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たらの芽

体調が悪い話ばっかり書いているような気もする。
昨日は夜になってからなんだかぽっぽしているような熱っぽいような気がして体温を測ってみたら7度4分あった。それまでビーズクッションに半裸で埋もれながら仕事の愚痴など喋りまくっていた彼が、わたしが体温を測り始めた途端、どうしたの?とスンとして静かになり、具合悪いの?大丈夫?と心配し始めておもしろい。超ぐったりではなく余裕がある時の微熱というものは、人に見せびらかしたくなる。ピピピっと鳴った体温計の数字を見せる。
「え、熱あるよ、どうしたの、大変」
「いや、具合悪いわけではないんだけどさ、ちょっとぽっぽしてるから測ってみたの。多分花粉と黄砂?あとここ数日寝ながら食いしばっちゃってて肩こりすごいから?」
「大変、肩揉んであげようか、背中押す?もう寝る?」
「ちょっと背中押して」
優しくされちゃった。熱が出て得したような気分だ。

今年の花粉はものすごいと予報を聞いたような気がしていたけど全然じゃん。律儀に薬飲んでたけどもう飲まなくてもいいかも〜なんて先週までは呑気だったけれど、一気に気温が上がって桜も咲き始めたらやっぱり目鼻が痒い。耳も痒い。春は浮かれてお外でピクニックしなければならない季節なのに、その時期に外に出ると辛いのは悲しいことだ。

でも、花粉症が辛くても、春はやっぱり嬉しい。
ふきのとうが終わって、次はたらの芽が始まった。
昨日も彼が仕事の後、日没までのわずかな時間に収穫してきたたらの芽を天ぷらにした。予定ではポトフとサラダとおにぎりで軽めの夕飯だったのだけど、収穫物があったなら仕方がない。獲れたてたらの芽を天ぷらにして、ついでにちくわの磯辺揚げも。ポトフは汁もの代わりに。他、サニーレタスと新玉ねぎとわかめのサラダ、油揚げ食べ比べ、ボラの煮付け半身、おすそ分けのとんかつ。トンチンカンな食卓だこと。
たらの芽の天ぷらは塩より天つゆが絶対においしいとわたしは思う。
実家の庭でもたらの芽が取れて、時期に一度はたらの芽天ぷらと蕎麦を鱈腹食べる日があった。娘っ子は蕎麦を好まないから、うどんと蕎麦と両方を用意して今年はやろうか。

たらの芽といえば天ぷら一辺倒だったけれど、ばぁばが作ってくれるたらの芽のおひたしがとてもおいしい。茹でて、刻んで、ちょっぴりの砂糖と醤油と鰹節で和えているらしい。作ってもらって喜んで食べているばかり。これは自分で作っても味の塩梅が決まるか難しそうな気がする。今度やってみよう。わたしはそのおひたしをカマンベールチーズを齧りながらつまむのが大好き。むかし家族で泊まったペンションのお夕食に、カマンベールチーズとアボカドを角切りにして鰹節とお醤油で和えたものが出てきた。気に入って、時々母が真似して作っていたのを思い出す。

熊本で師事していた亜衣さんの教室で、たらの芽と鯛の春巻きを作ったこともあった。ちょうど先日は手元に豊島の鯛とたらの芽が揃ったので、ごはんの仕事の時に作った。すこし余った食材で作った賄い春巻き、とっても美味しかった。鯛って、とても鯛の香りがする。ティーンエイジャーもいる外国の方たちだったから、苦手かなと心配したけど全員ぺろり。
春巻きって楽しいな。なにを巻いてもおいしい。

今日の昼、ばぁばがたらの芽のおひたしを持ってきてくれた。
「これ、畑の分」
去年たらの芽にどハマりした彼は山で収穫するだけでは満足せず、畑で栽培すると言って苗木を取り寄せて植えていた。
ちょっと前から、新芽が出てきた、味利きしてみな、とばぁばは言っていたが今年は採ったらダメ!と彼が言うから我慢していたけど辛抱きかなかったみたい。あなたよりばぁばのが絶対植物のことはわかっているんだからいいじゃない、と思っていたし、わたしも食べてみたかったからほくほく。
「でもな、やっぱりちがう、あかん思て、酢いれたわ」
山のたらの芽を食べ慣れていたら確かに物足りない味。
でも半分残っていた油揚げを焼いて、一緒に食べたら最高だった。

物足りない時に酢を入れる、という発想の素を彼女はどんな風に得たのだろう。きっと知識ではなく経験則に寄るその閃きが、尊い。

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