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パジャマデー

今日はパジャマデー。
Art Center Ongoing(吉祥寺にあるアートギャラリー)のカフェで働いていた時、北アイルランドから滞在制作に来ていたアーティストのディアドラが「みんな絶対にパジャマデーが必要。ベットの上でごろごろしてマニュキアを塗り直すだけ、みたいな日が。」と力強く話していたことをいつも思い出すパジャマデー。真っ赤な口紅を引いたディアドラは英語がそんなに話せないわたしにもたくさん話しかけてくれて、あなたの料理最高よ!とバナナケーキもサーモンパイも惜しみなく褒めてくれた。

娘っ子は早朝、修学旅行に出かけて行った。寝巻きのまま見送り、二度寝。彼は港まで送り届けた後に二度寝していたが8時頃仕事に出かけ、わたしは布団の中から見送って三度寝。起きたら11時。いつもはお昼休みに彼が帰ってきて一緒に昼食を食べるけれど、今日は高松に出張なので帰ってこない。
二人で食べるお昼の時間をわたしは結構楽しみにしているが、ストレスでもある。なぜって時間が流動的だから。だいたい12時過ぎに帰ってくるけれど、ときには12時半、13時。だから12時に帰ってくるかもと思って準備しても、ぽやーっと待つこともある。待つ、というのは余裕がないと苦しい。
わかった、そういう時間はただ待つんじゃなくて自分の能動的な時間にしたらストレスが少なくなりそう!そうじゃん、文章を書いたりしよう!と思ってパソコンを開いた途端に帰ってきたりする。
というわけで、今日はお昼ご飯も作らなくていい。夜に夕食デリバリーの仕事も入っていない。決まっていることは夕方のわんこの散歩だけ。自由。

11時に起きて、トイレに行ってお茶を飲んだら、わんこと目があった。自分の寝床で丸まっていたけれど瞬時に飛び起きて、期待に満ちた眼差しをこちらに向けて尻尾をぶんぶん振っている。朝のお散歩も行ったし朝ごはんも食べたでしょ〜と言いながら、ぎゅっとハグして撫でてやる。換毛期第二弾が始まっていて寝床のブランケットもだいぶ汚れてきたので洗ってあげることにした。古い洗濯機を回す。古い洗濯機は水道と繋がっていないので、いちいちバケツで水を汲み入れなくてはいけない。ということは洗い、すすぎ、脱水をまるっとお任せすることができない。まずは洗い。電源を入れ直して脱水。また切れるので次は新しく水を汲み入れて洗い(これがすすぎ代わり)。もう一度脱水。半手動である。
一回目の洗いの間、もういちど布団に寝転んだらまた眠ってしまった。12時の鐘で起きる。雨が降っている。

昨日届いたパンの包みをひらく。熊本で知り合ったパン屋さんが余剰のでたパンを通販していて、それを買ったのだ。島の食いしん坊たちと分け合うべく切り分け、連絡する。
ときどき、こういうことが起きる。素敵なヘアミストを送料無料になるようにまとめて買ったり、大きなパンを分け合ったり、東北の海産物の注文を募ったり、豆腐の販売会をしたり。こういうことは他の場所でもありうるのかもしれない。ご近所でまとめてお取り寄せをして分け合うようなことは。わたしが数年間、自立して暮らしているのが豊島だから、ここでこういうことを経験しているだけかもしれない。この地での暮らし方や友人たちとの関係が特別なわけではないかもしれない。そう考えもするけれど、この暮らしが気に入っているし、特別だとも思っている。英語を話す人に英会話レッスンを頼んだり、庭のハーブを分けてもらったり、柑橘や花を交換し合って、貴族茶会を開くような暮らしが。

ひとりで自由だから、このパンを焼いて朝ごはんみたいなお昼ごはんにすることにした。パンを切りながら、洗濯していたことを思い出す。なんてこった、まだ水に浸かっているということだぞ。しかも雨が降っているねえ。
放置するわけにはいかないので、脱水。
自分が食べる分のパンをトースターに入れて、ミルクティを作る。雨で肌寒い日はミルクティが気分にぴったり。
脱水が終わった音が鳴ったので、今度はすすぎのために水を汲む。途中でトースターにパンが入っていることを思い出して慌てて台所に戻った。トースターも魚焼きグリルもそうだけれど、扉を閉めてしまうと簡単に忘れる。大学の研究室をお手伝いしていた時、整理整頓に燃えていたら「おまえは戸棚の中にしまって見えなくなったらそれでいいと思っているだろ」と教授に言われ、その通りです、と思ったことが蘇る。扉を閉めて視界から見えなくなったものは存在しないも同然だ。
トースターはタイマーをかけたので安心して続きの水を汲み入れ、無事にちょうどよく焼けたパンを食べた。

桜のことも歯痛のことも書きそびれて、春はあっという間に過ぎ去っていく。
藤と桐の花が、濡れた新緑の中で紫に滲む。


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