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乗り心地の話

今日はクルマの話を少々。

私の愛車は2012年式シトロエンC5。昨年末7年目の車検を通しました。シトロエンと言っても多くの日本人にはイメージが湧かないであろう不人気車種。あえて言えば、乗り心地の良いクルマ、という定評は聞いたことがあるかもしれません。では乗り心地の良し悪しとは何か?

これ、私、明確に答えられません。(爆)

以前、敬愛する自動車ジャーナリスト(にして元日産の開発テストドライバー)の笹目二朗氏にこの質問をぶつけたところ“クルマの動き、路面の状況に関わらず、タイヤがなるべく正しく接地していてその状態があまり変わらず維持できているクルマは乗り心地が良く感じるものですよ”という主旨の回答を頂きました。

そのための手段の一つとして、サスペンション・アームを極力長くとることがあるとも。サスペンション・アームが長く、サスペンションのストローク(トラベル量)が長ければ、同一量のボディ上下が発生した際にタイヤのキャンパー角変化が原理的に少なくなるから、と。

大型車が小型車より総じて乗り心地に有利なのは、重さだけではなく、サスペンション・アームを長く取りやすいからだとも言っていました。

そしてタイヤが正しく接地していれば、乗り心地だけでなく当然のことながらハンドリングも良いクルマになるんです。しばしば乗り心地の良さとハンドリングの良さが二律背反のように語られるけれど、自分の考えではそれは違って、乗り心地が良いクルマはハンドリングも良い、となるはずなのです、と。

その日の笹目さんの乗り心地の良いクルマの要素の話には、バネの硬さやダンパーの減衰力という、我々素人が乗り心地やハンドリングを語る際に最初に話題に挙げる要素は一切出てきませんでした。

そして私の次の質問は、笹目さんが今まで乗った中で一番乗り心地がよいと思ったクルマはなんですか?

これには即答で“プジョー504”と答えられました。リヤトレーリングアームがホイールベースの半分丸々の長さがある、あんなクルマ他に見たこと無いですよ、と。笹目さんの豊富な経験をして最も乗り心地が好いのはロールズでもメルセデスでもシトロエンでもなくプジョーなのですね。

プジョー504は、私はエジプトで一度乗ったことがあるだけですが、確かにその乗り心地の良さは強烈に印象に残っています。実にソフトでフラット。しかも私が乗ったプジョー504はその時点で10年以上は経った個体だったと思います。それでも驚くほどフラットで”あたり”のソフトな乗り心地だったことに感銘を受けたこと鮮明に憶えています。504以外のプジョーでも、個人的な経験として405SRXは504を髣髴とさせる乗り心地だった記憶もあります。プジョーは、特に凝ったサスペンションではなくとも、伝統的に懐深くフラットな乗り心地を実現してきたのだと思います。

翻るに私のシトロエンC5、7年経っても乗るたびに乗り心地が好いな~と感心しております。乗れば乗るほど身体に馴染んでいくような。

で、ある方が仰っていたのですが、このタイヤ・ホイールのサイズでこの乗り心地は脅威だと。そのサイズとは245/45R18。

私自身、こんな大きく太く平べったいタイヤ、初めてです。今まで自分が所有したクルマで一番大きなタイヤは、BMW325の225/50R16でしたから、それよりも二廻り大きく太く一回り平べったい。

そして最近感心しているのが、現在55000km超を走破し、3セット目のミシュランの減り方が、ものすごく綺麗に均等に磨耗しているように見えること。私が今まで所有したクルマたち、5000kmも走るとフロントタイヤのショルダー部分が偏磨耗して丸まってくるのが普通だと思っていました。でもC5のタイヤにはそういう兆候が見られない。245という幅広いタイヤが均等に路面に押し付けられているのでしょうか?だとしたら笹目さんが言っていた“タイヤがなるべく正しく接地していてその状態があまり変わらず維持できているクルマ”なのかもしれません。

だとすると、C5の乗り心地の良さは、しばしば語られる“ハイドロ”であることばかりでなく、サスペンションのリンク・アームが“タイヤが正しく接地した状態を変わらず維持する”ように見事に設計されているのではないかと想像します。

ハイドロはあくまで“バネとダンパー”の部分であり、サスペンションを構成する要素の言わば“半分”に過ぎない。残りの半分はC5の場合であればフロント=ダブルウィッシュボーン、リア=マルチリンクである“サスペンション・アーム”の部分です。

そしてC5(を含む80年代半ば以後のシトロエン)はこのサスペンション・アームを含む所謂プラットフォームをプジョーと共用化しているのは広く知られています。

だとするとC5の乗り心地の良さはシトロエン伝統のハイドラクティブ3プラスと呼ばれる“電子制御油気圧バネダンパー”と、プジョー伝統の“タイヤを正しく接地させるサスペンションアーム”の相乗効果によるものなのですね。

しかしシトロエンは、残念ながらこの1955年に発表されたシトロエンDSから受け継がれた伝統のハイドラクティブ・サスペンションを「コストが高い」という理由で2015年を最後に廃止してしまいました。かつてはメルセデスが特許料を払ってまで採用した素晴らしい技術が、コストを理由に廃止されてしまうのは極めて残念なことです。

私のC5は歴史上最後のハイドロ・サスペンションのモデルとなってしまいました。出来るだけ長く乗り続けたいと思います。

(サムネイルは笹目二朗さんがもっとも乗り心地が良いと評したプジョー504)



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