考える健太。普通に考えれば明らかな罠。
 しかし彼女が言う「行く当てがない」も事実。
 もしも本当に安住の地が手に入るなら、これ以上ない幸福だ。
 仮に目の前の女性が敵や追手であったとしても、戦う術はある。

 健太はジャケットの内側に仕込んであるインジェクトガンを触りながら、香恋に話しかける。

「香恋……いざという時は、一人で逃げられるか?」
「いざという時は私の好きにするけど……乗るの?」
「行き先なんて無いんだ。賭けに乗るくらいしても良いかなって思ってさ」
「じゃあ私も賭けに乗る」

 健太と香恋は覚悟を決めた。
 それを察した金髪の女性は満足気な笑みを浮かべた。

「じゃあ決まりだ。キミたちを旅の終わりにご案内〜」
「ちょっと待って! あの……貴女のお名前は?」

 香恋に名前を聞かれて、少し驚く女性。
 しかし彼女は妖しい笑みと共に、すぐに答えた。

「ヒカリ先生、とでも呼んでおくれ」

 名乗り終えるとヒカリ先生は、いつの間にか拾っておいたインジェクトロッドを軽く振る。

「さぁて、キミたちの信頼はこの先の行動で得るとして……まずは旅の終わりにご案内しよう」
「どこに行くんだろうな?」

 健太が純粋な疑問を口にすると、ヒカリ先生は「待ってました」と言わんばかりに答えた。

「キミたちの旅の終わり……それはどこか不思議な港町、光里ひかり町さ」

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